どーも。

皆さん、前回のお話を忘れちゃってるから、話がわからないですよね……………すみません(´・ω・`)

えっと、このお話は、『突拍子も無いアイデアを出した娘さん』と、『そのアイデアを己の欲望を満たすことに利用しようとした小狡い片想い男』と、『覗き魔娘さん』のお話なんですよ。




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だ、抱き締めるっ?
しかも、色んな角度からっ!?

そんなことするのっ?

そこまでするのっ?

私のために?
それってどんだけお人好しなのっ!?

それとも、敦賀蓮さん!そこまでドラマを完璧にやりとげたいの!?

仕事の鬼!?

鬼なの!?




私がそんなふうに動揺しながら、ドアの隙間からこっそりと中を覗き見ると、敦賀蓮はその体躯で京子ちゃんをふわりと包んでいた。

「ぅぐっ」
変な声をあげる京子ちゃん。
チラと見える京子ちゃんの目は、見開き固まっている。


…あれ?京子ちゃん、そんなに固まってどうしたの?『敦賀さんの抱っこは気持ちいいんだよ』って言ってたのに……………。実は本当は……………京子ちゃんも嫌なの?恐いの?



「……………ん〰、固いな。最上さん、力抜いて。そんな丸太棒みたいじゃ俺の抱擁は研究できないよ。」

「は、はわいっ……………わたくし、い、いかようにっ?」

「うん、要は、君は俺の真似をしたいんだろう?だから、俺がどんな風に最上さんを抱き締めているかを、五感で感じるんだ。」

「は、はいぃっ、」

「俺の筋肉の動きや、抱き締める君に伝わる温度、俺の手や足や顔の位置………それらの情報を獲得、そして小花さんに再現して提供するんだよ。」

「はぃっ、」


その敦賀蓮の発言を聞いていて、私には疑問がわいてきた。なぜなら、誰かの行動を真似したいのなら、体感するのは一度だけでよく。あとの研究は、むしろ第三者として外側から観察した方が得られる情報は多いのじゃないのかしら、と。その部屋には鏡は無いから、京子ちゃんは、敦賀蓮の動きを外野からは見ることができない。……………この方法だと、効率が悪くないかな。




「いい?最上さん。しっかりと俺に抱き締められて、俺を抱き締め返して。……………あのね、小花さんとは劇中で、割りと接触が多いんだ。それを全部実演するからね、しっかり覚えて。……………はい、まずは俺を抱き締め返して。」

「だ、抱き締め返す……………ですね?」
京子ちゃんは、ただその場に立っていた体を動かしておずおずと敦賀蓮の背中に両腕を回す。

「もっとしっかりと抱きついて。これじゃあ密着度が足りないな。俺と小花さんが演じるのは、恋人との抱擁だ。……………わかるよね?」

「は……………はぃぃ〰……………」

二人がその腕に力をこめて、ぎゅうっとお互いに密着していくのが私からでもわかる。


「……………そう、上手。」

………………………………………な、んだか……………敦賀蓮の声、甘…………………………

「は、ぃ。」

あれ?京子ちゃんの声も…………………………なんだか……………



たっぷりと何十秒か、二人はそのままだった。

その時だ。私は敦賀蓮の表情に驚愕した。

敦賀蓮は、ずっと僅かに顔を私の向こう側に傾けていたのでその表情を見ることができなかったのだが、顔がこちらに少し動いた。そして、私は胸中で叫ぶことになる。





なんって顔してんのーーーーーっ!!

あっまーーーーーーぃ!!

お目め、トロトローーーー!!
頬ゆるゆるーーーー!!

敦賀蓮さん、しーあーわーせーそーーーーーっっ!!!








「最上さん……………ど……………?俺の抱擁……………ちゃんと感じてる……………?」

「は……………ぃ。」

「……………ん。いいこだ。」




おいおいおいおい!!!
なんだ、これ?
どういう状況!?





そこで京子ちゃんの顔がちらりと見えて、これまた私は驚愕した。


ほわ…ん………………と夢見心地な、安心しきったその顔は、京子ちゃんが今どれだけうっとりと敦賀蓮の抱擁を享受しているかを物語っていた。そして、その手は思わず、といった感じで敦賀蓮のシャツをきゅう、と握っている。





………………………………………あ、まただ。

また、なにか掴めそうな……………
なにかわかりそうな……………







「……………じゃあ、次は子供抱っこバージョンだよ。」

しばらくまったりと抱き合っていた二人。先に抱擁を解いたのは敦賀蓮だった。

「……………ふへ?」
キョーコちゃんの、少し寝ぼけたような力の抜けた声。


……………あ、そうだ。京子ちゃん、『敦賀さんの抱擁は、何も考えられなくなる』って言ってたっけ……………。実際にボーッとしてたもんね。


「最上さん、子供抱きするからね。」

京子ちゃんから体をゆっくりと離した敦賀蓮さんは少し屈むと、京子ちゃんの膝裏に左腕を差し入れて、右腕は京子ちゃんの腰に回すと、京子ちゃんをヒョイと持ち上げた。


……………おおっ、軽々と!

京子ちゃんは、「はわっ」とびっくりして、目の前にある敦賀蓮さんの頭にしがみつく。

「ふふっ、高い?」

それはそれは嬉しそうな敦賀蓮の声。

「高いっですーっ」

「少し怖い………?……落ち着くまでそのまましがみついてて。」
京子ちゃんの胸元に埋まる敦賀蓮の声はくぐもっている。

「小花さん、きっとびっくりしますね!こんなに高いなんてっ、敦賀さんが落としちゃうなんて思って無いですけどっ、でもやっぱり高いものは高くてっ、」
そわそわと慌てたような声で、京子ちゃんは捲し立てた。

「うん。誰かにこうやって持ち上げられることって、大人になるとなかなかないしね。この抱き方は、本当にしっかりとしがみついてくれないと不安定だから……………、小花さんには少しハードルが高いかなあ。」

「っあ、本当に頭にしがみついたままですみませんっ、」

「いいよ、しっかりとしがみついてくれた方が俺も楽だし。」

「っあ!重くてすみませんっ」

「重くないよ……………ちょうどいいくらい……………だから、このまま……………ね?」


………………………………………あ、あのぅ。敦賀蓮さん。あなた……………も、京子ちゃんの胸元に顔を埋めすぎじゃないです……………かね?……………声が……………すごく『うっとり感』満載なんです、けど……………


「で、でも、やっぱり重いかと……………もうやめ」
と京子ちゃんが体を離しかけたその時。

「くるくるってしてみよっか。」

「っえ!」

「劇中では小花さんのこと、こうやって抱っこして、くるくるって回るんだ。だから最上さん、ちゃんとしがみついてねっ。……………いくよっ」

「……ぅぁ、」

「はい、くるくる〰っ!」

「っきゃ、ぎゃうぅぅ〰〰っ!」



それはそれは楽しそうに、京子ちゃんを抱っこしたままくるくると回る敦賀蓮さん。


「ひゃううぅぅぅ〰っ!」

「まだぐるぐる〰っ!ははっ!最上さん、大丈夫〰っ?」

文字どおり目を回す京子ちゃんにかまわず、声をたてて笑いながら回る敦賀蓮を見て、疑問がまたひとつ。……………いや、確かにそういう演出はあるけど。あるけども。いくらそれを京子ちゃんに伝授したところで、京子ちゃんには私を抱き上げて回るなんて実演は無理だと思う。いや、100%無理だ!断定できる!…………それに、だから敦賀蓮。なんでそんなに楽しそうなの〰っ!?



「あははっ、たくさん回った回った、さすがに目も回った、」

笑いながら敦賀蓮は、自分にしがみつく京子ちゃんを抱えたまま、そばにあるソファにドサリと腰かけた。その体勢の変化に気づいたのか、京子ちゃんはそろり、と顔を上げる。

「っひゃ」
敦賀蓮の顔が思いの他そばにあったことに驚いたらしい京子ちゃんは、体を離そうとした。

それを腰にあてがった手でとどめる敦賀蓮。

「次の抱擁いってみようか。」

「ぅは、はぁいっ、」
反射的に返事を返しているふうな京子ちゃんは体にあまり力が入らないようで、くにゃくにゃとしている。その体をよいしょと反転させた敦賀蓮は、自身の膝の間にキョーコちゃんをおろし、後から抱き込んだ。

「…………………………っっ!!!」
京子ちゃんが息をつめるのが、空気を震わせて伝わってくる。

「恋人達の定番、『テレビは後から抱っこで試聴』、の図だね。」

京子ちゃんを背後から柔らかく、でも、京子ちゃんの肩口に顎を預けて寸分の隙間もないように張りつく敦賀蓮。そして、敦賀蓮のするがままに体を預けて、全身を赤く染め上げている京子ちゃん。


あー…………………………私、ピンときちゃった。