「学資保険はいらない」は本当か!? | 池上秀司のブログ

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先日、住友生命が学資保険契約に関して、元本割れ部分を賠償する和解をしたというニュースが報じられました。この件の問題は以下の2点ではないかと思っています。

問題①:元本割れの説明不足
問題②:払込期間中に支払われる学資金を受け取らない場合は、満期まで保険会社所定の利率で積み立てられるが、その利率は景気によって変動するのに契約時(1990年前半)の「高い利率が続く」前提で示した金額が将来確実に受け取れるような説明をした


学資保険を大きく分ければ、「ご契約者の身に万一があると、その後の保険料支払いをしなくても学資金が受け取れる」というタイプのものと、それプラス「ご遺族に一定金額の保険金が年金形式で支払われる」というものがあります。この「年金形式で支払われる保険金」のことを【育英年金】といいます。つまり、育英年金つき学資保険は保障が多い学資保険といえます。

今回問題となった商品は「育英年金つき学資保険」でしたので、保障部分が多く元本割れすること自体は当たり前といえます。ですから、元本割れよりも「元本割れに関する説明を端折った」「積み立て部分の利息でその元本割れが確実に解消できるという期待を抱かせた」という点が重要だということです(元本割れがダメということであれば認可が下りないでしょう)。

以前から「学資保険は損だ!」といわれていたので、今後さらにそういった気運が高まるでしょう。しかし、私はそういった騒ぎとは距離を置いて冷静に考えていただきたいと思っています。例えば、住友生命の件が公になった直後、以下のような記事を見ました。

学資保険なんていらない ~教育資金の貯蓄と、元本割れした人の対応策~
中嶋よしふみ


気になった点を要約すると、

■学資保険は戻り率が110%など払った以上にお金が戻ってくると強調されているが、20年近く払い続けて運用もするのだから低利回りでもこれくらいのリターンは十分達成できる

■銀行預金との差額は戻り率が110%でも決して大きくない

■200~300万円位のわずかな生命保険は掛け捨てならば月に数百円で加入できる。教育費について万が一に備えたいならば生命保険に少し上乗せすればいい

■リターンはリスクもセットで考えるという当然のことをやるべき

■結論として、学資保険はいらない。元本保証がしっかりなされる預貯金や個人向け国債で十分

という感じですが、実はこの論調、住友生命と同様の問題をはらんでいるといえます。

では、30歳のお父さんがお子さんのために日本生命の学資保険に加入したとしましょう(画面は日本生命HPのスクリーンショット)。

契約者:30歳(男性) 被保険者:0歳 / 保険期間(払込期間):18歳
基準保険金額:100万円 / 月払保険料:12,180円

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12,180円を18年間支払って18年後から5回に分けて総額300万円もらいます。払込期間中にお父さんの身に万一があると300万円をご家族が受け取ります。支払保険料総額は2,630,880円なので37万円増えます

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では、上記記事の通り、預貯金と掛け捨て保険(定期保険)で考えてみます。定期保険30歳・男性、保険金額300万円、保険期間20年(18年がないので)でオリックス生命のFineSaveという商品に加入すると675円です。確かに数百円です(オリックス生命HPのスクリーンショット)。

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日本生命の学資保険の月払保険料12,180円からこの保険料675円を引くと11,505円残るので、これを預貯金で積み立てればいいということになりますが、普通預金の金利は現在0.02%です。では、11,505円を0.02%を半年複利で運用したら18年後いくらになるでしょうか?答えは

約249万円(20%税引き後)

18年間で利息は5千円にも届きません(利回り計算はこちらのサイトが便利です⇒利回り.com)。その後は学資金として取り崩していくのですから、18年目以降に得られる利息も微々たるものです。

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5年物の定期預金なら0.45%程度のものがあるようです。それで11,505円を積み立ると18年後は約257万円。学資保険の総支払保険料263万円に届いていないのですから、その時点で実質的には元本割れです。あくまで目安かつ単純計算ですが、11,505円を毎月積み立てで300万円にするには2.5%程度必要です。それは現在の普通預金金利(0.02%)の125倍ですから、低金利とは到底いえません。

12,180円の使い道という観点で考えます。日本生命の学資保険なら18年後300万円受け取れます。学資保険を止めて数百円の保険に入って、残りを預貯金で積み立てる方法は学資保険より将来の受取額が少なくなります。この例では40万円~50万円。この額があれば大学の半期の授業料一回分に充当できますが、これの「大きい、小さい」は各自でご判断ください。だた、この額が「小さい」のであれば、正直いってなにやったっていいでしょう。

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「リターンはリスクとセットで」と書いてありますが、ここでいうリスクは掛け捨て保険料負担でしょう。月12,180円の学資保険をやめて月11,505円を貯めていけば、その分だけは確かに元本割れしません。しかし、それと引き換えに発生する「掛け捨て保険料負担(月675円)」を預貯金利息が上回らなければ実質的な元本割れは解消していません

「110%程度は低金利でも十分達成できる」と書いてありますが、11,505円を300万円にというのは低金利の預貯金では達成しないどころか、12,180円の使い方で考えれば実質的には元本割れするというのは上記の計算でご理解いただけるでしょう。書いている本人がリスクをセットで考えておらず、この観点が致命的に欠落しています。お粗末です。

ということで、「預貯金+掛け捨て保険」は学資保険よりも将来の受取額が少なくなり、保険料負担まで考えれば実質的には元本割れが想定されるのに、それを伝えていません。これは住友生命における問題①「元本割れの説明不足」と同じようなものです。

そうすると「こんな低金利はいつまでも続かない。将来金利が上昇したら受取額は増える」という反論が返ってきそうですが、それは住友生命での問題②「不確実な将来の高金利を確実に得られる期待を抱かせる」ことと変わりません。可能性はありますが確証はありません。確証のないものを確実だと思わせ、利益が得られると錯覚させるのは問題のある話法です。

ですから、「学資保険なんかやめて、貯金と掛け捨て保険だ!」といって数字も出さずにそちらに誘導するのは、方向は逆ですが話の中身としては住友生命の問題と大して変わらないということです。

「積み立て期間中の元本割れ」という観点で考えた場合、学資保険なら将来は元本割れから回避できますが、「預貯金+掛け捨て保険」の場合、最終的にも元本割れなのですからずっと元本割れということです。これも認識されていませんね。

まぁ、だからといって「皆さん学資保険に加入しましょう」ということでもありません。それぞれの生き方、考え方、なにより「好き嫌い」もあるでしょうから、数字を見た上でお好みの方法を選んでいただければいいと思います。ただ、私は「間違ってはいない学資保険という選択」をした消費者の皆さんに、適当な感覚で「間違いだ」とする論調を原因に不安になって欲しくありません。本件はFPが金融商品の目利きをするときには冷静に数字を伝えるべきという実例です。

なにより「預貯金+掛け捨て保険」では学資保険より資金繰りが悪化することがあり得ます。最優先で改善されるべきは、学資保険の商品性ではなく根拠も数字も出さずに情報発信者側が消費者に不利益を与える可能性を伝えず、そちらに誘導している点ではないでしょうか。保険契約であれば、各種法令によって消費者が守られることもありますが、FPやメディアがインターネット上で適当なことをいっても、住友生命のように賠償してはくれません

ですから、私も含めたFPやそれを取り扱うメディアにはより慎重さが求められます。現状を改善しなければ、私達は過去から学ぶことを放棄しているようなものです。

続きがあるので、それは次回に。