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戦争で死ぬのは「運命」などではない

(C)2015「母と暮せば」製作委員会

母と暮らせば


1945年8月9日、長崎市街地に投下された原子力爆弾によって医大生の浩二(二宮和也)はこの世を去る。一人になった母信子(吉永小百合)は浩二の婚約者だった町子(黒木華)に助けられながら生活していた。3年が経ち、悲しむのをやめようと決意したその夜、信子のもとに浩二の幽霊が現れる。


(C)2015「母と暮せば」製作委員会


ニノが参加した山田洋次作品を初見。脚本は山田本人と愛弟子平松恵美子の共同執筆。キャスト、セリフ、演出…どこを切っても山田ワールド。丁寧にワードを選んでいるからセリフが綺麗。ともするとリアルじゃなくて硬い。それも作家性。


本作はいつもの山田作品とは一味違う。戦後の長崎が舞台。アメリカが落とした原爆で家族を失った主人公。残された者と死んでいった者との対話。浩二の幽霊は本当に存在したのか。そう考えると、戦争が与えた傷の深さが痛々しい。


冒頭の被爆シーンは強烈。「え?」という瞬時の出来事。何が起きたかもわからず「死ぬかも」とすら思う間もなく「消える」。この暴力、許されていいはずがない。運命だと諦める息子に言う。止められたはずの戦争で死ぬのは運命ではないと。


(C)2015「母と暮せば」製作委員会


男はつらいよ」シリーズなど庶民の目で人のふれあいを描いてきた山田。令和に描く、戦後の庶民の目は怒り。多くの国民は悪くない。戦争を計画した者、止めなかった者が悪い。山田の温かな目のまなじりは上がっていたことだろう。


ニノは棒読みなのか。いや、山田脚本の特徴だからみんなそう。丁寧な言葉で、喜怒哀楽を明確に。山田ワールドを最も体現していたと言ってよい。ストーリーを引っ張るのは山田作品にも多く出演している吉永。事実上の主役。


黒木は「小さいおうち」からの連続起用。これも信頼の証し。国際俳優浅野忠信は贅沢な使い方。小林稔侍橋爪功は山田組常連。小学生の本田望結がいた。ザ舞台役者加藤健一がカッコいい。意外と映画出演は少ないので実は貴重。


(C)2015「母と暮せば」製作委員会


温かいヒューマンドラマと思ったら「生と死」と反戦を描いたメッセージ作品。長崎ということを意識したのかクリスチャンの死生観が色濃い。「運命だからしょうがない」…誰のせいにもできず、怒りの矛先を失った人々への鎮魂歌。


死を描くラストは賛否があるだろう。が、死は誰にでも等しく訪れる。例外なくだ。いつまでも「死=バッドエンド」ではないだろう。安らかに死を迎えるために一生懸命に生きる。僕もそういうことを考え始めるお年頃だ(笑)



 DATA

監督・脚本:山田洋次/脚本:平松恵美子/音楽:坂本龍一

出演:吉永小百合/二宮和也/黒木華/広岡由里子/本田望結/加藤健一/小林稔侍/橋爪功/浅野忠信



hiroでした。



小さいおうち←山田洋次×黒木華


東京家族←山田監督といえばこんなイメージ


武士の一分←キムタク主演の山田作品