【ショートショート】帰ろうガソリンアレイ | hideking225のブログ

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 俺はガソリンスタンドで車を停めドアを開けた。ため息をついて外へ出る。最近流行りのセルフサービス店だ。なんかさ、いつも思うけど、疲れてるときとかさ、面倒な時は店員がガソリン入れてくれればいいじゃんね。言うほど安くねぇし。はぁ~メンドクサイ。
 給油口にノズルを差し込み、時計を見るともう夜の7時。煙草を咥えると火をつける。はぁあ。今日も何も変わらず一日が終わってしまう。昨日と同じ今日。今日と同じであろう明日。はぁあ。空、高いなぁ。空を見上げる時間、最近増えたなぁ。もっとさ、なんかこうパッションに満ちあふれた大人になるって思っていたのに。はぁあ。どこ押してもため息しか出てこない。
 ガソリンの給油が終わり車に戻ると煙草を投げ捨て、そのまま洗車機のところまで車を走らせた。精算機にコインを入れると、勢いよく回りだす洗車ブラシを見つめる。
 洗車機のブラシがフロントガラスに達したその時だった。
 突然、あたりが真っ白な光に包まれた。あまりの眩しさに目が眩む。洗車機のバシャバシャと車を洗う音だけが鳴り響く。
 何分、いや何秒か、気がついたらさっきの光は収まり、何事も無かったかのように洗車の終了のランプが点滅していた。
 なんだったんだ、あの光は。さぁ、メシでも食いに行こう、そうしよう。エンジンを掛け、車を走らた。正面の道路に出ると、何か違和感を感じた。
 あれ?こんなとこにこんな看板あったっけな。なんだろ、なんか懐かしい雰囲気。
 んんん?あ!わかった!これ俺がガキだった頃の世界だ。なんだ、何があったんだ。もしかしてタイムスリップとかってやつ?
 とりあえず俺は道が少し広くなってる路肩に車を停め車外に出た。
「あ、あの、そこのお兄さん! 今日って何月何日? いや、わかってるんだけどね、一応、念の為に聞いているだけだからね、いや、怪しい者じゃないからね」道を歩いていた若者に聞いてみた。すると怪訝な顔で「え?あ、19〇〇年〇月〇日です」とだけ答えると、そそくさと居なくなってしまった。
 あ、ありがとね。わお、ということは30年以上前じゃん。マジか。どうしよ。でもとりあえず腹ペコペコで死にそうだからメシでも食って作戦考えよう。そうしよう。にしてもこの辺子供の頃以来だからな~。なんかなかったっけかな。
「兄さん、探し物かい?」
 キョロキョロしながら歩いていると、一人の痩せた若い男に声を掛けられた。
「あ、はい、あのお腹空いちゃって、どっかご飯食べ」そこまで言ってから相手の顔を見上げて息を飲んだ。
 目の前に立っていたのは、間違いなく若かりし日のマイファーザー、すなわち俺の父親なのであった。

 

 俺は一瞬カッと頭に血がのぼった。そうさ、俺がまだガキの頃、この男が外に女作って出て行ってからというもの、俺と3つ離れた妹を、母さんが女手一つで大変な苦労をして育ててくれたんだ。立派かどうかは別として。
 そんなお袋も妹が結婚した2年くらい前から体調壊して入退院を繰り返しているんだ。それもこれも全部こいつのせい。俺の仕事がうまくいかないのも、彼女が出来ないのも。
 でも、まてよ。俺は奴の顔をじっと見つめ、ふと考えた。
 もうこれで2度と会えないかもしれない。どうせなら同年代であろう親父と一杯飲んで語ってみるってのも悪くない。何しろ腹も減ったし。
「ん? どこかで会ったことあるかな? うちのかみさんの身内? なんか顔似てるもんね」
「そういうのいいから、とりあえずメシ食いに行こうよ。腹ペコなんだ」
「お、おう、そうだな」と、親父の案内でそこから少し歩き、居酒屋ののれんをくぐったのだった。
 中に入ると、女将さんから、あら〇〇ちゃん、いらっしゃい、とかなんとかよっぽど常連なのか、親しげな感じで挨拶されている。
「兄さん、なんにする?」
「あ、じゃあ俺、ビールで」
 出てきた瓶ビールをグラスに注いでもらい、一杯目を一気に飲み干した。
「おー、いけるねー!もう一杯いく?」
「あ、ああ、じゃあ、次は芋焼酎、ロックで」
 そんな感じで飲み始め、出てきた肴に箸をつけつつ、聞かれたことに何となくぞんざいに答えながら飲み続け、次第に酔いがまわっていった。
「兄さん、子供はいるのかい?」
「は? 居ないよ。誰かさんのせいで仕事詰めで彼女もできねーし。まああんたに言ってもしかたないけどね」
「子供はさぁ。いいよ。うん。兄さんも早くつくりなよ。俺はさ、嫁さん子供連れて出て行っちまって、どんなに会いたくてももう会えないのさ」
「なんでだよ、女作って出て行ったのはあんただろ、なんでそんな事言うんだよ!」
「はあ? 誰がそんな事言ってるって? 俺が子供捨てたりするわけねーじゃねーか。子供に会えないのはな、死ぬほど辛いぞ」
「じゃ、じゃあなんで別れたんだよ!」
「そんなこといいじゃねーか。なんで初対面のあんたにそんな事喋らなきゃならねーんだ。こっちにはこっちで色々あるんだよ。まあ今日は楽しく飲もうや」
「全然楽しくねーし。つか、あんた本当に女作って出て行ったんじゃねーんだな?」
「そんなわけないじゃねーか」
 酩酊状態の中、突然睡魔に襲われた。こいつの言うことが本当なら、俺は誰を恨んだらいいんだ。
「兄さん、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。悪いけど、さっきの俺の車のところまで送ってもらっていいかな。そこで一眠りしてから帰るよ」
「あぁ、わかったよ」
 俺は親父の肩にもたれかかり、フラフラした足取りで自分の車のところまで辿り着いた。
「じゃ、じゃあここでいいよ、ありがとう」
「なあ、俺さ、いつか自分の子供と会えるかな。一緒に酒飲めるかな?」そう親父がポツリと呟いた。
「絶対飲めねーよ。飲めるわけねーよ」
「はは、そんな事言うなよ、じゃあな」
 親父はそう言い残すと、暗闇の中に消えていった。
 はーあ。なんか変な一日だったな。これきっと夢だよな。疲れてるのかな。とりあえず車のドアを開け乗り込むと、シートを目一杯倒し目をつぶった。


 あいつ、意外といい奴だった、よな。

 

 すると突然、轟音とともに再びあたりが光に包まれた。あぁこれで帰れる、のかな。

 

「今日午後7時頃、東京都内のガソリンスタンドで、大規模な爆発事故があり、店員の男性3名と洗車中の男性客が1名、爆風に巻き込まれ、たった今死亡が確認されました。くりかえします……