どーもです。
連載物の、このくらいの時期は、割りとサラサラ書けるんですよね……………。キョーコちゃんの曲解思考がどんどん湧いて出てきます。ぽてと自身は曲解なんて、全然しないですけどね。うふふ。
空言とお花の魔法が終わって、本当にホッとしました。スパートかけられるとよいなと。頑張ります!!
上記を、必ずご一読くださいませ。
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妊娠検査薬は、ドラッグストアで変装して買い求めた。
検査薬の説明書には、生理開始予定日の一週間後からが適応と記載されている。
だから、まだ時期的に早いのはわかっているけれど、私はどうしても逸る気持ちが押さえられなくて、生理開始予定日の翌日には検査薬を開封してトイレの前に立っていた。
トイレでは手が震えてしまって、でも、ちゃんとやれて。
そして。
「で、出た……………陽性……………だ………、」
歓喜と、背徳感で、頭が真っ白になる。
でも、事前勉強の内容から私は、これはイコール妊娠ではなく他の何かの可能性もある、と気を引き締めた。そんな私の中で、『良心』は、「そうね、妊娠じゃなくて、他の何かならいいね。」とまだ言い続けていた。
3日後。家から遠くの、小さな産婦人科を受診した。
ふわりとした雰囲気の女医さんは、眼鏡の奥の目を細めて「おめでたですよ、最上さん。」と言った。
そして、「でも時期がとても早いので、まだ胎のうしかみとめられません。今の段階では心拍が確認できないわ。また2週間したら受診してくださいね。」と指示をくれた。
(……………やった、やった、やったぁぁ…………!計画通り………計算通りになった……………!!!)
私は心の中で、歓喜の声をあげた。。
そして、同時に全身が冷えていく。氷のように冷たくなっていく。
だって、私は、悪魔になったから。煌めく光の中にいた、久遠を闇の中に引きずり堕とす、本物の悪魔に。
それは、大切な久遠を護りたいと願う、私の良心が『絶望』した瞬間だった。
産婦人科からの帰り道、私はさらなる策略を練っていた。
(まだ心拍は確認できてないのだから、とにかく落ち着かなくちゃ。え、と、今日からはあれとこれとそれに気を付けて、………あ、あとは…あの準備も…………)
まだ、気は抜けない。
久遠と入籍するその日まで、絶対に気は抜けない。
ただ、妊娠を全うすること、それを、今は。ただ、それだけを。
夜。お風呂で裸になった私は、全身を鏡にうつした。まだ私のお腹は平坦だ。でも、この、私の子宮の中で胎児が育ち、腹部は膨らんでいくのだ。
今まで、勝手なことに無理矢理に考えないようにしていたことが、現実味を帯びてきた。………そう……久遠を罠にはめた結果、私は妊娠して……………じきに赤ちゃんを産む。私は、母親になるのだ。
……………母親?この私が?幼き日に母子関係を築いたことのない、この私が母親になるですって?しかも、『父親』からは望まれていない、そんな子供を産んでまで、お母さんに?この私が?久遠はきっと、私や、意図せずにできてしまった子供には積極的には関わらないだろうから、私は一人で育児に臨まなくてはいけない。……それなのに?……………なれるの?本当に……………ちゃんと『お母さん』をやれるの?
苦しい苦しい自問自答だ。
だって、私は、いい。私は、れっきとした悪魔なのだから。
でも、赤ちゃんは違う。赤ちゃんは何も悪くない。だから、可哀相だと思う。私に『久遠を繋ぎ止めるための道具』として産まされて……………父親の愛情をもらえない赤ちゃん……………本当に申し訳なくて。
でも、欲しいの。久遠が欲しい。だから、あなたが、赤ちゃんが欲しい。
お腹をそっと撫でて、お腹に向かって囁く。
「……………ごめんね。」
謝るしかできなくて。
でも、謝らずにはいられなくて。
やっぱり、赤ちゃんが可哀相で。
「ごめんね、ごめっ、ごめん、ごめんねぇぇ〰〰、ぅあああぁぁぁぁ〰」
泣くのは卑怯なのに、私は泣く資格なんてないのに。申し訳なくて、泣いた。
たくさん泣いたあとで、これだけは伝えないと、と思って、またお腹に話しかけた。「ありがとう………私のお腹にきてくれて…。…私の出来る限りのことはします…………だから、これからどうぞよろしくお願いします……………!」と。ただ、自己満足な言葉を、まだ、何も聞こえないだろうに、赤ちゃんのいるかもしれない真っ暗な胎のうに向かって、呟いた。
そして、私は、この子に、私のできるだけのことはしよう、そう誓った。
それから一ヶ月程して。久遠が仕事のために日本にやってきた。
ついに、言わなくてはいけない。
ついに、この恐ろしい計画もおおづめだ。
彼のマンションの玄関で待っていた私を、久遠は腕を広げて嬉しそうに抱き締めようとする。それを手で制して、「大事な話があるんです。」と深刻そうな声音で言った。途端に久遠の顔が強張る。
リビングのソファに二人で対角上に座った。私はスカートを握りしめ、久遠の顔を見る勇気は無くて、視線はテーブルに固定する。
「あの、ね、落ち着いて聞いてほしいのだけれど。……………私、妊娠したの……………。」
言いづらかったから、一気に言った。でも、小さな声しか出なかった。
久遠が息をのむのを、空気を伝わって感じた。
私は覚悟を決めている。久遠を騙して避妊具を装着させなかったことについては、久遠になじられようが、罵られようが、それは受け入れるしかない。……………いえ、それとも優しい久遠のこと、表面上は穏やかな反応を取り繕うのだろうか。そう、私は、私の妊娠の報告を聞いたときの、久遠の様々な反応を想像していた。
「あのときの……………前回アメリカで会ったときにできたのだと思う……………………ごめんなさい……………私が…安全日だと…思ってて……………」
私の声や言動には、悔恨の念を滲ませた。ちゃんと久遠に、『私は反省している』とアピールするためだ。私の計算間違いのせいで妊娠してしまって、申し訳ないと思っていると久遠に、『見せる』ため。
しばらくしても久遠からは返事が無くて。意を決してそっと見上げると、久遠の表情は、顔面蒼白、といっても過言ではなく。
「久遠……………大丈夫……………?」
思わず声をかけた。
その久遠の第一声は、
「ご、ごめ、ごめんね、ごめんね、キョーコ……………俺が……………あんなに何日も、何日も、たくさん、したから……………俺が……何回も………キョーコの……………」と、狼狽したものだった。
久遠の瞳にうつる色からは、『ああ、しまった』、と、『過ちを犯してしまった』とそういった感情が読み取れて。どこからどう見ても、喜びなんて一欠片も見当たらない表情だった。
悪魔の声は、もう聞こえなかった。私自身が、悪魔になったからだろうか。
でも、もし悪魔の声が聞こえたら、きっとこう言っただろう。
《ほーらね、やっぱり久遠は、あんたとの子供は要らなかったんだよ……………。よかったね〰、騙して作っちゃえて!うふふっ。さあ、あとはこっちのもんだよ。久遠がショックを受けているうちに、勢いで結婚の約束をとりつけちゃえ!》と。
それはそれは愉快そうに笑うのだろう、と、そう想像できた。
そうは思っても。明らかに狼狽している久遠に、これ以上声をかけづらく、私は「お茶を淹れるね。」とキッチンに逃げ込んだ。
コポポポ……………と、急須にお湯を注ぎながら、その湯気を見つめていたら、強いムカつきが込み上げてきた。
「っう、うぇ……っ」
一昨日くらいから、気持ちが悪い。特に空腹時がダメで、胃に少し食べ物が入ると落ち着く。コーヒーの匂いも……お米が炊ける匂いも、ダメ。そのワケなんて、考えなくてもわかる。…………きっと…妊娠悪阻だ。
「はあっ、……………ふぅ。」
「キョーコ?」
いつのまにかキッチンの入り口に立っていた久遠が、気遣わしげに声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい、待たせて……。お茶………今、」
「……………気持ち悪いの?」
「…………………………あ……うん…………。」
「……………大丈夫……?」
「……………えと、……つわりは病気じゃないし……………私は吐くほどじゃないし、食べたり飲んだりはできるから……………それに…安定期に入ったら、けっこう楽になるらしいし…………だから、平気……。」
「…………やっぱり………つわりなの?」
「あ、………病院で調べてもらったわけじゃないけど…………多分そうだと思う…。お母さんは私を妊娠した時に、入院しちゃうくらい体調が悪くなったらしいから……それに比べたら、軽い方だけど。」
「……そっか。………でも、無理はしないで……大事な体なんだから………。お茶は俺が。」
「……………ううん、このくらい平気。じっとしてる方が逆に気持ち悪く感じて。」
…………え?…『大事な体なんだから』ですって?
それは…………遠回しに、「産んでもいい」と……………言ってくれているの?
やっぱり久遠は、「堕ろして。」とは言わないんだ。
「ね、キョーコ…。……赤ちゃん……………ここにいるんだよね?」
久遠が、私の下腹部を見つめながらぽそりと聞いた。
「…うん、……………まだ大きさは1cmくらいらしいのだけど…………心拍は2週間前に確認できたの…」
「へ、え……………」
「だから、一応、予定日も算出してもらった……………」
「……………っ、」
久遠は見開いて、驚いた。
「冬生まれになるの……」
私達と………私達両親と同じ冬生まれだね、と言おうと思って、でも言えなかった。
「ふ、冬…………そっか……………………。……お腹………触ってもいい?」
「う、うん。」
そっと遠慮がちに、久遠の手のひらが私の下腹部に当てられる。
……………と、久遠がパッと俯いた。表情が見えなくて、なんだか不安になる。そして、数秒ののち、ゴホッと咳払いをした久遠。「うん、よし……」と気持ちを入れ換えるかのように小さく呟くと、私の足元に膝まづいた。私を見上げて、言ったのだ。
「順番が違ってしまったけれど……………最上キョーコさん、俺と結婚してください。お腹の赤ちゃんを……一緒に育てていこう。」
それはそれは真剣な顔でにこりともせず、硬い声音で。
その言葉は、紛れもないプロポーズの言葉だった。
夢にまで見た、久遠からのプロポーズ。
でも、そこには久遠の幸せなんて、微塵も存在していないみたいだった。
『ねえキョーコ、あなた、本当に久遠のことが好きなの!?』
頭の中に、私の「良心」の悲痛な叫び声が木霊する。
『ほんとに好きなら……………本当に久遠のことが大切なら、こんなことはできないはずよっ。こんな酷いことは…………………………ぅ、うぅっ、う………っ、』
「良心」は、さめざめと泣き出した。
『久遠が、久遠が可哀相…………!…あんたのせいで……………あんたのせいでっっ、久遠は、一生不幸なのよっ!!あんたのせいでっ!……………この、人間のクズっ!ゴミっ!悪魔っ!!!あああぁぁ~っっ、久遠っ、久遠っ、私の大切な久遠っ!ごめんなさい、ごめんなさい〰〰っ!!』
狂ったように泣き叫ぶ「良心」。
そんなこと言われなくても……………。
そんなこと、あなたに言われなくても……………。
クズなのもゴミなのも………悪魔………なのも……承知の上よ……………。
久遠に促されて二人でリビングに戻ると、久遠はなにやらモバイルを操作しはじめた。某有名雑誌やら、ホームページやらを開いていく。そこには、『授かり婚を決めたなら』とか、『授かり婚ではここを押さえよう』とか、そんな見出しがあって。久遠は、次々にそれらを私に見せていく。
「俺達……いわゆる授かり婚?ていうやつなんだよね…。だから、色々と時間の猶予が限られているけど……、何よりも入籍をしたいけど………、まずは君のお母さんにきちんと話をして、……………あ、仕事の内容を考慮してほしいから、社さんには明日話そう。キョーコの体が一番だし……………それから、」
久遠は、あれをしなければ、これをしなければ、と次々に「やることリスト」を挙げていく。
「キョーコは辛いだろうからね、基本的に俺がやるから……………あ、でも、俺がしていることに意見があったら、遠慮しないでどんどん言って?結婚は俺達のものだから……………それに、赤ちゃんの………」
そんな客観的には能動的な久遠は、全く楽しそうではなく、無表情で事務的な口調だ。時々、私から顔を背けることもあった。
きっと、妊娠させたことへの義務感と、私への人間的情と…………あとは優しい人だから、妊婦を邪険にできなくて………なんだろうな。
……………でも、久遠に見捨てられなかったことに、今さながらに安堵が襲ってきて。
『よかった……………久遠に堕ろせって言われなくて……………。ほんとによかった………ね……赤ちゃん…………。』
そう話しかけて、そっとお腹をさすった。
……………でも。
私は本当にただ、見捨てられなかっただけで。
本当は、久遠は嫌で仕方なくて。
だって、私は聞いたのだもの。
彼は言ってたんだもの。
私の妊娠は、彼にとって『身の破滅』なんだって……………。
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次回は、久遠君version。
重いっ、重いっ、重いっ、久遠君の愛はっ、重いぃひ〰〰〰っっ ♀_(`O`)♪重すぎてキョーコちゃんには理解不能〰っ!♪♪♪♪♪