どうもです。

ちなみに。社さんはキョーコちゃんの上司なので、「最上さん」と呼んでいます。


真ん中くらいで、ややアダ〰ルト(笑)な表現があります。嫌いな方は、ご注意ください(≡人≡;)







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「なるほどな〰、蓮は元々最上さんのことを好きだったけど、親父さんから見合い相手を強要されていて精神的に病んでいたと。ところが蓋を開けてみたら、その見合い相手が最上さんだったということか。」

蓮の説明を聞いた社は、感心したようにうなずいた。

蓮は、社に鏡のことは話さずに『家同士に強要されたお見合い』ということにして、大筋だけを伝えた。

「はい、そうなんです。まさかのまさかでした。」

「……………で、最上さんの方も実は蓮に想いを寄せていたと。」

「………はい。」
恥ずかしそうに、でもひどく幸せそうに俯くキョーコを、社はあたたかい目で見た。

「すごいな、ドラマみたいじゃないか。それにしても、世間て意外と狭いんだな〰。」

「ええそうですね。……………おかげさまで、俺も元通りの体調どころか、キョーコの手料理と食育のおかげで健康そのものです!」

「おーおーのろけちゃってからに。」

「はい!!キョーコの作る食事は最高なんですよ!どこが最高かというと、栄養価はもちろんのこと。旬「ちょい待てぃ!大きな声で『はい!!』ってな、少しは恥じらえ!」」

浮かれまくりの蓮と、口ではたしなめながらも祝福ムードで嬉しそうな社。キョーコも嬉し恥ずかしくてしかたなかった。

「……………あ、でも蓮?なんで4月の部署異動の時はあんなに嬉しそうだったんだ?できたてほやほやのカップルなら、同じフロアーにいた方が『目と目で会話ー』とかできるだろうに。……それとも逆に恋人同士では仕事がしづらかった?」

「あ、まあ、仕事がしづらかったのは、無いとは言えませんが。仕事中は彼女のミスをキツく注意したりしますしね。」

「うん、たしかにそうだな。」

「でもそれよりも、彼女の先輩として、社会人として早く成長したかったっていうのが大きくて。やっぱり、彼女に憧れてもらえる存在でい続けるには、色々なことを経験していかないと………もう少ししたら、法的にも………彼女を守る存在になるわけですし………。」

「……………あ〰………そうか、お前達…………『お見合い』だったな。期日が決まってる結婚が前提条件のお付き合いってわけか。」

「……はい。詳細は訳あって話せないのですが、俺達はどうしても今年中に入籍しないといけないんです。なので、社さんには折り入ってお願いがあります。」

「お願い?」

「はい。……あの、彼女のことなんですけど…。職場ではまだ経年の若い彼女の風当たりが強ければ、それとなくかばってあげていただきたいんです。」

「ふむ。」

「きっと周囲には、『君は若い。結婚はまだ早い、まずは全力で仕事をするべきだ。』と言う人もいるでしょう。俺からも、家のことでしかたなく結婚を早くにしなくてはならないとは明言しますが、その後の人の感情にまでは干渉できませんからね………。」

「うん、わかるよ。そこは任せとけ。えこひいきだとか言われて、逆に最上さんへの苦言が強くならない程度には、最上さんを守ってみせるよ。」

「ありがとうございます。頼りにしてます。…よかったね、キョーコ。」
「はい。」

「おーおー、嬉しそうに見つめ合っちゃってからに……心はひとつってか?」

「…え?…あ、はいっ、もちろん!」

「…って、またのろけちゃうかっ。」

「はいっ!」

「『はいっ!』って………。笑顔満開だな…。お前の顔でお花見できそうだよ…。はぁ、あのさ、少しは恥じらうとか…………そもそも、お前ってそんなキャラだったんだな……。」

「はいっ!よかったら、幸せのお裾分けしますよ!いくら分けてもあとからあとからいくらでもわいてくるので!」

「もういいわ、俺がこっぱずかしいっつーの!……………お裾分けしてもらわなくても、俺んちだって二人目のお腹の子が安定期に入って、幸せいっぱいだし。」

「ええっ、そうなんですか!おめでとうございます!」

キョーコはその話題に嬉しそうに食いついた。

「うん、ありがとう。うちはさ、3人きょうだいにしたいからちょっと急ぎ目にしたかったし、」

「へぇ、3人きょうだいですかー、いいですね!ね、キョーコ、キョーコは子供何人ほしい?俺は、キョーコとの子供なら何人でも…キョーコに似た女の子、可愛いだろうな…でもそのうちお嫁にいくなんて「だからお前は浮かれ過ぎだ!」」



蓮とキョーコからの、社への報告会は、終始和やかな雰囲気で満たされていた。




遠くない過去に、自分が抱く恋慕とその成就が愛する人を傷つけ、同族を不幸に貶める可能性があることに怯えていた蓮。そして、愛する男性(ひと)を地獄に突き落とす悲壮な覚悟をしていたキョーコ。だからこそ、今は二人とも幸せを強く実感している。なぜなら、自分達の関係は祝福されたもので、そして自分達の関係が誰かの人生を狂わせることもない。ただ幸せを噛みしめ、お互いを大切に生きていけばいい。

想いを通じ合ってから、いまだに二人は、嬉しくて嬉しくて仕方なかったのだ。












その日の夜のこと。



「キョーコ…………俺を愛してくれてありがとう……。」

蓮は、キョーコの耳元に想いをこめて囁いた。

一糸纏わぬ姿で、ぴたりと体を合わせている二人。そんな二人の体は、まだひとつに繋がったままだ。蓮は、キョーコが意識を手放したあとも、キョーコの中に居続けた。キョーコは、蓮の愛情たっぷりの、甘く激しい攻めを全身で受け続け、泣きじゃくりながら意識を飛ばしてしまっていたのだ。



蓮は、キョーコと指と指とを絡め、脚と脚とも絡めた。そうして、これ以上は密着できないというくらいまでさらに体を密着させ、願いをこめて囁く。


「…幸せになろうね…………。」


その声は、どこまでもあたたかさと切なさに満ちていた。






















「おお、最上君、聞いたぞ!お嬢さんが結婚するそうじゃないか!水くさいなあ。あらかじめ教えておいてくれたら、きちんとお祝いをさせてもらったのに…。」

キョーコの父『最上一志』は、上司である専務に社内エレベーターで声をかけられて、曖昧な笑顔を浮かべた。

「あ、あ、いえ、まだ結納の段階でして、そんなお祝いというような…」

そう返しながら一志は、ふと思い付いた。なぜ専務がそんなことを知っているのかということに。

先日のこと。社内食堂でたまたま同期と相席となり、年も年なので、お互いの子供の結婚の話になった。一志は嘘をつくわけにもいかないので、キョーコが今年内の入籍となりそうなことを話した。鏡の命(めい)とはいえ、結婚は結婚だ。通常の婚姻同様、役所に婚姻届を提出するのだから、同期に口止めするようなことでもない。きっとそれを、同期がゴルフの付き合いか何かの時にでも専務に話したのだろう。

結局結納は、8月…今月末まで延びてしまった。鏡が突如、結納日を言い渡してきたためだ。




「ん?なんだー浮かない顔をして…。……ああ!そうか!可愛い一人娘を嫁に出すんだもんなあ。寂しいに決まってるか!なるほどなるほど!手塩にかけて育てた大切な娘が、どこの馬の骨ともわからん男にかっさわれるんだもんな!腹を立てない方がおかしいってもんだ!うん!」

一志は自己完結で納得する専務に、是とも否とも答えずに愛想笑いを続けながら、心の中では苦い想いを抱えていた。

(そういう気持ちになれる結婚だったなら、どれだけよかったか。娘を男にとられることが寂しいだなんて、そんな幸せな状況なんて、夢のまた夢だ…………。……………ああ、本当に、なんてことだ。娘が不幸になるというのに、俺は何もしなかった…できなかった………。)


一志はこの数カ月、ずっと同じ思考を繰り返していた。それは、キョーコへの懺悔の念だった。










数日後。

一志はふらつく脚を引きずりながら、夜の街を歩いていた。所属部署恒例の、ビールパーティーからの帰り道だ。今夜の一志は、少し飲みすぎてしまった。酒に酔っている一志の珍しい姿に、部下が心配してタクシーをすすめてきたが、一志は歩きたい気分だった。夜風に当たって、自分の中の行き場の無い渦巻く想いを鎮めたかったのだ。こんな気持ちで冴菜の顔を見て、絶対に言ってはならない、冴菜を責め傷つけるような言葉を言ってしまわない自信も無かった。



実はビールパーティーの最中、社内結婚の発表があったのだ。幸せそのものの二人は、社員達から盛大に祝福されていた。

一志はその二人を見ていてすぐにわかった。お互いの目にはお互いしか映っておらず、二人がどれだけ愛し合っているのか、二人がいかほどの幸福の中にいるかを物語っていた。


『結婚。』


一志は、自身の娘の結婚を想った。
キョーコの人生そのものを、想った。


一志にとってキョーコという存在は、自身の不幸の産物であることに違いはなかった。はじめのうちは、正直抱き上げてやりたいとも思えなかった。しかしキョーコが成長するにつれ、一志には情がわいた。キョーコは、冴菜からは無償の愛情も与えられず、不憫な幼少期を送っていると思っていた。それでもキョーコは『一生懸命ないじらしい子』だったのだ。一志は、キョーコが、かの本当に愛していた彼女との子供だったなら、と思わないでもなかったが、間近で成長を見守るうちに、いつしか、『大切な我が子』になっていたのだ。

だから一志は、密かに願っていたのだ。せめて、せめて。キョーコが鏡の一族であることから逃れられなくとも、人生の伴侶とは、愛し愛される人生を歩むことができたなら。ひたむきに頑張り過ぎてしまうキョーコの、ありのままを認め、包み込んでくれるような男性と人生を歩むことができたなら。そうすれば、自分自身の不遇の人生も報われる……意味のあったものだと、そう思えると。

だが、そんな一志の願いは天に通じることはなかった。鏡は、一志の願いを嘲笑うかのように、キョーコの伴侶として、あの見目秀麗で有能な男を選んだ。『敦賀』は日本でも指折りの名家だ。キョーコは、その家の息子からは気を配られることもなく、一生肩身の狭い思いをして『家』と『鏡』に尽くしていかなければならない。


あの日、我が家にやってきたあの男………敦賀蓮は言った。『見ていてください。彼女を愛し守る、私の姿を見ていてください。そして、私に愛され守られているキョーコさんを見ていてください。きっと……………きっといつか、私のこの言葉が真実であったことがわかっていただけると思います。』と。

その時一志は思ったのだ。(そんな都合のいいことが、あるというのか?……………いや、そんなわけはない。鏡が指示した相手であるキョーコを、彼がたまたま好いていたなんて。そんな奇跡のような幸せがあるわけがない。)と。そして(………でも、なぜ彼はあんな嘘を言ったのか………何かの策略なのか……。いったい彼は何を考えて……………)と警戒していた。


と、そんな時。一志の前を、今まさに脳裏に思い浮かべていた男、蓮が通り過ぎていった。

スーツ姿で会社帰りらしい蓮は、可愛らしいミニ薔薇のブーケを手にしていて、スキップでもしそうなくらいに顔がゆるんでいた。そして、ひとつの店の軒先で立ち止まった。往来の邪魔にならないようにしているのか、建物に体を寄せている。視線はキョロキョロと動き、一志はすぐに蓮が待ち合わせをしていることに気づいた。


そんな蓮は、ショーウインドウに映る自分の顔の有様に気づいたのか、頬をペチペチと叩いて顔を引き締めはじめる。


その様子を見た一志を、強い憤りと深い悲しみが襲った。


(キョーコは、明日まで会社の研修で神戸にいるはずだ。キョーコの居ぬ間にあの男は、本命の相手と相瀬を重ねるのか………!!あんな、あんな幸せそうな顔をして……!きっとあの花束はその女への贈り物だろう。敦賀君……やはり君は本当は、キョーコなんて消えてしまえばいいと思っているんだろう……!くそ!!くそぉ……………キョーコ、キョーコ……!)


一志は、ほくほくと嬉しそうに浮かれている蓮を見つめ、悔し涙を浮かべた。以前一志は蓮に、『キョーコを愛してくれなくてもいい、よそでなら他の女と愛し合ってくれて構わない』と言った。でも、それは大嘘だった。そう、そんなわけはない。キョーコを愛してくれなくてもいいなんてこと、あるわけがない。『蓮にキョーコを愛し慈しんでほしい、他の女となんて別れてほしい』、それが本心だ。でも、『敦賀蓮』はあまりにも完璧すぎた。興信所の報告書にある女性遍歴も錚々(そうそう)たるものだった。だから一志は守りに出たのだ。変に「キョーコを愛してくれ」などと自分が本心をぶつけて頼み込んだせいで、嫌々結婚する蓮を刺激したくはなかったし、それではキョーコも惨めだと思ったのだ。

そう。一志は頭ではわかっている。キョーコがぞんざいに扱われようとも、蓮が他の誰を愛そうとも、蓮に非はない。蓮もキョーコと同様、鏡の被害者なのだから。蓮だってきっと苦しみもがいているのだから。


だからキョーコがいない時くらいは、他の女との相瀬には目をつぶらねば、一志はそう思うのだ。いや、そう思えと自分に言い聞かせ、文句のひとつも言ってやりたいのを断腸之思いで耐えた。





ところが、そんな一志の前で、蓮がひときわ嬉しそうに破顔した。


(あ!敦賀君の待ち合わせの相手が来たのか?)と一志は気づいた。次いで、思った。(敦賀君が愛する恋人……いったいどんな女性なのだろう。そのくらいは盗み見見ても、責められるものではないだろう。)だから一志は恐る恐る顔を動かし、蓮の視線の先を追ってみる。

そして、一志は我が目を疑った。その蓮の視線の先にいた女性こそ、見間違うはずもない、一志の一人娘のキョーコだったから。




そして、次に一志は自身の耳も疑った。
満面の笑みで蓮が言ったのだ。

「キョーコ、おかえり!」と。






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きっと蓮さんは、わふっわふっと大きな尻尾をブンブン振って、その喜びを表しているはずです。
ぽてとが書く成立後の蓮さんは、どうしても大人っぽくならないんですよね〰(; ̄ー ̄A