『侯爵家の悪妻は契約です』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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こんにちは!
本日は12月4日発売のアイリスNEOの試し読みをお届けしますニコ音譜

試し読み作品は……
『侯爵家の悪妻は契約です ~二度目の結婚相手は初恋相手ですが悪女だと嫌われています~』

著:もり 絵:すがはら 竜

★STORY★
亡き侯爵の遺言によって、新侯爵となったブレイクと結婚することになったジュエル。幼い頃から慕っていた彼の妻になることに小さな喜びを覚えるけれど、この結婚はブレイクに侯爵家の財産を継いでもらうためのもの。というのも、ジュエルがわけあって前侯爵と白い結婚をしていたことで、ブレイクが領主に相応しくなければジュエルが相続するように手配されていたのだ。そのせいでブレイクには金目当ての悪女だと嫌われていて、ジュエルの前途多難な結婚生活が幕をあける――!? 素直になれない期間限定契約夫婦の拗らせラブファンタジー!

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 侯爵は傲慢で容赦ないほど厳しく、夫人が亡くなってからは慈善活動や寄付などもいっさいせず、さらに年を取ってからは偏屈になったと有名だった。
 そのため皆から恐れられていたが、ジュエルは勇敢にも侯爵邸へと乗り込んでいったのだ。
 セネットが再び自分の足で歩けるようになるためには何でもする。
 その覚悟でいたジュエルは、厳めしい顔の侯爵を前にして怯む気持ちをひた隠していた。

「……ふむ。本当に弟のためなら何でもすると?」
「はい」
「そうか……」

 しばらく沈黙が続き、ジュエルは苛々していた。
 セネットのことをハンソン夫人に任せてきているのだが、夫人にも仕事はあり、あまり時間はない。
 だが、かなりの高位貴族である侯爵に、たかが小領地の領主代理であるジュエルが急かせられるわけがない。
 今でも十分に無礼を働いているのだ。

「――わかった。手術代は出そう。我が家の客人が猟犬を置いていったばかりに起こった事故だからな」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし条件がある」
「何でしょう? 床磨きでも何でもします!」
「使用人は十分に足りている。必要なのは妻だ」
「はい、わかりました! 妻ですね! ……妻?」

 喜び興奮していたジュエルは、侯爵の条件をそのままのみ込もうとしておかしなことに気づいた。
 侯爵は書斎机に両ひじをついてそんなジュエルをじっと見ている。

「あの……妻とはいったいどういう……?」
「私と結婚するのだ」
「結婚⁉」

 わけがわからず目を瞠るジュエルに、侯爵は悪戯が成功したように笑う。
 その顔を見て、ジュエルは侯爵が噂とは違うのではないかと思い始めた。
 そして、ブレイクの笑顔に似ていると。

「私と息子であるブレイクが不仲であることは知っているかな?」
「あの……噂で少し……」
「あれの母親が亡くなってから、少しずつ私とブレイクはすれ違うようになってしまった。私もあいつも短気で頑固だ。妻がよく言っていたよ。私とブレイクはよく似ている、と。本当にそのとおりなのだろうな」

 侯爵は立ち上がると、窓の外を眺めながら語り始めた。
 その姿は懐かしそうでいて、寂しそうに見える。

「決定的なのは二年前だ。あいつに早く結婚しろとせっついていたが、遊び惚けてばかりで一向に真面目に生きようとしない。そこで強硬手段をとることにした。するとあいつは何をしたと思う? ああ、もちろん噂で聞いているだろうな」
「……はい」
「あのときは大ゲンカをした。それ以来、年に一度だけ嫌みったらしく放蕩者ども連れて帰ってきては大騒ぎして王都に戻る。今回もまたひどいケンカになってしまってな。ブレイクは予定を切り上げて王都に戻ってしまったん。よって、その猟犬については私の責任でもある」
「その……それと結婚とがどう……?」

 ブレイクと結婚しろというのならまだわかる。
 だが侯爵と結婚ということは、ブレイクを相続人から外すために子どもを――息子を望んでいるということだろうか。
 ジュエルは背中側に組んだしわだらけの侯爵の手を見つめ、唾を飲み込んだ。
 本当に侯爵と結婚できるのだろうか。
 自分に問いかけ、それからベッドに横たわった未だに生気のない顔をしたセネットを思い浮かべた。
 あんなに元気いっぱいだった弟が痛みに苦しんでいる。
 やはりセネットの元気を少しでも取り戻せるのなら、何でもやる。
 そう思ってぎゅっと両手を握りしめたところで、侯爵は振り返り、ジュエルの顔を見て目を丸くした。
 それから声を出して笑い始める。

「お嬢さんは誤解しているよ」
「……誤解?」
「ああ。心配しなくても、寝所は別だよ。この結婚を本物にしようとはさすがに思ってないからな」

 ひとしきり笑った侯爵はぽかんとしているジュエルにそう言い、また笑い始めた。
 わけがわからないでいるジュエルに、侯爵はようやく椅子を勧めた。
 そしてベルを鳴らして執事にお茶の用意を命じると、向かいに座る。

「若いお嬢さんを立たせたままで悪かったね」
「いえ……」
「これから私と君は共犯者になるんだよ」


~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~