山なりほど怠惰でなく、ストレートほど鋭利でない。

 ぐんと伸びたパスは、しなやかな曲線を描いた。

 伸びるパスは軌道が美しいが、ゲームの流れを一気に変える威力を持つ。

 サントリー対三洋電機の頂上決戦。
 
 前半はサントリーが強固なディフェンスからペナルティゴールを重ね、リードを奪った。後半の序盤もサントリーが圧力をかける展開。ゲームの主導権は、あくまでサントリーにあった。
 
 ゲーム前から注目されたのは、ブラウン選手の投入時期だった。怪我でフルタイムを戦う状態までコンディションは戻っていないとみられるが、ゲームコントロールは群を抜く。ゲームを支配する「エース」のカードをどこで切るのか。三洋の飯島監督が選んだのは、サントリー優位の局面だった。

 ブラウン選手がラックから飛ばしパス。ストレートならパスの距離をかせげず、山なりのパスなら防御の選手がボールについてくる。微妙な角度で放り出されたボールはひと伸びして、味方の手に渡った。
 
 サントリーの選手はパスのスピードにわずかに置いていかれたようだった。広いスペースで、半分ぐらいずれた状態でボールを受けた三洋の選手が勝負。一気にブレイクし、トライを奪った。

 たかがワントライ。だが、あまりに重かった。

 たった一つのパスで、チームメイトが抱くブラウン選手への「信頼」は「確信」へと変わった。

 三洋の選手たちの勝利への確信はもう揺るがない。試合は決まった。


※業務中にチラ見で試合をテレビ観戦。ブラウン選手のパスをみた瞬間、思わず「うわっ」と声が出ちゃいました。ブラウン選手の一人の力でないのは当然ですが、やっぱりゲームの流れを変えたのは、あのパスだろうなあ。じっくり観戦して、また書きたいです。


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