いくら才能豊かな選手でも、「怪物」の称号は、たやすく得られない。
20年ほど前の花園。当たる姿勢をとらず、走り抜けるだけで相手を何人も吹き飛ばした選手がいた。
後に日本代表センターとして活躍した元木由記雄選手だった。
「怪物」は再び、花園に現れた。
高校生にして、7人制日本代表候補に選ばれた東福岡の布巻選手だ。
2年生として迎えた桐蔭との花園決勝。
昨年より、自ら突破する場面が減った気がする。だが、プレーは厚みを増した。
先制トライは、やはり布巻選手からだった。
前半9分。
スクラムから、センター布巻選手を当てにいく。3人のタックルに囲まれても倒れない。
猛々しく前に出るのでなく、余力を残したまま体を後ろ向きにターン。そのままモールを形成した。
じりじり密集に寄っていく桐蔭の選手たち。
東福岡のスタンドオフ加藤選手が動いた。攻撃する方向を左から右へと一気に変える。
ミスマッチ。スピードに劣る桐蔭フォワードとの1対1の勝負に持ち込んだ。
しなやかに加藤選手がかわし、トライをあげた。
攻撃側が立ったままプレーすれば、そこをとめるために防御側が密集に集まる。外のスペースで防御側の数が減り、攻撃側としては1対1の場面に持ち込みやすくなる。
才能集団とも呼ばれる東福岡に優位な戦いとなる。
防御でも「立ったままプレー」が貫いているのが、東福岡の強みだ。
桐蔭がトライを1本返し、5対5で迎えた前半23分。
東福岡のスクラムハーフ香山選手がタックル後、すぐに立ち上がり、倒れた選手を乗り越えてターンオーバー。タックル後、膝を地面に付いている時間が極端に短い。
スタンドオフ加藤選手のキックで敵陣深くに入り込んだ。ここから桐蔭ボールのスクラムで、東福岡が圧力をかけ、香山選手がチャージからトライ。10対5。
さらにトライを追加し、17対5で迎えた後半6分。
またもターンオーバーからだった。
自陣のゴール前でモールをつくった桐蔭。東福岡主将のプロップ垣永選手が絡んで、塊を押しつぶす。
その瞬間、東福岡の選手が群がった。次々に桐蔭の選手のオーバーを剥ぎ取る。立ったまま越えて行く。
1人1殺。1人が責任をもって、1人の動きを殺す。
加藤選手が、防御が薄くなった内を突いて防御ラインの裏に出てから、センターの山北選手にパスを放つ。24対5。
最後のトライは、再び布巻選手が起点。
布巻選手が当たるが、やはり倒れない。防御側が密集に集まる。
視野が広い加藤選手は、空いたスペースを見逃さない。加藤選手が、内側に入ってきたフランカーの西内選手にパスを返し、大きく前進。
最後はラックサイドをフッカー村川選手が突いて、ダメ押しのトライ。31対5。
桐蔭も最後まで必死に挑んだ。
孤軍奮闘ともいえるほど、東福岡の厚い壁を何度も突破したウイング竹中選手。
それでも、東福岡のゴール前でペナルティから素早く仕掛けたときには、立ったまま絡みとる東福岡のダブルタックル(2人目のタックル)に包み込まれた。
「怪物」に限らず、才能集団と呼ばれる東福岡の選手たちは献身的だ。
数え切れないほどのターンオーバーが、その証しだ。
個々の能力の高さだけでない。勝利に身をささげられる意識の高さ。
今大会5試合の総得点は史上最多の274点。
「高校史上最強」。この数字に頼らずとも、東福岡は、その呼び名にふさわしい。
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