静岡県の遊廓跡を歩く(復刻版) | お散歩日記

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路地裏、バラック、長屋、昭和の香りがする飲食街、遊郭赤線跡地、廃墟、古い町並み、山奥・・・・そんな場所を訪れては下手糞な写真を撮っております。

貴重な遊廓、赤線関係書籍の復刻活動をストイックに手掛けているカストリ出版による最新復刻本を読了す。







夏も近づく八十八夜、皐月吉日に発行されたるは、名立たる茶乃国静岡県の遊里各所を纏めた「八木富美夫著 静岡県の遊廓跡を歩く」。表紙写真は復刻にあたり遊郭部氏により撮影、焼津及び浜松の遊廓跡。







東海道飯盛旅籠時代からの系譜を受け継ぐ静岡遊里を時間をかけて隈なく歩いた八木氏の探訪記録。そして八木氏撮影の今では見ることの出来ない貴重な静岡遊里のカラー写真も多数収録。






原著は平成二十二年十月発行の「静岡県の赤線を歩く」。発行部数も少なく、静岡県内の図書館へ僅かに寄贈されているのみ。原著を入手はすることは困難。静岡の地に移り住み、本書と運命的な邂逅を遂げた小生、言わばバイブル的な一冊・・・・・。過去の拙ブログに少しばかりしたためております。








御年九十四歳を迎えた八木富美夫氏、本書は何と氏が八十九歳の時に執筆している。それも撮影、編集、印刷などOA機器を駆使してご自身で行っていると言う。氏と実際にお会いした遊郭部氏による編者解説には、八木氏の溢れんばかりの知的好奇心に圧倒させられた旨が綴られている。


あとがきに添えられているが、ご友人から「遊廓のことなど伝承もなくなる。後世のためにも本にまとめて下さい」と言われたのが執筆の後押しとなったよう。遊廓赤線の建物を撮影すること、文章による記録を残すこと、或は過去に記された記録を再発掘すること、其の温度が一頁一頁、一言一句紙面を通じて伝わって来る。


妓楼、カフェー跡が急速に取り壊されて行く昨今、静岡県内に於いても例外に非ず目下確認出来る遊廓跡は数少ない。しかし乍、過去の郷土資料などを注意深く紐解いて行くと、遊廓の記録を後世に残さんとした静岡県の史家との出逢いあり・・・・・。

八木氏が本書を執筆するにあたって参考にされた資料の幾つかを実際に入手してみると、氏と同様の知識欲を以て資料を編纂されている。実際に、資料を片手に「跡地」に赴き俯瞰すると感慨深さも一入・・・・・。


歴史の裏面に追いやられサブカルチャー的な位置に座するのを良しとされがちなジャンルであるが、両目を掌で隠しながらも指の間からこっそり盗み見るかの如き、誰もが関心の及ぶ廓世界。

それ故、仮令興味本位であったとしても、多くの人によって読まれ、探究されて然るべきでありましょう。静岡県内の遊廓愛好探訪の諸兄はもとより、県外の好事家諸氏にもお勧めの一冊であります。