早明戦は何が起こるか分からない。


理由は定かでなくとも、それは歴史が証明してきたことだ。


「早稲田、圧勝」。やはり下馬評はあてにならない。


負けなしの早稲田。3連敗の明治。その結果に意味はない。


試合開始から、6分にして気づく。これは「早明戦」なのだ、と。


早稲田陣22メートル付近でのラインアウト。明治は迷わずモールで攻め込んだ。


これしかない。


いったん崩されても、紫紺の塊はむくりと起き上がり、生き返る。


軸をずらしながら前に出る。


最後は縦一列で走りこんでゴールラインを一気に割った。


「重戦車」。かつて、誰もがうなずいた常套句が、目の前の力強さに違和感なく重なる。


そんな紫紺を待ち続けた国立競技場の空気が変わった。7点が重い。


明治が黄金期を築いた1990年代。あのころを感じさせるような試合運びを貫いた。


明治は自陣でキックをキャッチすると、タッチラインの外へ蹴りだした。


タッチに切らずに真っ直ぐ長いキックを蹴る主流にあらがう。


そこに意図が、きっとある。


タッチに出せば、カウンターはない。ハイパントもない。


試合が切れれば、フィットネスの差も際立たない。


早稲田の強みの一部は消える。


早稲田の不運も重なった。


明治陣ゴール前ラインアウト。身長193cmのロック中田選手の姿はなかった。


ラインアウトの要の一時退場が響き、流れを取り戻す機会を失う。


スローワーの有田選手も負傷退場。フランカー山下選手が代役を務めるが、安定しない。


ペースを取り戻せない早稲田に、明治が襲い掛かった。


縦ではない。今度は横だ。


味方の背中を通すパスで一気に外へ。


早稲田の防御ラインは中途半端に飛び出し、外に走る空間を与えてしまう。


明治はラックから振り戻して、ラインを形成したフォワードがつないでトライ。


14対0。予期せぬ何かが起きる。そんな高揚感が観客を包みこむ。


2本のペナティゴールで14対6と追いすがる早稲田。だが、依然として攻撃は上手く流れない。


得意のハイパントもスタンド山中選手のキックがやや深い。


高いボールを競り合ってキャッチできるセンター村田選手を欠き、ボールの再獲得まで至らない。


山中選手がキックパスを執拗に繰り返し、一気に外にボールを運ぼうとするが、つながらない。


トライで14対11の3点差に迫ったのに、仕掛けたのは早稲田の中竹監督だった。


日本代表の山中選手を替え、1年生の吉井選手を投入。


負ければ、無責任な批判を受けかねない。それでも替えた。


吉井選手は、山中選手に、おそらくキック力や突破力では及ばない。


だが、ラインを滑らかに前へ動かす。


順目を続けて攻めた後、滑るように逆目へ。


気配を感じさせずに、防御の勢いをとめる位置まで力みなくラインを上げる。


仲間への信頼が、そのプレーの根幹にある。そんな気がする。


捌きが早いスクラムハーフ櫻井選手の投入で、攻撃のテンポも一気にアップした。


ラインが前へと、しなり始める。


途中交代の星野選手が膠着状態を打ち崩す。


明治のキックからのカウンター攻撃。星野選手が地面を踏みしめる。力強い。


重たいラックから櫻井選手が瞬時に、軽くさばく。


センターの内山選手がプロップの瀧沢選手につなぐ。タッチに出そうになりながらも、何とか内に返す。


そこに人の影がすっと走りこむ。


堅実にサポートについた櫻井選手。


後半30分、逆転のトライ。16対14。


早稲田は負けてもおかしくない展開で、勝ち切った。


あきらめる瞬間まで奥底でうごめくアカクロへの情念が、勝利に触れた明治を引きずり下ろす。


それが早稲田。だから負けない。




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