本作品は、個性的な都会人を描かせたらピカイチの吉田修一の小説。


ファインダーの向こう側-横道世之介


作品の背景だが、大学名と時代は明かされていない。しかし、東京にある中堅の文系私大で、時代は昭和の終わり頃を想定しているようだ。


物語は、長崎県の港町で生まれ育った横道世之介が、大学進学のため上京し、小さなアパートで慣れない都会暮らしをスタートするところから始まる。
最初は、何かと周囲をハラハラさせる世之介だったが、図々しさと人柄の良さが同居しているような、どこか憎めない性格が功を奏して、次第に友だちを増やしていく。

普通のお気楽な大学生話の話かもしれないが、世之介を知る人々の20年後の物語が挟み込まれている構成が意味深であり、次第に世之介の将来が気になってくる。

しかし、物語は12ヵ月で終わっており、その後の世之介の生活は、20年後の知人らの言葉から推測するしかない。世之介の将来について余韻を残す作品である。


どうやら世之介は、学生時代に先輩からライカを借りたことから写真に興味を持ち、卒業後はカメラマンになったようだが、それも、読み手である自分の勝手な推測なのかもれない。


お人好しだと騙される。図々しいと嫌われる。そんな都会に馴染んで生活するには、ある意味気楽で、ほどほどに図々い、世之介のような性格が適しているのかもしれない。


都会で暮らし、都会で勝負すると決めた君、肩の力を抜いて頑張れ!