「写真撮ってくれませんか?」 . 鹿児島中央駅で突然話しかけられた。 「人に優しく」をテーマに生きている私は、思わず笑顔で返事をした。 (いつそのテーマ掲げたんか知らんけど) . 「すみません。写真撮ってくれませんか?」 「あっ、はい^^」 . 私はキャリーバッグを引く手を止めて両手を差し出し、彼女の手にあるAndroidを受け取ろうとした。 条件反射だった。 私は他撮りが上手い。 (他撮り→人を撮る、撮られること。自撮りの反対語) . でもその両手は、彼女の動きと上手く噛み合わず空を切った。 . 「いつも見てます」 . その瞬間私は彼女の隣に並ばないといけないことを悟った。 真正面から向き合っていたのでは彼女の要望に応えられないのだ。 . 「あっ、えっ、わっ!あ、ありがとうございます!嬉しい!」 突然のことすぎて間抜けな顔をしていた気がするし 周りの目が気になって何だか挙動不審になってしまった。 人前に立つ仕事に関しては10年も続けているし、ましてや人間としてこの世に生まれたってからも間も無く30年を迎えようとしているのに、私はいつまで経っても毅然として堂々と振る舞うことができない。 . インカメラにされたAndroidの画面が、こちらに向けられた。 「一緒に、お願いします!!」 . 彼女と一緒にその画面を見つめ、ニッコリキメ顔をする私。 . 「いきますよ?せーの!」 . カシャリと音を立てて切り取られたその一瞬、私はまるで芸能人の顔をしていた。 (いや一応芸能人である) . 「ありがとうございます!頑張ってください!」 . 速いビブラートの時に揺らす横隔膜のちょっと下辺りのらへんから、じんわりと湧き上がってくる何とも言えないハッピーな感覚が、 ピンクの服着た29歳の身体を支配する。 . ウレピイ。 . ウレピイんだけど終始 「ありがとうございます!」 しか言えない私の頭の回転の悪さと語彙力のなさ。 その不甲斐なさを補うかの如く 今ここに文章をしたためている。 . 戸惑いが過ぎて、ありがとうだけ繰り返してそのまま足早に去ってしまった。 . 握手のひとつでもしてあげれば良かったのに。 きっと笑顔もぎこちなかったにちがいない。 . それにしても朝イチからメイクをして、稼働が終わって駅につくまでメイク直しのひとつもしていなかった。 彼女と分かれてすぐにトイレに入ったけど、こんなに疲れ切った顔でいたのか。 情けない。 . 鹿児島の街はすっぴんで歩いてはいけない。とニヤニヤしながら思う夜だった。 #突然の物語風投稿 #みくばなし

MikuIchinoseさん(@mikuichinose)が投稿した写真 -