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灰色の未来

(C)2021映画「Arc」製作委員会

Arc アーク


クラブでダンスを披露するリナ(芳根京子)。独創的で客の反応も薄いリナのパフォーマンスだが、たまたま来店したエマ(寺島しのぶ)の目に止まり、名刺を渡される。住む家もないリナがエマの経営する「ボディワークス」を訪問すると、そこは死後間もない遺体を樹脂で加工し、生前のままの姿を保持して遺族に納めることを生業としていた。エマの仕上げの作業に魅入られたリナはエマの弟子となる。


(C)2021映画「Arc」製作委員会


初見。SF作家ケン・リュウの短編小説を映像化。あらすじの続きをサラッと紹介すると、遺体の保存技術を転用して生きたまま老いない体を作る…つまり不老不死が認められる近未来につながるという展開。「生と死」をテーマにしたSFドラマ。


不老不死を唱えたのがエマの弟アマネ(岡田将生)でリナはそのアマネと結婚。不老不死の処置に遺伝子適合しないアマネに代わりリナが人類初の処置者になる。誰も経験したことがない景色の中でリナはどんな体験をするのか。


(C)2021映画「Arc」製作委員会


序盤のクラブシーンが残念。原因はダンスか画かセットか、専門ではないので不明。処置前と処置後で映像が変わる(処置後がモノクロ)。この変化球はナイストライ。薔薇色のはずの不老不死がグレーという暗喩と受け取った。


結果としてありがちなオチに向かう。新技術への反感や経済格差など社会背景を加味したのは原作力だろうか。この背景がないとパンチには欠けたかな。クライマックスのしかけは少々長くて緩くなっていた流れをキュッと締めた感じ。


(C)2021映画「Arc」製作委員会


単独主演となる芳根。貫禄あったり消したり、棘があったりソフトだったり。この自在さ、若いのに凄い。個人的には棘のある、ちょっと怖い役が良い。寺島は最近映像作品の出演が減った。本作では凄みが堪能できる。


岡田はずーっと映画、ドラマに出続けているが、歳を重ねるごとにかっこよくなってる気がしている。風吹ジュン小林薫が絶妙なスパイス。本作のキモと言って良い。超大物倍賞千恵子が大胆かつ贅沢なキャスティングで感嘆。


(C)2021映画「Arc」製作委員会


グレーの近未来。真っ暗なわけじゃないけど、キラキラもしていない。不老不死というお宝を手に入れても、だ。この寂しさ「わたしを離さないで」に似た空気。カズオ・イシグロ、ケン・リュウ…アジア系特有の感性なのかな。


見終わってリナ目線の人生を俯瞰してみると地味だが味わいのある作品だとわかる。世武裕子の静かな音楽もマッチ。短編が原作なので、埋める作業でもあったのかな。無理に埋めず、前半を少しサクッとまとめて、コンパクトにしても良かったかも。



 DATA

監督・脚本・編集:石川慶/脚本:澤井香織/原作・制作総指揮:ケン・リュウ/音楽:世武裕子

出演:芳根京子/寺島しのぶ/岡田将生/清水くるみ/井之脇海/中川翼/中村ゆり/倍賞千恵子/風吹ジュン/小林薫



hiroでした。



わたしを離さないで←と似た空気


蜜蜂と遠雷←石川慶作品


累←芳根のかなり尖ったキャラ