そっか……………ぁ。なるほど……………。
二人はいわゆる、『両片想い』ってやつなのか……………。

一度気付いてしまえば納得で。

逆に、私はどうして今まで気づかなかったんだろうとさえ思った。

…………………………うん、まあ私自身、初恋もまだだしね。恋愛音痴以前に、『恋愛』が『わからない』んだけどね。










「…………………………ふひゃっ……………敦賀、さんっ」
京子ちゃんの跳ねた声で、私の意識も現実に戻る。


「……………ん、最上さん、どした?」

……………な、なぬっ?
敦賀蓮、甘×10倍の声!


「ぇうっ、……………そのっ、おなかに……………ゴニョゴニョ」

「……………ああ。俺が君のお腹を撫でていること?」

「はぅっ、……………そ、そーれす…………」

「……………恋人同士の抱擁なんだから、お腹も撫でるよね……………」

敦賀蓮、声甘×20倍っっ!!


「……………そ、そうかもれすけろっ」

「……………ふふ、可愛い手だね……………」

「…………………………ぅひゃぅっ」

だから敦賀蓮、京子ちゃんの手を触る手つきが、なまめかし過ぎ!!

「それに……………柔らかい。」

敦賀蓮は、京子ちゃんを撫でていた手をそのまま上から絡めて、指と指とを擦り合わせた。


「〰〰〰〰〰っ!」

京子ちゃん、顔真っ赤か……………

「最上さんの手……………例の時はいつもグローブ越しだったから……………。でも、今は素肌同士……………うん、やっぱり、違うね……………。」

……………『例の時』?……………ああ、京子ちゃんも、『仕事なような、仕事じゃないような』って言ってた……………。その時のことかな。

…………………………と、いうか、あの『身長差』ドラマのト書きには、お腹を撫でるなんて無かったような…………………………それに、敦賀蓮たら、手もあんな撫で撫でして指と指とを絡めて、すり付けて……………………………………………………うん、そんなシーン無かったぞ!


……………なにゆえ……………?





っあ、あー!!…………そっか……………そっか!敦賀蓮たら、『演技の練習』にかこつけて、単に片想いの相手の京子ちゃんにスキンシップをはかっているのねぇ!
そうなのね!!


……………敦賀蓮、そ、そんなことするんだ!


へーー…………………………。

な、なんだか姑息………というか、必死……………?





「最上さん、は、さ。」

「……………はぃ、」

「結果的に……………俺の抱擁…………再現できると思う?」

「……………あ、……………う、……………っとぉ」

「……………できない…かもしれない?」

「……………!!…………………………ごめ、なさっ」

えあっ、そうなの?京子ちゃん、再現はやっぱり無理?


「謝ることない。」

「いえ、いえ、だって、ここまでしていただいたのにっ、敦賀さんにこんなに協力していただいたのにっ、なのにっ、」

「でも、研究したからこそ、再現は困難だとわかったんでしょ?やったかい、あったよ。」

「ふ、腑甲斐無い後輩で……………」

「腑甲斐無いんじゃない、……………だって………最上さんは、女の子なんだから、」

っおーーー!!!
敦賀蓮、声、甘×30倍!!!


「…………………………!!」

「最上さんの身長は、163cm………俺とは27cm差だね。……………俺の腕の中にすっぽりとおさまる女の子の体だから……俺の抱擁を再現できないんだよ。君の演技力の問題じゃない。」

「っあ、で、ですがっ、そこをえ…演技力っで、カバーとかっ、」

「…………そう?本当に演れると思う?…こんなに…細い肩で………?」

「っ!」

敦賀蓮は、京子ちゃんの肩をするりと撫でた。

「こんなに、甘い匂いがするのに?」

そう言って、敦賀蓮は京子ちゃんの髪に鼻を埋める。

「ぁぁ、ぅ……………、」

「こんなに柔らかくて……………抱き心地がいいのに?」

敦賀蓮は、深く、強く体を密着させた。

「ニットが縁取る、このなだらかな曲線も……………頼りない首もとも…………しなやかな腕も……………君だけにあって……………俺にはないものだ。」


うっがっっっ!!!!!
なんってことをぉぉっ仰るのぉっ!!!


敦賀蓮は、京子ちゃんに「今度はこっち向きの抱っこね……………」と小さく優しく伝えて、ガチガチな京子ちゃんの体を自身の体の上で反転させる。

「膝、開いて俺の脚の上を跨いで、そう、そのまま腰を落として……………」

京子ちゃんは、ただされるがままで、顔は相変わらず真真っ赤なままだ。

「ね、最上さん、ど……………?」

敦賀蓮はそこで、先程ジャケットを脱いでTシャツ一枚になったその自身の体へ、京子ちゃんの手を導いた。胸元と、そして腕に。

「……………『ど?』っと、言われましてもっ、それはいかような質問でっ?」

京子ちゃん、声裏返り過ぎ……………。
当たり前か……………この状況じゃあ……………。


「君と……………違うでしょ?俺の体。」

「……………は、はあっ、左様で!左様でございますねっ!神が造形したでありましょう、この完璧なる体躯にあらせられば!バランス、見目共に麗しく!この平民!いえ!最下級の凡凡人の薄っぺらりんな体とは違「そういうことじゃなく。」」

「……………っ、」

「……………そういうことじゃなく……………ここ、とか。ここ、とか……………」

敦賀蓮は、自身の体にあてがった京子ちゃんの手のひらを、その上から自分の手のひらで押し付けることで、京子ちゃんの手のひらを更に密着させる。

「……………ぇ、あぅ……………」

「最上さんは、どうなの……………。小花さんは嫌いだって言う、俺の身長とか……………鍛えた体とか……………ここまでお互いの体を近づけた状態でも『好ましいもの』だと思ってくれてる?頼りになるとか…って思える?……………それとも……威圧的?圧迫感を感じる?」

「っで、ですからっ、神の寵児「そういう意味じゃない。」」

「……………っ、」

「……………離れた所から客観的に観察した構造物として、俺のことをどうかと聞いているんじゃない。……………一人の男としてどうなのって聞いてるんだ……………」

「そ、んな、こと」



あ、あれ?こ、この流れは…………………………ま、まさか…………………………、



「……………うん………。……君がそんなことを考えたことがないのはわかる。……………ちゃんとわかってるよ。」

「あ、の」

「でも…………俺は違う。……………違うんだ。今回のドラマの話をもらった時だって、俺はすぐに思ったよ?俺と最上さんとは27cm差だなって。例えば、立ったまま最上さんと抱き合ったら、最上さんの頭は俺のこの辺りにくるな、とか、目線を合わせたいなら、やっぱり座った状態で抱き合った方がいいな、とか。そんなふうに……………。」

「……………」

「何センチ差が理想だとか、何センチ差がああしやすいとかこうしやすいだとか、お似合いだとか……………そんなことは、どうでもいいって……………。俺は……………27cmがいい、最上さんが、いい。……………抱き締めやすさとかは関係なく、俺は最上さんを抱き締めたい。最上さんと、色々したい。」

「……………るが、さっ、」

京子ちゃんから、悲鳴のような声が上がる。


「ドラマの中でもずっと、相手の女性を最上さんだと思って演じてきた。最上さんは、俺のこと………そういうふうには見れない?」

「っ……………つる「俺を、ただ、男として見られない?こういうふうに俺に抱き締められて、少しも」」
『ピリリリリリ、ピリリリリリ、ピリリリ…………………………♪♪♪』


「…………………………っふ〰〰!!………………………………………はい。………………………はい、わかりました。それなら、今からかなり急がないといけませんね。……………はい、俺の方はすぐに出られます。社さんは……………」





………………………………………………ったーー!!!


……っくり、した!
びっくりした!!
超びっくりした!!!




その敦賀蓮の携帯の着信音に。

敦賀蓮の、気持ちを無理矢理切り換えようとするような、息が大きく吐き出された音に。

私は突如気づいた。私自身が息をしていなかったこと、そして変な汗をかいていることに。

なんだか心がむず痒くて、高揚しているような気持ちで。じっといていられなくなった私は、その場を走り去った。










敦賀蓮、何を言おうとしてたのっ!?
あんなに切なそうな、必死な、あんな、あんな顔をして、京子ちゃんに何を言おうとしてたの……………?


や、やっぱり……………まさか…こ、告白っ?
告白なのっ?敦賀蓮は、告白しようとしてたのっ?
そんな、感じだったわよね……………そんな雰囲気だったわよね……………。



…………………………でも、でも………最後の方に見えた京子ちゃんの顔は………表情は…………………………傷ついたような……………ショックを受けているような……………戸惑ったような……………そんな……………感じで…………………………









結局私は、そのあと仕事場に行っても、夜になっても、そして朝が来ても、京子ちゃんと敦賀蓮のことが頭から離れず。

そこで。私は夜にはLINEを送信することになる。

『京子ちゃん、何度もごめんなさい。身長差のドラマのことでまた力をお借りしたいです。』

そんな、ドラマを口実にしたLINEを。

でも、口実とは言いながら、実は本当にドラマのことで力が借りられるかもと思ったのは、本当のことだった。敦賀蓮と京子ちゃんの、二人の関係の行方が気になる気持ちも本当だけれど。今、京子ちゃんにぶつかってみれば、そうすれば、私の心の壁を壊せそうな、そんな予感があったから。トラウマ、という名の、心の壁を。