大切な写真(2) | ヘルベルト・フォン・ホリヤンの徒然クラシック

大切な写真(2)

「初めて第九を振った時のプロフィ-ル写真」

ホリヤンのブログ

1984年11月 。東京目黒権之助坂の写真館で撮影。


芸大指揮科四年生、卒業を間近に控えた頃、慶應のオーケストラから第九の指揮依頼が舞い込んだ。飛び上がって喜んだ。指揮を志した一番のモチベーションは、いつか第九を振るんだ、という熱いものだったからである。


プログラムに載せる写真を送って欲しいと言う。そんなものはない。演奏会に出るなんてずっとずっと先のことと想定していた。しかし写真を撮らねばならぬ。だがエンビはもちろん、タキシード、蝶ネクタイもない。もしそれらを新調するとなると、ウン十万円必要になり、当時生きて行くだけで精一杯だった僕には到底無理なことであった。


有り合わせでなんとかしよう。五年ほど着古した安もんの紺ブレザーがあるではないか。白のタートルネックシャツを着てこましたれ、染みはあるが上着を着れば隠れる。小澤征爾さんもタートルでカッコいいじゃないか。鏡を見るとなんとかなりそうだ。下半身は写らないのでボロのジーンズのままでよい。


さて写真屋さんだ。友達に尋ね回った。その頃結成した学内のオーケストラ、「ホリヤンとペロリンフィル」のチェロトップのM嬢が「ホリヤン、うちの近所にいい写真館があるよ」と教えてくれた。昔ながらの町の写真館だったが落ち着いて撮れた。


出来上がりはどうだろう。毛がふさふさして撮れている。実はその当時から、ハゲはあまり気にすることないよと、気になることを仲間から言われていた。髪の毛は若さと、前途洋々を表す。写真屋さんの技術に感謝。僕が最も気に入っている点は「眼の輝き」だ。今は腐った魚のような目になってしまったが、若い時は「君はいい目をしているね。特に棒を振っている時は」と言われたもんだ。この画は数少ない僕の長所を捉えてくれていて嬉しい。


この写真二枚焼き増しして、直後の仙台フィルのオーディション、二年後東響入団の際にも使って、成功するゲンのいいものになったので数年間、看板に偽り有り、とクレームがつくまで使い続けた。写真館は現在牛丼屋になっている。


演奏会の記録。
1984年12月20日。練馬文化センター。慶應義塾ベートーヴェン協会管弦楽団。同合唱団。ソプラノ渡辺美佐子、アルト尾高綾子、テノール土師雅人、バス多田羅迪夫。指揮、堀俊輔。



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参考写真:3D鑑賞用メガネを着けた最近の筆者。