#5_20240313_TOHOシネマズ日比谷


そこから逃げないと

(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

52ヘルツのクジラたち


大分の海の見える町に一人東京から引っ越してきた「きなこ」(杉咲花)。ある日、急な雨で港から家に戻ろうとした時、傷が痛んで気絶。雨に打たれていたところを髪の長い少年(桑名桃李)に助けられる。家に着きシャワーを浴びさせようと服を脱がすと少年は体中痣だらけだった。「きなこ」の中で嫌な思い出とその境遇から救い出してくれた「あんさん」(志尊淳)の記憶が蘇る。


(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会


スクリーン鑑賞を減らしていると大作中心になりがち。それでも心身が疲弊してる時は優しい映画が観たくなる。町田その子の本屋大賞受賞作が原作の本作。そんなことも知らず、ただタイトルに惹かれ、トレーラーを拝見した時にビリビリきて観た。


思っていたのとはずいぶん違った。が、ビリビリきたのは正解。ここ数年で映画館で一番泣いた作品となった。劇中、さまざまな社会問題が描かれる。切なくて、愛おしくて、それでいて救いたい想いがあり、希望がある。しばらく引きずりそう。


(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会


52ヘルツで鳴くクジラ。その声は高音域で他のクジラに聞こえることはない。誰にも聞かれずに叫び続ける世界一孤独なクジラ=声にできないSOSを誰にも気づいてもらえない「きなこ」とその声に気づいてくれた「あんさん」の物語。


「きなこ」も少年の声なき声に気づく。「きなこ」は迷わない。「あんさん」がしてくれたことを少年にする。「家族が呪いになる」「そこから逃げないとだめだ」…「あんさん」の言葉が刺さる。終盤、ある真実が語られると言葉の重みも増す。


(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会


杉咲はハズレがない。特に本作、精神的に自分を追い込み切って評価されるキャラ。きついよね。「市子」も高評価。覚醒期を迎えたか。志尊もキャリアハイと言っていい。何がどういいのかはネタが絡むのでとても言いづらい。とにかく良い。


小野花梨は杉咲のリアル友達。「ハケンアニメ」の初々しさのまま。宮沢氷魚はこういう役やるようになったんだ。西野七瀬はこういう役似合う(笑)。池谷のぶえが出ててご満悦。久しぶりの余貴美子。〆は出汁のたっぶりきいた倍賞美津子


(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会


ネグレクト、家庭内暴力、ヤングケアラー、トランスジェンダー…問題提起されながらなくならないのは問題が表面化しづらいから。声なき声。何もしてあげられなくても「声に気づいてることを伝える」のが改善への第一歩ではないかと。


主人公「きなこ」にも聞こえなかった声がある。その後悔が胸に貼り付く。聞くことは容易ではない。少なくとも聞こえたのなら聞こえないふりはしたくない。GAGAらしい軽さが重さを払拭。ラストカットの海に降り注ぐ光芒が希望あふれる。



 DATA

監督:成島出/脚本:龍居由佳里/原作:町田その子

出演:杉咲花/志尊淳/桑名桃李/宮沢氷魚/小野花梨/西野七瀬/金子大地/池谷のぶえ/真飛聖/余貴美子/倍賞美津子



hiroでした。



青くて痛くて脆い←杉咲作品ナンバーワンだったが…


十二人の死にたい子供たち←杉咲参加の群像劇


湯を沸かすほどの熱い愛←も泣いたなー