どーもです。

読むと疲れると思います。
すみません。


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久遠 ver.




そして、翌日。
念願のキョーコとの再会。

それは、事務所の会議室……しかも他のスタッフもいるという状況で。だから本当に顔を合わせるだけという味気ないものだったけれど。それでも、三ヶ月ぶりの『生キョーコ』に、俺の全身の細胞は歓喜に沸いた。今すぐにこの身で彼女を包みこみ、彼女の柔髪に鼻を埋めその匂いをかぎたかった。しかし、キョーコも俺も仕事をおろそかにせず丁寧にするのがスタンスだ。だから、素知らぬ態度を貫くと最初から決めていた。

今日は、仕事がてっぺんまで入っているためキョーコと二人きりの時間はとれない。だが明日の夜には、仕事上のパーティーのあとで、キョーコとホテルに泊まることが決まっている。俺は、その間近に迫った『ご褒美タイム』を拠り所に、その場はしっかりと職場の同僚の役を演りきることにした。

……………そして、ね、キョーコ。君もそうなんだよね?俺と同じで、同じ事務所に所属している同僚の役を演じてるんだよね?その涼しげな表情は、演技なんだよね?本当は、俺の胸にすぐにでも飛び込みたいって、そう思ってくれているんだよね……?……………そうだよね?

結局その場は、キョーコとはろくに目線も合わないまま久々の邂逅を終えた。




ああ。明日の夜が、待ち遠しい。

キョーコ。君を抱き締めたい。
思いきり、抱き締めたいよ。

君に思いきり愛を注ぎ込み、そして君からの愛を感じたいんだ。

キョーコ……………愛してるよ。















そう。パーティーのあとは、キョーコと二人きりになって、彼女を抱き締めて愛を囁いて。そして何より、キョーコと向かい合えると、キョーコの気持ちを確かめられるとそう思っていたのに。

なのに、俺ときたら。






「ごめん、本当にごめんね。キョーコ、ごめん。」

パーティーの翌日の朝。ホテルの一室にて。俺は、キョーコに謝り続けていた。

ベッドの上に、仰向けの姿勢で四肢を力無く投げ出すキョーコ。明るい室内で、その裸体をたった一枚のバスタオルを申し訳程度にかけているだけなのに、もう恥ずかしがって体を隠すこともしない。キョーコは、そのくらいぐったりと疲れ果てているのだ。



俺は、小一時間前に、朝の日差しで目が覚めた。ゆうべは、キョーコとの愛の行為に耽って、そのまま眠り込んでしまった。なので、ベタベタとする体をさっぱりさせようと、深く夢の中にいるキョーコを抱えて入浴したのだ。そして、キョーコは入浴中も起きることはなく、その後にベッドの上で髪を乾かしていたら、ようやく目を開けた。しかもまだとても眠そうで………というよりも、疲れているようで。

「ごめん……………ごめん。」

俺を見るキョーコの瞳の中に、俺への嫌悪があったら耐えられない。ジャパニーズ土下座のまま、目を見ずにひたすらキョーコに謝った。

ゆうべ俺は、キョーコに「1回だけで終わらせるから」と、「キョーコの体力を考慮するから」と言ったのに。「だからさせてほしい」と頼んだのに。キョーコは、その言葉に「それならばこんな時間だけども付き合ってあげてもいいよ」と承諾してくれたのに、このザマだ。……………結局1回では終わらなかった。しかも、かなりしつこかった、と思う。自覚なんかありまくりだ。

1回戦のあと、欲望を一度放って落ち着いた俺は、ゆっくりとキョーコの全身をたっぷりと吸い上げなめ回し……(キョーコはどこも甘くて美味しいのだから仕方ない)………次いで、これまた中に挿れさせてもらってからが長かった。キョーコは、意識朦朧とするなか泣きじゃくりながら『もう、やぁ…………もう、無理だよぉ』と訴えていたのに。


キョーコとは、ほとんど遠恋状態だった。だから4年間も付き合っていても、肌を合わせた回数自体は一般のカップルに比べたらかなり少なくて。そのためにキョーコは、なかなかそういう行為に慣れない。まあ、別にそれはそれで構わない。そのうちにキョーコの体と心が女性として成熟し、彼女が主体的に動くようになったら、それはそれで楽しそうだけれど。でも俺は、彼女に「体を許されている」というだけでもう至福の刻を過ごせる。

キョーコは、可愛くて、大切で、愛しくて。いや、それだけではない。俺に、光を与えてくれる人。俺に、夢を見るための力を与えてくれる、唯一の存在。尊い、女性(ひと)。

だから俺は、キョーコの恋人でいられるというだけで、世界一幸せな男でいられる。


そう思うと、うん。だいたいが、見通しが甘かった。1回で我慢できるはずもなかった。でも、そうでも言わないと、既にものすごく眠そうなキョーコから、許可をもぎ取れる気がしなかった。だから、少し………だけ?、キョーコに嘘をついて、1回だけ、なんて言って……………結局は当たり前のように足りなくて……………。


「……………………ごめんなさい。」
謝るしかないので、また謝る。……………せっかく久しぶりに会えたのに、キョーコに『下半身に脳みそがある、ネチこくてしつこい男』だとか認定されたら最悪だ。なんとか反省の気持ちをキョーコに伝えて、印象を良くしておかなければ。



「も、久遠………久遠…………………そんなに謝らないで。大丈夫だから………逆に、私が体力が無くてごめんね。」

俺が、体をできるだけ小さくして謝り続けていると、キョーコが小さな声で話しだした。


っえ!キョーコの中で、キョーコに非があることになっているのか!?それはすぐに訂正しなくては!!
「いやっ、違うよ……………キョーコは体力あるし……………本当に俺が我慢できてないだけで……………だから、ごめん。」

そうやって、思わずキョーコの顔を見て気づいた。キョーコの声に力は無いが、表情からも本当に怒ってはいないようだった。でも今後のために、しっかりと反省の気持ちは表しておこうと考えてさらに謝った。

それを聞いて、キョーコはゆっくりと首を横に振る。
「………ふぅ…………………久遠は、ほんとに体力あるよね……………うらやましい。」

そのキョーコの言葉に、ハタッと固まる俺。


……………いや…うん。体力もだけど、キョーコに対する『執着』も『したい気持ち』も、たくさんたくさんあるんだよ……………。


…………………………。


そう、なんだよな……………。キョーコとは体力も違うけど……………元々、そういう気持ちの面でも「違う」と思っている。そもそもキョーコは、数カ月ぶりに会った恋人の俺の帰宅も待たずに寝てしまえるんだ。

俺なんか、昨日からキョーコに触れたくて、気が狂いそうだったというのに……………。パーティーの最中も、キョーコのことが気になって仕方なくて。仕事上でするべき挨拶まわりはもちろんこなして、そしたら俺のまわりには、声をかけてくる人達がたくさん寄ってきて。でも、そこで何を話したかとか、まわりに誰がいたかなんてほとんど覚えてない。俺の神経は、ずっとキョーコに張り付かせていた。だって、しっとりと体のラインをなぞるドレスに身を包んだ彼女は、魅力的なんて言葉では言い表せないほどに輝いていて。社さんが張り付いてくれていたからいいようなものの、明らかにキョーコを狙う輩が舌なめずりしているのを黙認するのは、正直胃がせりあがってくるほど辛かった。

それでも、『今は、二人でぴたりとくっついて周りを排除すべき時ではない。俺には俺の、キョーコにはキョーコの成すべきことがある。』と、そればかりを呪文のように脳内で繰り返し、ただ耐えた。

そして、ホテルのこの部屋に着いて、お風呂に入っている間だって、もうもどかしくて!この扉の向こうにキョーコがいるのだと、早くベッドに飛び込んで思う存分キョーコを抱き締めたいと思った。けれど、キョーコが俺のまとった匂いを『嫌なもの』だと思うだろうから、逸る気持ちを押さえて丹念に洗ったんだ。キョーコの好きだと言ってくれた『敦賀セラピー』を少しでも再現できるようにって。

……………なのに、な……………、


………て……おっと、思考の中にこもっている場合じゃない。今はキョーコにちゃんと謝らないと……………。


「……………ごめん。……………それで、しかも俺、今から仕事で。キョーコのお世話もできないし、ましてや観光とか行けないし……………。」

「あ、ううん…………いいの、観光は…………私のペースでゆっくりしてるから。だから、久遠は思いきり仕事をしてきて?」

そう言ってキョーコはゆっくりと笑顔を作ると、またそのまぶたを閉じた。

「…………………………うん、本当に……………ごめん。」
あ、キョーコに拒絶された……………の、かも、と思った。


やっぱり………この一ヶ月間、キョーコの様子が変だと思ったのは、俺の勘違いではなかったか。そう、キョーコから電話をしてくれることは皆無になり、そして何よりキョーコは、元々未来の話は避けていたが、来年の話さえしなくなった。

電話で、『来年は、キョーコと南の島の旅行をしてみたい』と強請れば、『……………ぁ、南の島といえば、今度仕事で行くの。弾丸だから、かなりせわしないんだけど、同年代の女の子達ばかりだからものすごく楽しみで。それにねっ、溶岩が海の中に沈んでいくのを見られるんだって、しかも、それだけじゃなくって、あーでこーでそーで…………』という感じで返ってくる。完全に、はぐらかそうとしている。今までは、未来のことは話せなくても、来年くらいのことは約束してくれてのに。

だから、ゆうべ、しつこいくらいにキョーコを求めてしまったのも、そのせいもあった。俺の帰宅を待たずに寝てしまったキョーコに、俺は不安で。怖くて。キョーコの心が俺から離れていっていたらどうしよう、他の男にキョーコの心が奪われてしまっていたらどうしようと、そう思って。だから、彼女に触れて安心したかった。彼女に愛されている、体を許されているという、確証が欲しかったんだ。

4年前、キョーコに告白をして、素性を明かして。その時は、キョーコに軽蔑されるかもしれない、先輩の立場さえ失うかもしれないと、ものすごく怖かったけど。でも、キョーコの気持ちが欲しかったから、キョーコの存在が俺には必要だったから、だから必死に食い下がった。結果的に、俺の想いがキョーコに届いて、キョーコが俺の手をとってくれた時は、心底思った。ぶつかって良かった。逃げなくて良かった。キョーコに受け入れてもらえて、俺はなんて果報者なんだろうって……………。

俺はどうしてもアメリカに拠点を置いて仕事をすることが多くて、キョーコのそばにはいられなかった。社さんがそばにいてくれたから、申し訳ないけれど、頼りにしてきた。

そりゃあキョーコだって、俺みたいに海外との遠恋の恋人よりも、いつもそばにいて、支えてくれる相手の方がいいだろう。その方が、キョーコだって楽しいだろうし、不安もないだろう…………………でも、ごめん。ダメなんだ。俺はキョーコでないと。キョーコがいないと夢を見ることができないんだ。


今この時も、こんなにそばにいるのに、キョーコは間違いなく俺に抱かれたあとなのに、なのに。キョーコの心がこちらを見ていないのがわかる。

キョーコは間違いなく、俺に隠し事をしている。

でも、それを解し聞き取るだけの時間は、今は無い。………ああ、本当に。昨夜、キョーコの気持ちと向き合う以前に、その体の柔らかさと匂いにつられて欲求を優先させて、俺は本当に馬鹿だ。……………でも、何ヵ月ぶりに会った恋人をベッドで一度抱き締めたら、そりゃあ、しないではいられないだろう?仕方がないというものだ。

だから、今夜こそ、必ずキョーコと話し合うんだ。

そう心に決めて、時間も時間なので、最後に行ってきますのキスをしたかったけれど我慢した。散々貪って負担をかけたキョーコに嫌われたくない。その一心だった。………でも、仕事をしっかり頑張ってくるから、だから今夜は、ただいまのキスはたくさんさせてね?

名残惜しい気持ちを振り切って、俺はその場を離れた。