小さな旅「錦帯橋と名人ガイド」 | ヘルベルト・フォン・ホリヤンの徒然クラシック

小さな旅「錦帯橋と名人ガイド」

 7月初旬、広島平和コンサートの練習の合間を縫って、岩国に足を伸ばした。


 広島駅から山陽本線に乗ると40分ほどで岩国駅に到着。山口県と言っても広島の経済圏である。歴史、工業の町という点では広島と共通するが、ここには米軍岩国基地があり、心なしか横文字が目立つ。駅前から迷わずバスに乗り、錦帯橋に直行。約20分で到着。料金240円。


 停留所のまん前に錦帯橋が美しい姿で架かっていた。前方の山の頂きには岩国城が乗っかっている。なんという珍しい景色であろうか!世界でもあまりお目にかからない風景である。



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<錦帯橋と岩国城とイケメン>

しかしなんで俺ってこんなにキマッテしまうんやろ?ホンマ申し訳ないワ。


 岩国は江戸時代、吉川家六万石の城下町。しかし二百七十諸侯の中で実に特異な存在であった。吉川家は毛利元就を祖とする名家であるが厳密には大名ではない。形式的には毛利家の家老である。しかし十万石の格式を許され、しかも城主格という遇され方。大名であって大名でない、摩訶不思議な家格が吉川家の個性を育み、岩国の風土を作りあげたのてはないか? 錦帯橋の独特の美しさも、このような歴史的な背景から生み出されたのである。


 初代吉川広家から数えて三代目の広嘉の時、延宝元年( 1673年)美しい五連のアーチ橋が完成した。この名橋はたちまち評判になり、庶民はもちろん、山陽道を往く、参勤交代の諸大名もわざわざ迂回して、錦帯橋を見物してから江戸に向かったと伝えられている。


 川に降りて橋の下から写真を撮っていると、オジさんが「シャッターを押してあげましょうか?」と声を掛けて来た。僕は身構えた。観光地によく出没する、親切そうに装い、法外な値段でものを売り付けたり、怪しげな店に連れて行ったりする手合いかも知れない。・・・以前エジプトはギゼーの大ピラミッドの洞窟内での出来事を思い出す。写真撮影禁止の貼り紙の前に、厳しい顔の監視員が立っていた。突然ニコニコ顔で近づいて来て「コンニチワ、ドモアリガト、カメラオーケー」写真を撮ってもいいというのだ。躊躇しているとこちらのカメラを取り上げて一枚僕を撮った。なんだか分からないけど礼を言って立ち去ろうとすると「チョットマッテクダサーイ、シェンエンクダサーイ、ナンデモシェンエン、ドモアリガト」僕の答えはこうだった「あほんだらボケナス!」五千年前のご先祖様を食い物にしているこのエジプト人が許せなかったのだ。しかしこの一枚実に良く撮れていた。


 この人は全く怪しい人ではないことはすぐ分かった。胸に「ボランティア松岡」の名札。「お名前の草かんむりに部と書いて何と読むのですか?」「しとみと申します」「ホンマにボランティアでやってはりますのん?」「はい、協会から交通費として五百円頂いているだけです」



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<観光ボランティア松岡蔀さん>

「しとみ」とは珍しい名前だ。辞書を引くと、日よけ、日光や風雨をよけるためのあげ戸、とある。


 僕は少々歴史にはうるさい。かねてから疑問に思っていることを質問してみた。するとなんでもすらすらと答えが出て来るのである。


 「巌流佐々木小次郎は錦帯橋でツバメ返しを編み出したと言われているがこれホンマ?」「全くの創作です。村上元三先生が最初に書き、続いて吉川英治先生が美剣士にしてしまいました。第一、巌流島の決闘の時は錦帯橋はまだ出来てませんから」


 これで松岡さんに対する信頼は絶大なものになった。身の上話もして頂いた。岡山で生まれ、広島で働いた。今は終の住みかとして岩国を選び、観光ボランティア協会の会長として活動されているそうだ。会長と聞いて、成る程なと思った。「今日はこれから広島のタクシー会社の方々が見学に来られるんです。どうぞ岩国を楽しんで下さい。」


 松岡さんと別れて、五連のアーチをゆっくりと渡った。円弧の上と下では景色が変わる。何と楽しいことよ。眼下を流れる錦川が美しい。鮎釣りの人も二、三人。夜には鵜飼も行われるらしい。ケーブルカーで山頂に行き、岩国城天守閣からのパノラマを心ゆくまで堪能した。



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<眼下を流れる錦川>

水量多し。流れも早し。延宝2年流出、再建後、276年不落を誇った奇跡の名橋も昭和25年のキジア台風で流出した。昭和28年に再建、平成16年架け替え。



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<岩国城>

三層四階の物見を置く、桃山風南蛮造りの山城。元和元年(1615)、幕府の一国一城令により、完成から僅か7年で破却。昭和37年南側に移動して再建。



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<岩国城天守閣からの絶景パノラマ>

錦帯橋、錦川、岩国市内、岩国基地、瀬戸内海の島々を一望。


 下山して辺りを徘徊していると、張りのあるガイドの声がする。観光客の一団が近づいて来たのだ。僕の特技はグループの一員を装って、ガイドを盗み聞きすることである。チャンス到来とばかり紛れこんだところ、ガイドのおっちゃんがマイクで「お客さん、また会いましたね!」ギョッとして顔を見たら、錦帯橋で話しした松岡さんだった。「一緒に周りましょう」


 本領発揮の松岡さんのガイドは素晴らしかった。カッコよかった。声がよく響く声楽家であり、グループの先頭に立ち、キビキビと案内して行く様は、有能な指揮者を連想させた。「今日は松岡さんに会えて良い日になりました」松岡さんも嬉しそうに握手で答えてくれた。



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<どこかで聞いた声だと思ったら>

松岡さんの名調子に聞き惚れる。



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<巌流佐々木小次郎ツバメ返しの像>

小次郎は越前地方の産で岩国とは関係ないが、まあ、あんまり固いこと言わんとこ。作り話と史実が混在してオモロイんやから。それにしてもイチローのスィングみたいやなあ。



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<三つ目眼鏡の錦帯橋>

松岡さんに教えてもらったスペシャルポイント。錦帯橋の影と言っている。



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<平清に入る>

歴史、風景もええけどやっぱり生ビールの味はサイコー。さあ仕上げに岩国寿司を食おうか。



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<岩国寿司>

岩国の打ち上げはこの一品に限る。大人数分を作って小さく一人前を出す。カラフルな彩りが食欲をそそる。800円。