以下の文章は、昨日(4/20)の東京新聞のコラムの一部です。
 
 混み合う通勤電車の中で風体のよからぬ中年の男に声を掛けられた。三十年ほど前の話である。若い時の川谷拓三さんに似ていた。たまたま、自分は座っていた。「学生さんか」「ええ」「席をかわってくれねえか」
 男は健康を害しているようには見えない。むしろ頑強そうである。厚かましいなとは思ったが、断れば面倒なことになる気もした。席を立った。
 自分が座るのかと思っていたらそうではなかった。車内の奥から年老いた小柄な女性を連れてきた。「かあちゃん、席をかわってもらった」。母親はすみません、すみませんと何度も頭を下げた。男は、オロナミンCを自分に差し出した。「疲れちゃうからさ」
 この男を恐れた自分を恥じた。男のようにあっけらかんと生きたいとさえ思った。男には照れも遠慮もない。車内の好奇の目も気にならない。母親を楽にしてやりたいという気持ちしかなかった。あの母親にはいつまでも長生きしてほしいと本気で思った。あの男のために。

 “自分もこんな文章が書けたらいいな”と思いました。
 武骨な振る舞いの奥にある本当の温かさ・人間味が際だつ文章で、 同情に訴えない行動、信念に裏打ちされた勇気、感謝を忘れない心、他人を思いやる気持ちなどが読む者の胸を熱くします。

 こちらもいいですよ↓