どーも。

先にことわっておきますが。多分、途中で笑っちゃうと思います。いわゆる乾いた感じの。実際に私は、自分で読み返して笑っています。そう、乾いた感じで。カハハハホホホッケブッ………(>.<)



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久遠 ver.




キョーコを説得するために、キョーコの出すどんなサインも見逃すまいと決めて。そっとキッチンをのぞくと、キョーコがお茶を淹れていた。すると、

「っう、うぇ……っ、………………………………………。はあっ、……………ふぅ。」

キョーコがえずいている。


……………どうしたんだろう?
「キョーコ?」

「あ、ごめんなさい、待たせて……。お茶………今、」
キョーコは顔色が悪い。

「……………気持ち悪いの?」

「…………………………あ……うん…………。」

「……………大丈夫……?」

「……………えと、……つわりは病気じゃないし……………私は吐くほどじゃないし、食べたり飲んだりはできるから……………それに…安定期に入ったら、けっこう楽になるらしいし…………だから、平気……。」

…………………………!!!

驚いた。

……………そうか、『つわり』。
いや、もちろん想像してはいたんだけど。だけど、そうか。今まではなんだか現実味がなくて………。

「…………やっぱり………つわりなの?」

「あ、………病院で調べてもらったわけじゃないけど…………多分そうだと思う…。お母さんは私を妊娠した時に、入院しちゃうくらい体調が悪くなったらしいから……それに比べたら、軽い方だけど。」

…………………………そうか、入院…。そうだ。そういうことも考えられるんだ、妊娠・出産というものは。妊娠は病気じゃないけれど、場合によっては、妊娠高血圧症候群とかあるって雑誌に載ってた。他にも色々…前置胎盤とか常位胎盤早期剥離とか……………、読み漁ったネットにも載ってた。

俺は、キョーコを支えたかった。俺とキョーコの赤ちゃんを、代表でその胎内に宿し育んでくれるキョーコ。体に何の変化もない男である自分が、そんなキョーコをできるだけサポートしたかった。大切なキョーコだからこそ。そして、もちろん下心だってあった。そうやってキョーコを心身共に支えることで、キョーコから信頼を勝ち得て、かつ、キョーコの気持ちを楽にして、結婚生活を前向きに楽しんでもらいたいというものだ。

「……そっか。………でも、無理はしないで……大事な体なんだから………。お茶は俺が。」
まずは『言葉』と『行動』だ。キョーコを気遣っていることをキョーコに伝えていかないと。

そう思って、茶器に向かって手を出した時。

キョーコが言った。

「……………ううん、このくらい平気。じっとしてる方が逆に気持ち悪く感じて。」

………………………………………………………『平気』……だって?……………まるで、これからも続くその妊娠に関わる不快症状を、『うまく流す術を見つけたの』…………みたいな口調で。

……………まさか、まさかな。


ふと、キョーコのお腹が視界に入る。
「ね、キョーコ…。……赤ちゃん……………ここにいるんだよね?」
キョーコの下腹部を見つめながらぽそりと聞いた。無意識に、唐突に気付いたんだ。キョーコのこのお腹のなかに、俺達二人の赤ちゃんがいるんだって。

「…うん、……………まだ大きさは1cmくらいらしいのだけど…………心拍は2週間前に確認できたの…」

「へ、え……………」

へえ、へぇー……………。
そうなんだ。
へえー……………。
へぇ……………そっか、赤ちゃん。


俺と、キョーコの、赤ちゃん。


「だから、一応、予定日も算出してもらった……………」

「……………っ、」
驚いた。

予定日…だって?

「冬生まれになるの……」
キョーコがポツリ、と言った。

………………………………………『冬生まれ』………………………………………そっか、そうか。キョーコはそう思ってくれているんだ。赤ちゃんがお腹にいる事実を、そういうふうに受け止めてくれているのか……………。


「ふ、冬…………そっか……………………。……お腹………触ってもいい?」

触りたい。キョーコのお腹に触りたい。俺達の赤ちゃんがいるお腹に。

「う、うん。」

手のひらをそっと、キョーコの下腹部に当てる。



…………………………うん、そうか。


そうか。


ここに、俺達の赤ちゃんがいて。

そして、キョーコは、予定日を知って、『冬生まれ』だって思ったのか。

……………そうか。

そうか……………。


………………………………………そうか……………、

………………………………………、


瞬間。俯いて、キョーコから顔を隠す。










イッッエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッス!!!!!

……イエス!!!!

イエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエス!!!!!


Woooooooooooooooooooooーhoooooo!!!!!!


Sweeee、Sweeee、Sweeee、Sweeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeetッッッッッッッッッ!!!!!




心の中で、盛大に吠えまくった。








……………ヤバい。ニヤけるどころのさわぎじゃない。顔面崩壊だ。





だが俺も、演技者のはしくれ。爆発した歓喜と興奮を死ぬ気で押し隠す。

咳払いをして顔面を整え、「うん、よし……」と小さく呟き気持ちを入れ換えた。


ここは、押さえどころだ。

確実にキョーコを手に入れるために外せないステップ。

キョーコの足元に膝まづき、キョーコを見上げた。

「順番が違ってしまったけれど……………最上キョーコさん、俺と結婚してください。お腹の赤ちゃんを……一緒に育てていこう。」

いきなりだけれど、直球を投げた。キョーコに赤ちゃんを産む気があるのなら、もうぐずぐずしている場合じゃない。


だが、その言葉を言いながらも、口もとがニヤけそうになってくる。今にも、『ブッハーッッッ!』と吹き出しそうだ。おかしくておかしくて、嬉しくて嬉しくて、もう笑い転げたくて仕方ない。マンションのバルコニーに飛び出していって、お腹の底から叫びたい。「Yes!!やったぞーーーーーー!!!俺はやったーーーーーーっ!!!」と雄叫びをあげて、ガッツポーズを振り回したい。


でも、ダメだ。そんなことは絶対に許されない。たたでさえ既に体の変化が表れてつわりで辛い思いをしているキョーコの前で、浮かれた顔を晒すなんて。『キョーコの妊娠を心から喜んでいる』という事実を、キョーコに気取られるなんて。

そう、キョーコにとって妊娠出産は予定外な上に、大きく分厚い壁なんだ。俺も辛さを分かち合うつもりでいるのだと、キョーコに理解してもらわなければ。

結果的に、キッチンでの真剣な表情で硬い声音のプロポーズとなった。それは、ロマンチックでもなければ女性の抱く理想とはほど遠いものだったけれど、この際そんなことよりも、大切なこと……………キョーコに俺が嫌われない、という目標は達成できたと思う。



キョーコは俺のプロポーズに、神妙な顔で、ただ、こくり、と頷いた。

キョーコも、『俺達が結婚して子供を生み育てる』という結論が、ごく一般的な対応策だと思っているのだろう。



……………よし。

…………………………よし。

キョーコの表情からは、嫌悪感は感じられない。


………………………………………よし。いいぞ。









そして、場所をリビングにうつした俺達。

モバイルを操作し、某有名雑誌のホームページやら、様々な企画のネット画面やらを開いていく。そこには、『授かり婚を決めたなら』とか、『授かり婚ではここを押さえよう』とか、そんな見出しがあって。俺は次々にそれらをキョーコに見せていった。いずれも、子作り行為に勤しんだあとから、俺が調べまくって見つけたものだ。キョーコは、こうなることをこれっぽっちも予測していなかっただろうから、きっと今の俺よりもこういう知識は少ないはずだ。

「俺達……いわゆる授かり婚?ていうやつなんだよね…。だから、色々と時間の猶予が限られているけど……、何よりも入籍をしたいけど………、まずは君のお母さんにきちんと話をして、……………あ、仕事の内容を考慮してほしいから、社さんには明日話そう。キョーコの体が一番だし……………それから、」

俺は、あれをしなければ、これをしなければ、と次々に「やることリスト」を挙げていく。もしかしたら、あまりにもスムーズにことを運びすぎて、キョーコから疑問を抱かれたかもしれないと一瞬ヒヤリとしたが、キョーコはいたって真面目な顔でひたすら相槌を打っていたから大丈夫だろう。


「キョーコは辛いだろうからね、基本的に俺がやるから……………あ、でも、俺がしていることに意見があったら、遠慮しないでどんどん言って?結婚は俺達のものだから……………それに、赤ちゃんの………」


…………………………て、ヤバイ!!

また、おかしすぎて吹き出しそうになった。そもそも、ずっと顔面自体がニヤけようとしてくるし。だらしないぞ!俺の表情筋!!しっかり締まれ!

仕方がないので、不自然ながらもその度にキョーコから顔を背けて、緩みかけた表情を隠す。

俺はあえて事務的な口調で、顔面を固めに固めてキョーコと話した。本当に、少しでも気を抜くとヤバかったから。









「ふうー……………しばらくは本気で気を付けないとな。」
お茶のおかわりを淹れに行った(ちょっと表情筋を緩めるために逃げ込んだ)キッチンで、俺は小さく呟いた。顔をペチペチと叩く。


俺の、『歓喜と感謝と安堵の気持ち』は、キョーコの様子を見て小出しに表出していこう。


俺の子供を妊娠してくれてありがとう、と。
君の妊娠は、心から嬉しい出来ごとだよ、と。
俺は世界一の幸せ者だよ、と。


いつかキョーコに伝えたい。
キョーコに伝えて、そんな俺の気持ちを受け入れてほしい。



キョーコ。……………キョーコ。


キョーコも、お腹の赤ちゃんも、俺が守るから。どんな時も支え続けるから。だから、これからも君にとっては辛いことが多いだろうけれど、どうか、ずっと俺のそばにいて。そして何年先でもいい。本当の家族になろう。

二人で手と手を取り合って、二人の未来を築いていこう。


キョーコ、愛してるよ。








トレーを両手で持ち、顔を引き締めてリビングにむかう。間違っても笑ったりしないように。


たとえどんなに、どんなにこの状況を俺が幸せに感じていたとしても、それは絶対に表に出してはならない。

なぜなら。

たとえどんなに、どんなに俺がキョーコの妊娠と俺との結婚をのぞんでいたとしても、それはキョーコがのぞんでいた未来とは、重ならないのだから。







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私なんぞの書く妄想話をおもしろいと言ってくださった方々、本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。  ぽてと