#20 TOHO_NIHONBASHI


あなたがここにいるから


(C)2023 Kyrie Film Band

キリエのうた


新宿の路上で歌うキリエ(アイナ・ジ・エンド)は通りかかった派手な身なりのイッコ(広瀬すず)と出会う。歌う以外は声を出せないというキリエだったが、なぜかイッコに気に入られ、部屋に連れて行かれる。翌朝目覚ましたキリエはメイクを落としたイッコの顔を見て、帯広の高校時代に唯一の友だちだったマオリだったことに気づく。



(C)2023 Kyrie Film Band


まっ白い雪原。「もう、終わりだね、君が小さく見える」…キリエの囁くような歌声。冒頭からその声に持っていかれる。五感に響く、ヤバいくらいセンセーショナルなオープニング。BiSH解散後のアイナが初主演した本作を公開初日に鑑賞。


初めに言っておく。BiSHが好きでなかでもアイナ推し。「スワロウテイル」の岩井俊二小林武史の新作主演。迷わず初日に駆け込んだ。映画感想ではあるが、その辺増し増しなのはご承知おきを。そんななので冒頭からガッツリ掴まれた次第。


(C)2023 Kyrie Film Band


キリエ、イッコ、夏彦(松村北斗)の三人の「喪失と救済」の物語。大切な何かを失ったからこそ、大切な人を守ろうともがく。その姿を時系列をバラして描き、徐々に相関が浮かび上がる構成。ひとつひとつを紡ぐことになるので詳細は触れないでおく。


新宿中央公園。都庁が建つ前、学生時代によく行った場所。思い入れのある場所がクライマックスで出てきて歓喜。学生時代…一番無敵だと勘違いしていた頃。キリエが高層ビル側に向かって伸ばした手。その手指になんかジンときた。



(C)2023 Kyrie Film Band


路上シンガーのキリエを演じるアイナ。その声と存在感が本作のベース。声を出さないから演技力は無関係? 否。BiSHのステージ同様、アイナの表現力が虹彩を放つ。キリエのキャラは適材適所。アイナはキリエになっていた。


広瀬の汚れ役は珍しい。本作ではアイナを完璧にリード。松村の普通の役は良い。普通を演じる人って結構貴重。黒木華は「リップヴァンウィンクルの花嫁」に続く教師役。村上虹郎はミュージシャンにしか見えない。矢山花七尾旅人のコラボ、最高。



(C)2023 Kyrie Film Band


正直、言葉足らずの脚本ではある。特にイッコ。なぜマホリは「イッコ」になったのか。劇中、二つほどのセリフで済ませているが、掘りが浅いのでイッコだけが少し浮いた。寓話のようにフワッとした映像詩人岩井作品にはありがちではある。


あの災厄ですべてを失ったキリエ。何もなくなったキリエを守ってくれるはず法律や制度は何も守ってくれない。それどころか大切な人を次々と奪っていく。そして歌までも奪われそうになったとき、キリエは立ち上がり、そして唄った。



希望とか見当たらない

だけどあなたがここにいるから



 DATA

監督・脚本・原作:岩井俊二/音楽:小林武史

出演:アイナ・ジ・エンド/広瀬すず/松村北斗/矢山花/黒木華/大塚愛/安藤優子/奥名恵/村上虹郎/笠原秀幸/粗品/松浦祐也/松本まりか/ロバート・キャンベル/江口洋介/石井竜也/豊原功補/七尾旅人/浅田美代子/北村有起哉



hiroでした。



BiSH解散ライブレポート!


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