私は北条早雲(ほうじょうそううん)の子・幻庵(げんあん)です。
1498年、早雲は深根城で前の堀越公方・茶々丸(ちゃちゃまる)を討ち取り、伊豆国の平定を果たしました。
早雲さんはこの時、67歳になっていたんだよ。元気だね。
早雲は戦で荒れた深根城跡の一帯を立て直し、韮山城に戻ってきたのは翌年の1499年でした。
迎えたのは早雲の嫡男・伊豆千代丸(いずちよまる)でした。
伊豆千代丸「父上、お帰りなさいませ。」
早雲「うむ。伊豆千代丸、そろそろ元服だな。」
伊豆千代丸くんは12歳だね。
伊豆千代丸「はい、その前に父上に聞きたいことがごさいます。」
早雲「ん、何だ?」
伊豆千代丸「普段から民を大切にする父上がなぜ深根城に籠もった女、子供らを斬ったのは何故にごさいますか?」
早雲は顔を曇らしました。
早雲「伊豆千代丸、国を治めるには民を大切にせねばならん。」
伊豆千代丸「はい。」
早雲「わしは四公六民の制度を敷き、民に慕われた。皆、わしを信じ、わしに従ってくれた。」
伊豆千代丸「深根城にいた女、子供も殺すことなく、味方にすればよかったのでは…?」
早雲「深根城に籠もった女、子供は深根城に従っていた兵や民の縁者。生き残しては恨みを持ち、いずれは反乱に繋がるのだ。」
伊豆千代丸「…」
早雲「此度のことで民やわしの家臣にも示しがついたであろう。わしは甘いばかりではないのだ。国を治めるには飴と鞭を上手く使わなければならんのだ。」
伊豆千代丸「国を治めるには必要なことだったのですね。わかりました。」
早雲は伊豆千代丸を見て安心しました。それだけ深根城の民を殺害したことに心を痛めていたのです。
それから、しばらくして早雲は伊豆千代丸を連れて駿河国の今川氏親(いまがわうじちか)殿を訪れたのです。
氏親さんは早雲さんの甥で早雲さんの働きで今川氏の当主になれたんだよね。
早雲が氏親殿を訪れたのは伊豆千代丸の元服の件でした。
早雲「氏親殿、我が嫡男に氏親殿の諱(いみな)を頂きたいのです。」
氏親「叔父上はわしにとって大恩人。叔父上の嫡男なら、願ってもないことです。」
早雲「これはありがたい。」
氏親「伊豆千代丸、いい後継ぎだな。よし、我が氏の字を与えよう。元服して氏綱(うじつな)と名乗るがよい。」
伊豆千代丸「氏綱、ありがとうございます。」
伊豆千代丸は元服して伊勢氏綱(いせうじつな)となったのです。
つづく…
次回をお楽しみに〜