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アイリスNEO1月の新刊の試し読みをお届けします
今回は大人気シリーズの最新刊 冬休みに既刊のまとめ読みもオススメですよ
『捨てられ男爵令嬢は黒騎士様のお気に入り6』
著:水野沙彰 絵:宵マチ
★STORY★
「何があっても、絶対に取り戻す」
黒騎士と恐れられているギルバートの妻となり、侯爵夫人として日々頑張っているソフィア。隣国エラトスの式典に夫婦で参加することになるが、式典の夜、ソフィアが拉致されてしまった。鎖国する島国ラクーシャで目覚めたソフィアはなぜか聖女とされ、年若い教皇サンティに求婚される。一方、ギルバートは残された手がかりからラクーシャに乗り込むが――!? 黒騎士様と捨てられ令嬢の溺愛ラブファンタジー、全編書き下ろしの第6弾!!
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馬車は正門をくぐってしばらく走り、使節団の馬車列に並び、やがて主城の正面で止まった。
御者が踏み台を置き、馬車の扉を開ける。
マティアスが先に、次いでギルバートが降り、エスコートのための手を差し出してくる。
「ソフィア、手を」
言われて、ソフィアはドレスの陰で左手をぎゅっと握り締めた。
ここから出たら、エラトスの王城だ。
かつてのソフィアがどのような暮らしをしてきたか、この地にどのような記憶があるかに拘らず、多くの国の使節達と対等に振る舞い、接しなければならない。
緊張しないと言ったら嘘になる。それでも。
「――はい、ギルバート様」
見慣れた黒い手袋に包まれた、大きな手。
この手が何もできなかったソフィアを、ここまで連れてきてくれたのだ。いつだって、ソフィアが前を向こうとするとき、その側にはギルバートがいた。
だから、不安に思うことなど無い。
ソフィアが手を乗せると、強引すぎない優しさで、先へと導くように引かれる。ギルバートの無表情の瞳に、心配の色が浮かんでいる。
ソフィアは大丈夫だと安心させるように、優雅に口角を上げた。
「――ようこそいらっしゃいました。こちらでご確認をお願いいたします」
正面入口の前で、エラトスの侍従が話しかけてくる。
前には数か国の使節団が並んでいるようだ。ここで確認をして、主城の中に案内する流れなのだろう。マティアスの侍従が前に出て対応するようだ。
使用人達が、馬車から荷物を降ろし始めた。
ギルバートはソフィアと手を重ねたまま、マティアスと何事か会話を始めた。二人の会話に入るのに遠慮して、ソフィアはなんとなく開け放たれた正面入口から見える城内の装飾を眺める。
そのとき、どこからか感じたことがない種類の視線を感じた。
背筋が寒くなるような、不安な気持ちにさせられる。
誰に見られているのだろう。
ソフィアは勢いよく振り返ったが、そこには馬車があるばかり。中には人が乗っているのだろうが、誰がこちらを見ているのかは分からない。
それでも、ソフィアは少し離れたところにある鮮やかな青色の馬車が妙に気になった。
咄嗟に手を強く握ってしまったからだろう、ギルバートがマティアスとの会話を切ってソフィアを見る。
「どうした」
「い、いえ。あの……」
こんなときに、ソフィアの気のせいかもしれないようなことで、ギルバートとマティアスを煩わせるなんてとてもできない。
ソフィアは不安に気付かれないように意識しながら、気になった馬車を指さした。
「あの……あの馬車が、気になりまして。綺麗な青色でしたので……」
ソフィアの指の先を辿って、二人が馬車に目を向ける。
「……珍しいな、ラクーシャ国の馬車だよ」
ギルバートが目を見張った。
「ラクーシャ国が来るとは、本当だったのですね」
「ああ。私も、あの国を外交の場で見るのはこれが初めてだ」
マティアスがギルバートに同意する。
ソフィアは侯爵家で教わった知識を頭の中の抽斗から引っ張り出した。
「ラクーシャ国というと、魔石が有名な国でしたよね?」
アイオリア王国の南にエラトスがある。エラトスは北、西、東に大小いくつもの国と隣接しているが、南側の国境には海がある。その海を船で更に南に行くとある島がラクーシャ国だ。
ラクーシャ国は中央に山があるほぼ円形の小さな島国で、周囲には魔道具で結界が張られているらしい。アイオリアの国境にある防御壁とはまた違う原理のものだったはずだ。
確か、独自の宗教を国教とした国だった。
「そうだ。非常に純度の高い珍しい魔石が有名だが、もう五百年もの間鎖国を継続している。そのラクーシャ国が唯一貿易をしている相手が、エラトスだ」
「唯一……」
ソフィアの呟きを聞いて、マティアスが頷く。
「エラトスはラクーシャ国から購入した魔石を転売して利益を得ているんだよ。純度が高く属性の無い、人間の魔力と親和性が高い特別な魔石……らしいね。私もちらっとしか見たことはないが」
高額で取引されるその魔石は、これまでエラトスと敵国であったアイオリア王国にはここ数十年以上入ってきていないらしい。和解後に輸入の話も出たが、具体的にはなっていない。
「まあ、だからこそアイオリアではこれほどに魔道具と魔法が発達したとも言えるけれどね。一般的な魔石で安定した魔道具を作るのは、本来とても難しいんだ」
ソフィアは、両親から幼い頃に貰った魔石を思い出した。
かつてそれは、魔力を持たないソフィアが魔道具を使う唯一の方法だった。数回魔道具を使えば壊れてしまう程度のものだというのが、一般的な魔石への認識なのだ。
「他国では、魔道具があっても使い捨てのような扱い方をされているものが多い。エラトスからの魔石は高価で純粋、耐久力もあるということで、一部の高位貴族向けか軍事利用されている国が多いんだよ。だから、今日集まっている国々の中でも、魔道具の生活普及率がアイオリアに並ぶ国は多くないだろうね」
ソフィアは驚いた。
ソフィアはレーニシュ男爵邸で、魔道具の無い暮らしに不便を感じていた。街で働こうと思っても、魔力が無ければ難しかった。
国によっては魔道具が生活に馴染んでいない土地もあるのだ。少し考えれば当然のことなのだが、魔道具に親しみのないソフィアは知らなかった。
「そうなのですね。……これまであまりそのような知識に触れずにおりましたので、興味深く感じます。国によって、様々なことが違うのですね……」
これまでも勉強してはいたが、それでも知らないことが多い。外交の場で話すのならば、その違いを念頭に置いておかなければいけないだろう。
そのとき、侍従の確認が終わったようで、耳打ちされたマティアスがソフィアに気遣わしげな目を向けた。
「ギルバートは問題ないだろうけれど、ソフィア嬢は大丈夫かな?」
隠したつもりではいたが、不安が漏れてしまっていただろうか。ソフィアは安心させようと、しっかりと頷く。
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
「……うん、大丈夫そうだ」
マティアスが頷いた横で、ギルバートがソフィアに向ける視線は、どこか心配を拭えないような色をしていた。
しかし、ソフィアも心配されてばかりはいられない。背筋を伸ばして、社交の場に相応しい侯爵夫人らしい微笑みを浮かべる。
侍従がそっと奥へと導くように手を広げた。
「ご案内いたします」
マティアスは完璧な微笑みでそれに答えて、きびきびと歩く侍従の後に続いた。ソフィアとギルバートもそれを追って歩き出す。
~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~
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