翌日。現場では、キョーコと百合はまた急に仲良くなるのもおかしいかなと、やや距離を保ったままではあった。しかしそれでも、以前のようにほわんとした雰囲気で会話をしていた。そもそも、女子同士で仲が良くても風紀は乱れないし、京子の収録は最終日。せっかくだからと側にいるのだろうと推測でき、特に違和感なく過ごせていた。


キョーコは、演技は最後まできちんと頑張ったと言えるし、スタッフから「お疲れ様です」と花束をもらった瞬間、今回のドラマの仕事を全うできたことにも満足はした。

ただ、まだ蓮と悟の誤解はそのままという状況に、手放しで「ジブン、お疲れ様〰」という心境にはなれなかった。まずキョーコは、控え室に入ろうとする悟を捕まえて声をかけた。百合のためにも誤解を早く解きたかったし、蓮にはどのように話かけたらよいのかわからなかったから。

「待って!私、どうしてもさと君に話したいことがあって。」
振り向いた悟は、何かを決意したような吹っ切れたような顔をしている。
「うん、実は俺も最上さんに聞いてほしいことがあって。ここじゃなんだから、ちょっとあっちに行こ。」

悟に促され階段を一階降りて、奥まった休憩スペースに二人で移動する。
悟はキョーコを見つめて、決意宣言のようにはっきりとした口調で話し始めた。

「君には…、君だけには言っておかないと、最後の最後で尻込みして逃げてしまいそうで。俺、この気持ちをぶつけるのは、何度もやめようかと思ったんだ。でも、やっぱりダメなんだ。たまらないんだ、この先他の男にあの笑顔で笑いかけるんだと思うと。だから今日、告白することに」
コツ、コツ、コツ。
階段を降りてくる革靴の足音が、言いかけた悟の言葉を遮るように響いた。

「その話、聞き捨てならないな…。」
よく通る低音ボイスが、低温の空気と共にキョーコと悟の間に落ちてきた。

二人とも思わず降りあおぐ。思わぬ人物の、冷気を伴った登場に凍りついた二人だったが、悟はいち早く自分を取り戻すと、蓮に向かって向き直った。
「…敦賀さん、あなたと俺は同じ気持ちを持っているようですね…。」

階段を降りきった蓮は、悟を正面から見据えた。
「それは、宣戦布告ととらえていいのかな。」
上から押さえつけるわけではない、でも、悟がそのつもりなら一歩も引くつもりもないという意志をにじませた強い口調だった。

「ええ、そうとってもらってかまいません。たとえあなたが相手でも、かなわないとわかってはいても、やっぱり俺は諦めません!諦められない!
俺は…!俺は百合さんのことが大好きだから……!」

悟は蓮から視線をそらせることなくまっすぐに叫んだ。

「…は…?」
瞬時に攻撃的な雰囲気が消え失せ、蓮は無防備に突っ立った。

そんな蓮と対峙していた悟も、蓮の変わりように驚いて固まっていた。
キョーコは、オロオロと二人の顔を見比べている。

その後、我に返った蓮から、百合とは本当に何でもないこと。お互いに外野に騒ぎ立てられて非常に迷惑していたこと。そして、これは余計なお世話かもしれないが、百合とのことは是非とも頑張ってほしい、応援していると伝えられた。

そして、ちょうど蓮の話が終わった頃、階段をゆっくりと降りてきた百合が、顔を真っ赤にさせておずおずとその場に現れたのだ。




「それにしても、杉山君が北園さんをね…。全然気が付かなかったな。大した役者だよ。」
「ですよね!私も打ち明けられた時はびっくりで。
実は今度百合さんと女子会する予定なんです。今日のこと、報告してくれるかもですよね。ふふふ、楽しみだなあ。」
車内は、最近のぎこちなかった雰囲気が嘘のように和やかな空気で満たされていた。

あの場に百合が来たあと、場の流れで蓮とキョーコは退散した。

「送っていくよ。」
という蓮の誘いを断るわけもなく、キョーコは蓮の愛車の助手席に乗り込んだのだった。

(すごいな、さと君も百合さんもちゃんと頑張って気持ちを伝えようとして。それにしても、二人とも照れ照れしてて、見てるこっちがいたたまれなかったな〰。)
キョーコは先程のことを思い出してごっそり赤面していた。

蓮が運転しながら時間をチラリと確認する。
「8時か。この近くに美味しいパスタ屋があって、パスタ屋にしては個室が多いから、モデル仲間とよく行くって北園さんが言ってたな。最上さんのドラマの打ち上げも兼ねて晩御飯食べてく?」

「打ち上げだなんて恐縮ではありますが…。晩御飯、ぜひご一緒します!社さんが、最近敦賀さんがあんまり食べないってぼやいてましたからね!今日はきちんと食べ終わるまで見守りますよーぅ!」

キョーコは助手席から軽く身を乗り出して、大きな瞳をくりんっとさせて蓮をのぞきこんだ。その様子を視界の端にとらえた蓮は、一瞬無表情になったが、
「そ…うだったかな…。でも、最上さんがそばで俺を見つめていてくれるんなら、今夜は美味しく食べられそうだよ?」
と、ふわりと笑う。

「っっ!!ぱ、パスタかあ〰何ソース食べようかなっ。あ〰お腹空いちゃいましたっ。」
蓮の神々スマイルを久しぶりに至近距離で浴びたキョーコは、湯気が出そうな程顔を真っ赤にして、サッと助手席に座り直して視線を前に向けた。

「あっ。い、今頃、二人もごはんに行こうって話してるかもですねっ。」
手はワタワタとしており、完全に挙動不審だ。そんなキョーコを満足気に見た蓮は、
「クス。うん、そうだね。さっき、別れ際に『俺も頑張る』って北園さんに言ったから、ちゃんと頑張っていい報告しないとね?」
先程までふんわり笑顔だったのに、少し緊張したような表情になる蓮。

(…頑張る?頑張ってごはんたくさん食べるのかな…?ドラマの主演だし、体力勝負だもんね。モデルのお仕事もあるし。百合さんから、これ以上サイズダウンしないようにちゃんと食べましょうって指摘されたのかも。…敦賀さんたら、私に口にごはんを押し込まれるとでも思ってるのかな、顔が少し緊張してるみたい。ま、それでも、今日は私の責任において敦賀さんにしっかり食べさせちゃうんだから!)

「いっよーし!お腹いっぱい食べちゃいますよー!」
キョーコは拳を斜め前に高く振り上げた。

優しげに微笑んだ蓮は、青信号に変わったのを確認し、ぐっとアクセルを踏み込んだ。



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ど素人二次小説でして、皆様のお目汚しになって申し訳ないです。
ドラマのこととか全然わからないので、適当に描いてしまっています。
「みんなの恋」は、キョーコちゃんの視点は一旦幕引きしまして、あとは蓮視点で終着点までもっていきたいと思っております。