どーも。
どうしても、一話に収まりきりませんでした……。ダラダラと長いばかりでごめんなさい。
前回の限定記事は読まなくても、話は通じます。
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久遠 ver.
あの、キョーコの様子がおかしくなった、8、9ヶ月程前。結局社さんに言われたように、俺はことを穏便におさめたくて、キョーコを問い詰めることはしなかった。
まあ要は、キョーコを問い詰める程の必要性を俺が感じなかったのだ。
なぜなら、その後キョーコは、わずかに一歩ひいた位置にいながらも、ちゃんと俺への恋慕を表に出してくれていたから。おかげで俺は、キョーコに想われていると、キョーコに愛されていると、確実に感じることができていたのだ。
もちろん、そのキョーコの熱の低さには、寂しくなったりなるせなくなったりする時だってあった。だからと言って、大きな波を立て、キョーコと別れ話になるかもしれないリスクを冒すことはない。
ただ、もう結婚願望が膨れ上がる一方だった。キョーコへの気持ちで胸がいっぱいで。キョーコに、俺との未来を約束してほしいという欲求が押さえられなくなった。もう、なんの確約もないただの恋人同士なんかではいたくないんだ。
いやしかし、キョーコはまだ23歳。数ヵ月後には、1年間の留学も決まっていて、まだまだ勉強したい盛だ。キョーコの気持ち的には、結婚はまだ早すぎるかもしれない。
キョーコとの未来の確約のため、俺はどう動いたものか……………と、悩む日々。
そんな時だった。キョーコがアメリカの俺を突然訪ねてくれたのは。
そして、昨夜。俺はキョーコの排卵日の計算間違いに乗じて、ダグラスと同じことをした。
妊娠の原因が、俺のミスや不可抗力ならば、キョーコは、『母親になる自分』を恐れて、『子供を不幸にしたくない』『仕事関係に迷惑をかけたくない』『お互いの将来の伴侶が不可抗力で決まってしまうことは避けたい』という理由から、子供を産まないという選択肢を選ぶことも考えられた。ただ、今回の行為で妊娠したら、キョーコは『私自身のミス』と認識するだろう。自分のせいで、成立した命の灯火を、キョーコが断つことをよしとするか……………、いや、『否』だ。キョーコは、罪悪感から、産むことを選択するだろう。俺は、そのキョーコの『良心』に賭けた。
朝、俺は、キョーコがもしかして計算間違いに気付いたかもしれないと、キョーコの様子をうかがいながら声をかけた。しかしキョーコは、いつも通りどころか、とても機嫌が良くて。雰囲気も甘く、言動は可愛いらしいものだった。
ゆうべはキョーコの中に、俺のありったけを注いだ。しかし、キョーコを確実に妊娠させるためには、一夜だけの行為では心もとない。もっと何度しなければと思っていた。だから俺はつい本音が出て、
「こっちにいる間……………も、ずっと大丈夫な日……?」と聞いてしまった。
「う、うん。」
「じゃあ……………今夜も明日も明後日も……………ゆうべみたいにしてもいいの?」
「うん……………して、くれる……………?」
キョーコは、はにかみながら、上目遣いでおずおずと聞いてくれた。
「……………やった、」
俺の顔には、本心からの笑いが出た。キョーコのリラックスした、でも、妖艶な、でも、甘えたような、そんな表情が嬉しくて嬉しくて。野望達成のために、子作りできることもだけれど、純粋に、キョーコにちゃんと好かれているのだという自信が持てて、本当に嬉しかった。
キョーコを、策略で妊娠させて未来まで手に入れたいのは本音だが。でも、かと言って、キョーコの心がそこに無ければ、それは虚しいものになる。全ての前提として、やはりキョーコの『想い』が、キョーコからの『愛』が欲しかった。
キョーコが、はにかんで笑っている。
可愛い。愛おしい。
その気持ちのままに、唇に、優しいキスをたくさん降らせた。
結局、キョーコが俺の部屋に滞在している間、俺は「子作り行為」に勤しんだ。キョーコから拒否の言葉が出ないのをいいことに、一切避妊具を装着することなく、毎夜キョーコを愛した。
それから二ヶ月弱程して。俺は仕事のために日本へ向かった。
あの日から一ヶ月後に会えるはずだった予定は、俺の急な仕事が入って、叶わなかったから。
ああ、ついに。ついにこの時がきた。
あの、俺の毎夜の蛮行が実を結んだか。否か。
ついに、その結果がわかる。
ついに、だ。
キョーコは、遠く離れた土地同士では言いにくかったのだろう。何も言ってきてはいなかった。
でも、危険日ど真ん中で、毎晩致したんだ。できていてもおかしくはない。いや、きっと、できているだろう。
キョーコは、俺のマンションで俺の帰りを待っていてくれた。さしあたって、久しぶりのキョーコにテンションが上がる。腕を広げて抱き締めようとする、が、キョーコはそれを手で制した。そして、「大事な話があるんです。」と深刻そうな声音で言った。思わず顔が強張る。
…………………………きた!
…………………………緊張する…!!
リビングのソファに二人で対角上に座った。キョーコはスカートを握りしめ、視線はテーブルを見つめている。
キョーコは妊娠したのだろう、と思った。いや、確信した。そして、俺は決意を新たにした。そう、たとえキョーコがどんなふうに考えているとしても、なんとしても俺との子供を産んでもらい、かつ、俺と結婚してもらう。そういう方向に話を進める。……………なんとしてもだ!
二人の未来を交わらせるべく。俺は、腹に気合いを入れて、キョーコの言葉を待った。
「あの、ね、落ち着いて聞いてほしいのだけれど。……………私、妊娠したの……………。」
キョーコが小さな声で発した言葉に、俺は息をのんだ。
…………………………やっぱり……………!
「あのときの……………前回アメリカで会ったときにできたのだと思う……………………ごめんなさい……………私が…安全日だと…思ってて……………」
キョーコの声には、悔恨の念が滲んでいる。キョーコは、深く『反省』しているようだった。
十中八九妊娠しているだろうから、俺の『問題点』は、『妊娠を告白してきたキョーコとどういうふうに話し合うか』だった。キョーコは、この先どう出るのか。もちろん、『ぜひにも産みたい。』と自ら言ってくれるなんて、期待はしていない。かといって、『良心』から、『堕胎します。』と言いきってくる可能性も低かった。
……………うん、だから、キョーコの言動は、まあ俺の予想通り。キョーコは、『安全日だから大丈夫』だと俺に言ったのに、結局は妊娠したことを『自分が悪い』『申し訳ないことをした』と思っているんだな。
……………そうか、ならば。
俺が演じるべき男。それは『反省している男』だ。『今回の妊娠を、調子に乗った自分のせいだと申し訳ないく思っている男』。
瞬時に、顔面蒼白の表情を作り上げる。
だからだろう。顔を上げて俺を見たキョーコは、心配そうに「久遠……………大丈夫……………?」と言った。
よし、キョーコに、伝わっている。
俺の演技は、キョーコにちゃんと伝わっている。
さあ、もっとだ。
俺も動揺していることをアピールするんだ。
なによりも、キョーコの妊娠に歓喜し安堵しているなんて、塵ほども気取られないように。そう。二人の子供なのに、全ての負担をその体で背負うであろうキョーコに、伝えるんだ。今回の妊娠は『俺のせいでもある』と、『二人の責任なのだ』と。
だから俺は、「ご、ごめ、ごめんね、ごめんね、キョーコ……………俺が……………あんなに何日も、何日も、たくさん、したから……………俺が……何回も………キョーコの……………」と、狼狽してみせた。
演技力をフル稼働して、俺の瞳に気持ちを乗せた。『ああ、しまった』、と、『調子に乗って、過ちを犯してしまった』と、そんなふうな色を乗せる。
と、突然キョーコは、「お茶を淹れるね。」とキッチンにむかっていった。
「…………………………、」
……………どうしたのかな?…キョーコは、気持ちを整理するために一人になりたかったのかな……………。
「………………………………………。」
この空間に一人になったんだと認識すると、途端、
「……………ふぅ〰〰〰〰…………………………」
しらず、深く長いため息が出る。ふと気がつくと、背中を汗が伝い落ちていた。
つい今までキョーコに注視し、思考をフルスロットルで働かせていたから意識していなかったけれど、俺自身、最高潮に緊張していたらしい。
まあ、当たり前だ。
俺の人生はここで大きな分岐点を迎える。
キョーコを手に入れるか、……………キョーコを失うか。
万が一、万が一、万が一、万が一、万が一にも…………結論が堕胎に至った場合、キョーコの性格からして、俺との付き合いは切ってしまうだろう。
あの、キョーコの暗い表情に、今のところ楽観視はできない。
しかしキョーコは、自分に非があると思っている。だからこそ、俺がどうキョーコを説得していくか。それが、今後を左右する。キョーコを、どう言いくるめるか、そして……………この状況の原因となった俺を憎まず、愛していってほしい。
ゴールは決まっている。
『キョーコと紡ぐ、未来』。
ゆっくりと深呼吸をして、キッチンに歩を進める。
…………………………いざ。