どーもです……………。


今度は真っ昼間にアップ………。ドロドロだから昼ドラテイストで…?あ、ドロドロなのは、キョーコちゃんの個人的心情です。




を必ず御一読くださいませ。



このお話は、特に、ぽてとが自由気ままに書いていることをお忘れなきよう…………






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「ごめん、本当にごめんね。キョーコ、ごめん。」

久遠は、私に謝り続ける。

朝の光に満たされた明るい寝室のベッドの上。仰向けでバスタオル一枚をかけられた姿で、四肢を力無く投げ出す私。

自分の裸が貧相だと思うのに、残念だから隠したいと願うのに、なのに、疲れてぐったりしている私の体は全く動かなかった。


久遠は、先程目を覚まして入浴しようと思いつき、そこで眠る私も一緒にお風呂に入れてくれたのだそうだ。きっと、重くて大変だっただろうのに。しかもベッドの上で、私の髪まで乾かしてくれて。

……………なんてめんどくさい女なの、私は。



久遠はゆうべ、1回だけさせてほしい、と言った。だけど結局、1回では終わらなかった。…きっと、1回では『物足らなかった』んだ。私が…………何も返せていないから。私がいまだに何のテクニックも無いから。だからつまらなかったんだ。しかも久遠は今、こんなに元気じゃないの。私だけ、こんなに疲れ果てて。そう、久遠は謝ってくれているけれど、ただ私が久遠の体力についていけてないだけ。ただ私が、一般的な男性の持つ欲求を解消させてあげられていないだけ。

……………なんてつまらない女なの、私は。




しかも、久遠は、さっきからずっと私の目を見ない。ずっと頭を下げて謝りっぱなしだ。数カ月ぶりに会った恋人同士なのに。とても久しぶりに肌を合わせたあとなのに。なのに久遠は、私を見ない。




ね、久遠。どうして?どうして私を見ないの?…………くたくたのヨレヨレになって、生気の無い私なんかがっかりだから?…………それとも…こんな凸凹ない体じゃ見るにたえない?ゆうべのスタイル抜群の女の人達と比べちゃう?………ね、そうなの?



そう心の中で久遠に問いかけながら、久遠の下がり続けている頭をぼんやり見ていたけれど。でも、その言葉を私は口に出すわけにはいかない。久遠に、『うん、実はそうだったんだ。キョーコの方から気づいてもらえて、俺が言う手間が省けたよ。わかってくれてるなら話は早い。俺達、もうここで終わりにしよう。』なんて言われたら。そんなこと悲しくて堪えられない。




「……………………ごめんなさい。」

久遠はまた謝る。
そろそろなんでもないふりをして、今は私から解放してあげないと。

「も、久遠………久遠…………………そんなに謝らないで。大丈夫だから………逆に、私が体力が無くてごめんね。」

「いやっ、違うよ……………キョーコは体力あるし……………本当に俺が我慢できてないだけで……………だから、ごめん。」

あ、久遠、やっと顔を上げてくれた。普通に視線を合わせてくれるのね。

「………ふぅ…………………久遠は、ほんとに体力あるよね……………うらやましい。」

私がそう言うと、久遠は少し驚いた顔をして、固まってしまう。

どうしたのかな、そう思っていると、ハッとした様子で慌てて話しだした。

「……………ごめん。……………それで、しかも俺、今から仕事で。キョーコのお世話もできないし、ましてや観光とか行けないし……………。でも夜には帰ってくるから、夕食を一緒にどうかな…?」

仔犬みたいな上目遣いでお願いポーズ。久遠は、かっこよくて可愛いくて、本当に魅力的。……………本当にずるい。……………本当に苦しくなる

「あ、ううん…………いいの、観光は……。……私のペースで過ごすから。だから、久遠は思いきり仕事をしてきて?」

そう言ってゆっくりと笑顔を作ると、まぶたを閉じた。こちらかのアクションを断つことで、久遠にタイミングを提供したかった。私から離れるためのタイミングを。




さあ、久遠、もう行って。
あなたのいるべきところへ。
本当はずっとそっち側にいるべき人なのに、一度でもここに、私のところに来てくれたんだもん。私は、今回はもうこれで納得しました。ね、だから、完全に私に負の感情を抱いてしまう前に、私から離れて……………お願い、ね?




そう思っていたら、しばらく横にいた久遠が「…………………………うん、本当に……………ごめん。……大好きだよ。」と呟いて。そしてその気配は遠ざかり、寝室から出ていった。





ややあって、このスイートルームからも、久遠の気配が完全に消えたのを感じた。




「……………『行ってきます』のキス、してほしかったな……………」

そう呟いた私の声は、もう泣き声だった。












この一ヶ月。私の久遠に対する態度は、明らかにおかしかったと思う。


『え?キョーコに赤ちゃん?…………社さん、あなた何言ってるんですか。そんなの欲しいわけないじゃないですか!要りませんよ!絶対に要りません!』

『冗談でもやめてください!俺はキョーコが絶対に妊娠しないように、いつも完璧に配慮してますよ。赤ちゃんなんて………とんでもない!それこそ………………身の破滅だ………!』

それを聞いてしまった時の私の衝撃は、表しようのないものだった。息が、心臓が止まったかと思った。でもしばらくしたら、それをすんなりと受け入れる自分がいた。

ほらだから言ったじゃないのよ、と。あの敦賀さんが…………久遠が私のことなんかを何年も愛してくれるわけはない。いつか必ず愛は冷めて捨てられる。…………そうだ…自分の考えた通りになったんだから、別に取り乱すことなんてない。ただ残念なことに、認めざるをえなかったことがある。それは、私の中に、久遠との未来を期待している私がいたこと、だ。久遠の、私を大切に扱うその声にその態度に、私と久遠には未来があるのかもしれないと、そう夢をみる私がいたことは、否定はもう無理だった。だとしても、その夢は叶わないものなのだから、私は諦めてなんとか乗り越えていくしかない。


その夜は、泣いて、泣いた。一晩中、泣いた。そして、悲しみは減らなかった。





ところが、久遠はそのあとも相変わらず、電話やメールで私に愛を囁き続けた。『会いたいよ』、『愛してる』、『君だけだ』、『抱き締めたい』、そんな愛の言葉たち。でもそうは言われても、あの久遠の言葉を、本音を偶然に聞いてしまった私は、久遠にどう接していいのかわからなくなっていた。「私はどう返したらいい?」、「何をしたらいい?」、「どうやったら私は少しでも長く久遠の恋人でいられる?」、そう考えて。そして、私は考えれば考えるほど、動きがとれなくなった。

結局はどんなに考えても、答えは出なかったのだけれど。

結果的に、歯切れの悪い返事をする私に久遠は、『体調悪い?疲れてる?』とか『何か嫌なことあった?』と、気遣う声をかけてくれた。私がそれに対して『そうかな、なんでもないよ?』と答えると、久遠は、『辛いことがあるなら話してほしい。なんでも聞くから。……それくらいしかできないけど。』と優しく、でも寂しげに言った。

私だって、嘘なんかつかないで、『あなたに捨てられたくなくて足掻いているんです。どうしたら私を愛し続けてくれますか?』と言えたら、どんなにか。……………でも、できない。別れ話を久遠が切り出すためのきっかけなんて作りたくないから。だから、電話はなんとか誤魔化して、早々に通話を切り上げた。毎回通話を終える度に、なんとか逃げ切れたと脱力していた。




そして、実は。そうでなくても、私は久遠との電話を切ると、いつもホッとしていた。まわりからは、遠恋なんて大変でしょ?寂しくない?って聞かれるけれど、私は全然平気だった。なぜなら、遠恋というシステムのおかげで、久遠に飽きられずにすむから。だって遠恋じゃなければ、私と久遠なんてとっくの昔に別れてる。私がそんなに長い間、あの人の心をひきつけておけるわけがない。私たちは、何ヵ月かおきに会うから、新鮮で4年ももっただけ。ただそれだけ。


そう、全部全部わかってて、逃げて誤魔化して。……………いったいいつまで私は逃げ切れるのだろう。私は…久遠の恋人でいられるのだろう。












夜の20時過ぎ。ホテルの中のレストランで、久遠とのディナー。

料理もお酒も美味しくて嬉しかったけれど、久遠は、じっとこちらを見てくるから困った。何かを探るような、何かを訴えかけるような目。



…………………………なんだろう?
緊張する……………。
もしかして別れ話のタイミングをはかってるのかな…でも、さっきは、すごく熱く抱き締めてくれたし、ただいまのキスもたくさんされたし……………その話はまだ違うよね……………?



「キョーコ、美味しい?」

「ぅ、うん、とっても美味しいよ。………このアボガドにかかってるソース、なにが混ざってるのかな、今度再現してみたいくらい。(もぐもぐ)……………んー、今の旬の真鯵とか鱚とかにも和えても美味しいかも。真鯵ならフライで、鱚なら天ぷらかなあ。サラダ仕立てもよさそう。(もぐもぐ)」

「……………うん、いいね。フライに天ぷら。キョーコが再現したそのソースの料理、俺も食べたい。俺のために作ってよ。」

少し強めの口調でしっかりと話す久遠。……………そ、そんなに食べたいの………かな……?
「……………あ、でも、それは日本でないと。それに6月ももう終わるし……………だから、久遠には作ってあげられない、かな……………。」
少食久遠の、せっかくの『ごはん食べたい』の申し出は非常に嬉しいのですが………現実問題無理では……?

「……………じゃあ来年は?来年なら日本にいるよ。だから、来年のこの時期に、俺のマンションで作って食べさせて。……俺にとっては日本も大切だから、こちらで基盤を築けたし、今後はまたあっちでの仕事も増やそうと思ってるんだ。」

「……………あ、そ、そうなの…………………………あ!そうよ、そうね、黒崎監督とか……………緒方監督とか……………ね、また映画撮りたいよね、うん、わかるわかる!邦画には邦画の魅力が、洋画には洋画の魅力があるものね!みんなてぐすねひいて待ってるよ!ぜひ、ね!」

『来年』のお料理の話には応えなかった。だって来年は、私たちはもう別れているかもしれない。一緒にはいないかもしれない。『来年の〇〇頃には△△しようね』と約束しておいて、実際にその時に約束したことを思い出して、一人悲しく泣くのは嫌だったから。だから誤魔化した。

久遠は、私のそんな切り返しを聞いて、ものすごく悲しそうな怒ったような複雑な顔をしたけれど、すぐに切り替えたように笑顔に戻って映画の話になり、来年の話をそれ以上追究してくることはなかった。


…………あれ…久遠、どうしたのかな?もしかして誤解された?これは、ちゃんとフォローした方がいいかな。『「久遠てばそんなこと言って、どうせ日本に逃げ帰ってくるんでしょ。」なんて思ってないよ。みんな敦賀蓮を本気で待ってるのよ。ぜひ、邦画にもまた出てね。』と言おうかと思ったけれど、逆に言い訳っぽいので辞めた。私が、久遠がどこにいても光輝いていると太鼓判を押していることは、ちゃんと本人に伝わっているはずだ。それに久遠は、また楽しそうに話しているから、蒸し返すこともないかと思った。

……………ただどうしても、久遠のあの表情は私には謎だった。









そのあと久遠にねだられて、恥ずかしかったけれど、二人でお風呂に入った。お風呂の中で泡にまみれて、ゆったりと、ふんわりと、じんわりと導かれ、大切に愛してもらった……と思う。久遠はとても情熱的で、私に愛の言葉を浴びせ、久遠自身も快感に酔ってくれていた……と思う。


それで、私は少しだけ思った……思ってしまった。久遠は、私との子供は要らないけれど、遠恋で時々会うだけなら、これからも恋人同士でいたいと思ってくれているのではないかと。私はまだちゃんと好かれていて、別れるのはまだまだ先のことなのではないのかって。

そう想いながら、私はずいぶんと長い間、久遠に揺さぶられ続けた。














「………………………………………、」

唐突に目が覚めたら、そこはベッドの中だった。またこの体を、久遠に運ばせたのだと気づく。

そして、耳に入る音、声、軋むマットレス……遠ざかる足音…それらの情報から、(あ、久遠の携帯に着信があって、久遠が隣の部屋に行こうとしてるんだ)と理解した。私も着信音で目が覚めたらしい。久遠が寝室を出ていってドアを閉めたところで、私は急激な喉の渇きを自覚した。

「…………………………ぅ、ん…………………………コホッ」

ヘッドボードにずるずると手をのばし、ミネラルウォーターを数口飲むと落ち着いた。



「……………久遠、まだ話してるなぁ。」

時刻を確認すると0時をまわっていて、(こんな時間に誰だろう?)と思った。こんな時間に久遠が話し続けたい相手って…………………………?

急に不安にかられて、そうっとドアに近づき耳を押し当てる。

久遠の声が聞こえた。


「はい、わかりました。社さん、いつも本当にすみません。ありがとうございます。」

(……………や、社さん?…………………………そ、か。)と力が抜けかけたところで、また私に緊張が走る。

「お世話かけついでに、少し教えてください。……………キョーコのあと1年くらい先の仕事って…ずっと埋まってますか…………?」

…………………………え……………

「…………………………ぁ、いえ、いえそんなわけでは、……………変なことを聞いてすみません。」

久遠…………………?

「え、違いますよ、違います。……………でも、社さん……………」

……………なんの話……?

「………社さん…………………俺、最低なんですよ、最低なんです………………!」

さ、いて、い……………?

「そうではなく、…………………………だって、」

なに……………?

「なら、言いますけど……………女の人は……………狡いですよ。」

へ?

「女の人は、妊娠、できるじゃないですか。」

……へ?

「…………………………ふ、俺がそんな、崇高な考えをもつわけないでしょう……………。……………妊娠……は、相手を逃がさずに済む最強の手段のひとつだと思って……………」

……………!!!

「排卵日を偽るとか、ゴムに細工するとかして相手を罠にはめて……………見事に妊娠できたら、『あなたの子供よ、責任とって結婚して』って……………」

なに、……………なに?

「まあそれを通告されて、逃げる男もいるでしょうが………たいていは『認知』で済ませるだけでなく、結婚するのがおおかたでしょう?堕ろせ、と言うケースは少ないわけで……………」

「命を……………そんなふうに駆け引きに利用するなんて……………卑怯だ…………………………女の人は、狡い。」



混乱した私は、もつれる脚でベッドに戻った。

久遠が何を言わんとしているのか、なぜそんなことを言い出したのかは、全くわからなかった。ただ、単純に驚いて、そして、同時に私の耳元で、悪魔が囁いた。

『ねえ、キョーコ。今の…聞いてた?久遠は、女が妊娠したら結婚するものだと思ってるんだって。キョーコ……………あなた、妊娠しとく?』

その声に、私は反論した。
(な、何言ってるの!!妊娠なんて、そんな、そんな……………それに久遠とは、こうやって一時でも付き合えただけで私は満足で………この先もずっとだなんてそんな『この嘘吐きが!!』)

(……えっ)

『嘘吐きでしょ!?だってあんたはそんなこと思ってない!今だけ恋人でいられればなんて、そんなの綺麗事よ!!本当は久遠の一生が欲しいくせに!久遠を一生離したくないくせに!!』

(………!!!や、やめて、やめてっ!!そんなことないっ、そんなこと思ってない……っ!)

『クククッ、どんなに口からでまかせを言っても無駄よ?………だって私はあなたなんだもの。』

(あ、あ……………)

『……………ね、キョーコ………いいえ、「私」?そろそろ素直になりなさいな……。意地張ってたってしょうなないじゃない…。あなたは、久遠と結婚したいのよ。……………ね、でもよかったね?彼を一生離さずにすむ方法、見つかったじゃない。さ、妊娠……しよう?』





私は、恐ろしいと思うのに、絶対に、絶対に、絶対にしてはいけないことだと思うのに。でも、その魅惑の『手段』から、目を背けることができなかった。


たとえそれが久遠の言う、『命を駆け引きに利用する、卑怯で狡い手段』だとしても。