先日、早稲田実業の清宮君がプロ野球入りの志望を表明した。

今後も 多くの初々しい球児達が清宮に続いてプロ志望を表明していくだろう。

なんとも羨ましい限りである。なぜなら私は できることならもう一度 野球人生をやり直したいと思っているからだ。

もちろん、叶わね夢などということはわかってはいる。

目は老眼になり、頭にも白髪が混じり、臀筋(お尻の周りの筋肉)も落ちた今となっては現実離れした話である。

それでも「もう一度 現役に戻りたい」という 願いがあるのだから仕方がない。不思議なものである。

これは恐らく、自分の野球人生に 何かしらやり残したという後悔があり その思いが 「もう一度」という願いに現れてしまうのではないか。

そんな事を思いながらぼんやりと清宮君の報道を見ていると、ふっと 幼い頃を思い出した。

私が 初めて 「硬球」というボールを見た小学校の頃の話である。

私は 茨城県の下妻市という小さな町で生まれたのだが 小5の時、西に 20キロ程度 離れた 結城市の結城小学校に転校したのだ。

6年生の時、この結城市は NHK朝の連続テレビ小説「鳩子の海」の舞台の一つとなり 地元では 大いに盛り上がった。番組の最高視聴率は 53.3%、平均でも 47.2%という 今では 考えられない数字であった。

その結城小学校から 道を挟んだ 反対側に結城一高という高校があった。所謂強豪校ではなく、県大会では 1回戦か2回戦ぐらいで負けてしまう高校だったのだが、ある日の放課後、できたばかりの友達からその高校へ「硬球を拾いに行こうぜ」と誘われた。

何を言われているのか意味もよく分からず、ただついて行った。裏門から入り、忍び足で進むとグランドが見えてきた。野球部は 練習していない。

友達は我関せずと、どんどん 進んでいくから「大丈夫か?」と不安になり 声を掛けたのだが 「大丈夫、大丈夫」とそのままグランドの中に入っていってしまった。

私も 恐る恐る ついて行ったのだが、そうこうしているとその友達は ファウルグランドのフェンス近くで硬球を見つけ、さっさと拾ったのだ。

「広沢、早く お前も拾え」

と言うもんだから 私も 言われるがままに ボールを探した。すると、ライト側のポールの辺りでボールを発見した。

躊躇しつつも、私はそれを拾い上げたのだが、初めて触れた感触は今も忘れられない。

それは 凄く硬くて、ずっしりと 重かった。

「これが 硬球か」

小学生の私は震えていた。その震えが、見つかったら大変だという恐怖心からなのか、それとも初めて硬球に触れたという感動からなのか、わからないのだが、ただ震えていたのを記憶している。

そして震えながらも、「このボールを王や長嶋は ホームランを打つのかあ」と、当時テレビで見ていた王さんや長嶋さんのホームランシーンを脳裏に浮かべた。

ハッとなって、咄嗟にボールをポケットに入れ 急いで その場から逃げてしまった。ある程度逃げたところで ポケットに手を入れ硬球を取り出した。

革の感触、重さ、何より 小学生の手には収まらない大きさ、小5の私には全てが衝撃的だった。

私はその小さく「結城一高」と印字された硬球を大切に家に持ち帰り、以来勉強机の引き出しに入れ それを見るたびに「プロ野球選手になりたい」との思いを強くしたのだった。

今思えば、結城一高の野球部の皆さんには 大変 ご迷惑を掛けてしまった。実は この話も 私は 長い間 忘れていた。

清宮君の報道から自身の古い野球の記憶を色々 思い出しているうちにまさか、このボールをくすねてしまった話まで思い出してしまい、反省している。

私の明治大の後輩に宮崎県でオリジナルバットを作っている者がいる。彼は 宮崎牛の革でグローブを作るなどという奇抜なアイディアを持っているのだが、今度この男に頼んで 結城一高の野球部に何か贈ろうと思う。

アマチュア規定に抵触しないように何か考え、45年前の無礼を謝罪しよう。その顛末は 謝罪が終わった時にまた ブログで報告します。


さて、今週のタイガースだが どうやらこのまま 2位は キープしそうだ。これが仮に 3位となるようなことがあればそれはもはや「事件」である。

残り試合も 8試合となり、3位とのゲーム差も「4.5」、野球は 何が起こるか分からないが ほぼ 2位が 確定したと言っていいだろう。

昨夜(24日)の試合、DeNAの先発は今永で 本格派の左投手だった。

私にはチームの内情は 分からないが、これまでの戦いや時期、そして 育成を考えば 中谷や大山がスターティング・メンバーに名を連ねるだろう、と期待していた。しかし、彼らの名前は無かった。

誤解の無いように もう一度 言わせて頂くが 内部事情は分からない。だが、なぜ、中谷や大山がベンチスタートなのか 私には 理解できない。

本来は対戦成績や相性、その選手の調子など 色んな事を鑑み、スターティング・メンバーを決めるのだろうが、将来を期待すれば、つまり、「育てる」ことが優先順位の筆頭ならば 中谷や大山は欠かせない。

その一方でファームの試合では 北條や高山、板山に緒方と今春のキャンプで期待された選手達がスターティング・メンバーに名を連ねている。

春のオープン戦終盤には、北條は 鳥谷を追い出す形で「遊撃手」というポジションを奪った。そして高山は昨年 新人王というタイトルを獲得し2年目に大いに期待が持てるオープン戦だった。

ところが、シーズンに入ってみると二人共に調子を落とし、現在に至っている。

「人を育てる」というのは「我慢」だと私は思っている。

その選手の潜在能力を信じたリーダーが 我慢に我慢を重ねて、やがて選手は その期待に応える。これが人を育てるという事だと理解している。

何を隠そう、この私だって我慢して貰った人間だ。土橋監督や関根監督、そして 野村監督に我慢して頂いた。

私だけでは無い。池山も小川さんも、川崎も内藤も、飯田に岡林、そして古田も、みんな当時の監督に我慢をしてもらって、育った選手達なのだ。

それを間近で見ていた私は 「育成は我慢」であることを身をもって知っている。

中には順風満帆に成功の階段を駆け上る選手もいる。天才と分類される選手達だ。ただ、そんな選手は ごくごく わずかだ。

当時のヤクルトは 低迷していた球団だったので 余計に 「育てる」という事を重要視していたのかもしれない。

しかし、タイガースだって 2005年以来、優勝から遠ざかっている事を考えれば、低迷しているとまでは言わなくても 決して 万全なチーム作りだったとは言えない。

これは クライマックス・シリーズの功罪なのだろう。確かに消化ゲームが無くなった事は良い事だが、このシリーズがあることで育成という所がおろそかになってしまったのもまた事実ではないか。

クライマックス・シリーズが無かったら、今頃は 消化ゲームなので 高山や北條、板山や緒方は 一軍の試合に出ている可能性が高い。

昨夜の試合だって、中谷も大山も試合に出ていただろう。

しかし、まだ数字の上では2位が確定していないので 俊介やロジャース、そして福留を使わざるを得なくなる。

優勝する為のチーム作りをするのか、最低でもAクラスを維持し クライマックス・シリーズに出る事を「最低限」としてチーム作りをするのか、難しい選択だ。

これまで クライマックス・シリーズ進出を犠牲にしてまで チーム作りに徹した監督は見当たらない。4位のチームも5位のチームも進出の可能性があるのなら クライマックス進出に全精力を傾けてしまうというものだ。

それにしてもいつの日か、タイガースにも カープの丸や菊池、田中みたいな選手が出てきて欲しい、と願うファンは多いハズだ。

昨年までのヤクルト山田の活躍やDeNAの筒香の豪快なバッテングを見る度に「 隣の芝生」ではないが、こんな選手がタイガースにも出てきて欲しい、と願ったファンは多いハズだ。

しかし、このままでは このクラスの選手はタイガースには出てこない気がしてしまう。

消化ゲームに限らず、シーズン中でもチームの成績を度外視した「育成」、それを我慢するチームとファン、そんな環境が必要なのではないか。

日本を代表する選手、つまり、WBCで日本チームの4番を打つ選手がタイガースから出てくる事を心から願っている。