どーも。
だんだん話のつじつまが合わなくなってきました。一度、こっそりコテいれして、こっそり修正しないといけないかも←←←姑息ババアの手口(*´艸`*)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
久遠 ver.
後ろ髪ひかれる思いで、ホテルの一室にキョーコを残しやってきたのは、テレビ局の会議室だ。今から、じきに撮影が始まるドラマの顔合わせが行われる。
会議室内の、まだ少ないくらいの人数に、『よし、少し早い方だったか……………』、そう思った時だった。
「ん?……………『Kyoko』?日本の女優?」
俺の向かい側でそんな声が聞こえて、俺は思わずそちらを見た。
その言葉は、隣に座る男のタブレットの画面を除きこんだ男が発したものだった。タブレットを持つ男の指は、画面をスクロールしているようだ。
その二人組の俳優は、かなり容姿端麗で、雑誌でもよく特集を組まれる程の人気を誇っていた。
「ああ、『京子』、だ。」
「ふーん、綺麗な子だな………脚も、キレイだ。」
「昨日のパーティーに出席してたんだ。」
「あ、あ。ボランディー社主催の?」
「……そう。…………………………。」
「……………なんだよ、いやに熱視線で見つめてるじゃないか。」
「……………ん?うん…………………………、俺のどストライクなんだよ………。」
「…………ぇ……へ〰そうなの……………、お前、日本人好きなの?たしかに魅力的だし…うん、まあお前好みっちゃ好みか…………それにしても、特にどこがお前の琴線に触れたわけ?」
「全身。………国は関係無いさ。」
「ほお。」
「……………ゆうべ、夢の中まで出てきたんだ。……………すげえ、よかったぜ。」
「ぷっ、なんだよ。そこまでぞっこんなら、昨日、その場で声をかけて部屋に連れ込めばよかったのに。その年ならさ、いくら日本人でも割りとガードは固くないんじゃないか?そしたら、夢じゃないベッドの中でそのお好みの全身を堪能できたのにな。」
「……ああ、そうしたかったさ。でも、そう想像しながら彼女を見つめてたら、すっげえ睨まれて。」
「え、男同伴だったのか?」
「……多分違う。マネージャーってやつだと思う。」
「ああ〰、マネージャーしながら、女としての彼女の虜ってわけね。」
「その怒気と冷気に、凍りつくかと思ったよ………………………でも多分、あの男は京子のことはそういう目で見てない。……………兄貴みたいな。」
「………ふ、そりゃ厄介。」
「……………でも、彼女が忘れられないんだよな。どうしても……………一戦お手合わせ願いたいわけで。」
「お、マジモードか。」
「かなり。」
「でも……………こんなに可愛いなら、男いるだろ?」
「…………男?ふん、関係無いね。結婚してるならともかく、付き合ってるだけなら、モノにするまでだ。」
「おーおー、さすが!…………お前、狙った獲物は必ず逃がさないもんな。女だって、はじめはまあアレでも、最後にはどんな女もお前に夢中になってきたしな。きっと『京子』も、だな。って、そもそも彼女、こっちにはいつまでいるんだ?」
「ああ、それを調べようかなって。」
そのあと、会議室に一気にメンバーが集り、二人の会話は中断した。
落ち着け、
落ち着け、
落ち着け。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
冷静になれ、冷静に、冷静に。
大丈夫、大丈夫だ。
あの男は、社さんの牽制のおかげで、キョーコには近づけていない。
大丈夫、大丈夫だ。
キョーコは、あの男に好意を持たれていることを知らない。
キョーコは、明後日には日本に帰国する。その間だけなら、あの男がキョーコに近づく隙は無い。
大丈夫、大丈夫だ。
あの男は、こちらでの仕事で予定は埋まっているはずだ。キョーコにアプローチするために日本へ行けるほど、暇じゃない。
あの男に、キョーコを奪われる可能性は、限りなくゼロに近い。
あの男に『俺自身』が下手に牽制をかければ、きっと逆に煽ることになる。だから、放っておけばいい。
大丈夫、大丈夫だ。
いつものことだ。
いつものこと。
キョーコが魅力的なのは、いつものこと。そのキョーコを本気で狙う男がいるのも、いつものこと。
だけど、今まで何も起きなかった。キョーコは、俺だけのキョーコでいてくれた。
だから、大丈夫。大丈夫、だ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
ここは、大切な仕事の場だ。だから、俺の私情なんて持ち出すべきでない。
そうやって。何度も何度も自分に言い聞かせた。
そんな俺の目の前で、滞りなく顔合わせは進んでいく
司会の話を聞きながら、そっと、自身の掌を見つめた。先程まで、この掌でキョーコの肌に直に触れていた。全身あますところなく、キョーコに触れていた。それを、キョーコの全てを許されているのは、この世でただ一人、俺だけだ。
そう。今夜、また、キョーコに会えるじゃないか。
今夜だけじゃない。これからだって。キョーコの横にいるのは、俺だ。キョーコに、全てを許されるのは、俺だけだ。その場所は、誰にも譲らない。絶対に、譲りはしない。
……………そうして、憤怒も、焦躁も。荒れ狂う全ての感情を、必死に、全力で押さえつけた。
昨日、キョーコと肌を合わせたばかりなおかげか、その場は感情を押さえこむことに成功した。
ただ、あの男の『結婚してるならともかく、』という言葉が、いやに脳内にこびりついた。
……………結婚してしまえば、キョーコを奪おうとするほとんどの男が、キョーコを諦めてくれるんだ…………、そう思った。
その日の夜の20時過ぎ。ホテルの中のレストランで、キョーコとのディナー。
ちなみに、俺は本当は、キョーコに俺の居宅に来てほしかったが、ボスが二人で楽しめと、わざわざ用意してくれたスイートだ。一応ありがたく使わせてもらっている。
今朝はぐったりとしていたキョーコだったが、一日エステを楽しんだりとのんびりと過ごしたらしく、体調は完全に回復していた。料理もお酒も美味しいと、ご機嫌で食べ進めている。
先程は、ホテルに戻ってきた俺を、キョーコが笑顔で出迎えてくれたのが嬉しくて、いささか強く抱き締めてしまった。それでも、キョーコが強張ることなく、安心したように体重を預けてくれるのが嬉しくて、ふわふわとしたキョーコの感触がたまらなくて。俺は、今朝できなかった『行ってきます』のキスも取り戻すかのように、『ただいま』のキスを思う存分味わった。
キョーコは、『ただいま』のキスというには濃厚でしつこすぎる俺のキスにも応えてくれた。柔らかく舌を絡めれば、同調するように滑らかに擦り合わせる。そのおかげで俺は、ようやく、ホッと肩の力を抜くことができた。
それでも。あの男の、自信に満ちた熱のこもった声が俺の脳内に蘇って。何より、あの男だけとは限らないのだ。昨日、社さんの目を盗んでとか……………いや、そもそもこのところは社さんは日本にいなかったのだ。マネージャーは代理でついているが、俺への配慮なんて皆無なわけで。だから、日本で誰かに言い寄られてたりとか、しかもその男がしつこくて、キョーコはなんとかうまくかわそうとしているのにその男が諦めない、とか……………。いや、もしかしたら、その男の魅力にキョーコも少なからず惹かれている………………………………………とか。……………キョーコを信じていないわけではない。でもそれでも、不安な気持ちは拭えない。
だから、夕食を美味しく食べているキョーコの顔を、どうしても見つめてしまう。探るような目で。『何もないよね?』『心が揺れてるなんてことはないよね?』と。そして、『俺の恋人で……い続けてくれるんだよね?』と、訴えかけるような目で。
「キョーコ、美味しい?」
そういえば、俺があまりに無言過ぎたかな、とふと思い、キョーコに声をかけた。
「ぅ、うん、とっても美味しいよ。………このアボガドにかかってるソース、なにが混ざってるのかな、今度再現してみたいくらい。(もぐもぐ)……………んー、今の旬の真鯵とか鱚とかにも和えても美味しいかも。真鯵ならフライで、鱚なら天ぷらかなあ。サラダ仕立てもよさそう。(もぐもぐ)」
……………キョーコのアレンジ?それ、食べたいな。キョーコの手料理。もう何ヵ月も食べてない。
「……………うん、いいね。フライに天ぷら。キョーコが再現したそのソースの料理、俺も食べたい。俺のために作ってよ。」
少し強めの口調でしっかりと要求した。恋人らしいこと、ひとつでも多くしたい。キョーコの手料理を食べるに値する存在だと思われていると実感したい。
そんな俺の言葉に、なんだか困惑げな表情を浮かべたキョーコ。
「……………あ、でも、それは日本でないと。それに6月ももう終わるし……………だから、久遠には作ってあげられない、かな……………。」
正直、ショックだった。
キョーコなら、『じゃあ今度作ろうか。それまでにもっと研究しておくね。』と言ってくれると思っていたから。以前から、俺に食育を説き、食べ物をなんとか食べさせようとしてくれていたキョーコから、初めて聞いた、俺の『食べたい』に対する拒否の言葉。
どうしても、『作ってあげるよ』の一言が欲しくて、俺は食い下がる。
「……………じゃあ来年は?来年なら日本にいるよ。だから、来年のこの時期に、俺のマンションで作って食べさせて。……俺にとっては日本も大切だから、こちらで基盤を築けたし、今後はまたあっちでの仕事も増やそうと思ってるんだ。」
「……………あ、そ、そうなの…………………………あ!そうよ、そうね、黒崎監督とか……………緒方監督とか……………ね、また映画撮りたいよね、うん、わかるわかる!邦画には邦画の魅力が、洋画には洋画の魅力があるものね!みんなてぐすねひいて待ってるよ!ぜひ、ね!」
ああ。『来年』というワードをはぐらかされた。
たしかに、俺が邦画に出演したいのも、名だたる日本の監督と作品を作り上げたいという気持ちも、俺の本心だ。日本の仕事を増やすことは、キョーコのそばにいるためだけではない。だけど、キョーコは明らかに話をそらせるために邦画の話題を持ち出している。
やはり、キョーコは、おかしい。
結局キョーコは、アボガドのソースを作ってくれるとは言ってくれなかった。それが悲しくて、やるせなくて。我慢できずに、表情に出してしまった。顔が歪んでいるのがわかる。
でも、楽しい夕食の席を尋問なんかに使いたくなくて、俺は表面上は取り繕った。楽しい邦画の話を、映画の話をした。そうしたら、キョーコも、楽しそうにしてくれた。今はそれでいいと思うことにした。