先日久しぶりにABCマートで婦人靴を見てきた。
ABCマートは婦人靴は別業態で店舗展開しているのをご存じだろうか?

ABCマートの婦人靴のストア業態は「NUOVO(ヌオーヴォ)」。

新宿東口のお店に行ったのだが、お店を見ての印象はとにかく「小売としてのセオリー」をとことん実践していること。

ABCマートは
「接客、サービスがすごいから繁盛している」
「とにかく大量出店してブランディングしている」
等々色々と言われているが、本質的なポイントは異なる。

ABCマート成功の鍵は、小売として、「お客様に選択肢を提供していること」
そしてその選択肢の一つである自社商品(プライベートブランド、以下PB)については、徹底して自ら深くものづくりに入りこんで商品をつくり、価格と価値のバランスの高い商品(=コストパフォーマンスの高い靴)を実現していることにある。

「NUOVO」に行くと、とにかくミーハーな商品が置いてある。
ミーハー、つまり今巷で売れている商品、ということだ。
ミーハー、というのは何も悪いことではない。

ミーハーということは、マスの(多くの)お客様が望まれる商品だということだ。
つまり、多くのお客様に求められている商品なのである。

これは、小売の視点としては基本的に対応しなければいけない。
そう言うと
「そんな商品を扱ったらうちのお店の独自性がなくなる」
「どこにでもある店と変わらなくなる」
という反論が返ってくるがこれはお門違い。

そもそも小売が勝つための要素の内、商品(MD)面における鍵(キーファクター)は基本的に3つの方向性しかない。
それは、
1.そこに行けば何でも(いち早く)そろっている(利便性)
2.そこに行けば一番安く売っている(低価格)
3.そこに"しか"ない商品が売っている(希少性)

現実的には上記それぞれの要素をうまく組み合わせてそのお店ならではのポジション(お客様から認知される立ち位置、役割)をつくっていくわけだが、上述した「独自性が~」とか「どこにでもある店と変わらなくなる」といった指摘は売れているブランドの商品"のみ"を扱った場合のことでしかないのである。

なので、基本的には売れているブランドは積極的に仕入れつつも、他にニッチな商品を仕入れたり、独自の商品(PB)を揃えれば、十分に希少性を演出することができる。

冒頭の「NUOVO」に話しを戻すと、お店の中央には大量のUGG(アグ)のムートンブーツにミネトンカ。
共に、渋谷や新宿など街中を歩けば数メートルごとに履いている女性に出くわす、今が旬の売れ筋ブランドである。
そして同様にレインブーツはHUNTER(ハンター)、AIGLE(エーグル)。
売れているものは外さない。

そしてABCマートの競争力を決定づけるポイントはこの先に述べることなのだが、上記メジャーブランドの靴と並んでABCマートのオリジナル商品(PB)が並んでいるのだ。
しかも価格はメジャーブランドの半額以下。
ムートンブーツであればUGGは3万円。PBは1万円。
しかも、「ABCマート」の業態では同じムートンブーツでも5,800円で売っているのだが、NUOVOではユナイテッドアローズやロンハーマンなど大手有名セレクトショップも取り扱っている「VANS」の名前を冠して1万円台で売っている。

「VANS」がABCマートのPBだと知っている人でなければ、名の知れたブランドが勢ぞろいしていて、しかも「VANS」ブランドでもここにしかない商品(ムートンブーツ)が数多く揃い、その上価格としても高いものから安いものまで幅広い選択肢を提供してもらえている、と感じるだろう。

これこそが、お客様が「あそこに行けば欲しい商品が置いてある(買うことが出来る)」と感じるポイントなのである。
思えば「ABCマート」の名前を冠したスニーカー主体のお店(業態)でも、15年前くらいまでは、「Hawkins(ホーキンス)」「VANS(ヴァンズ)」というABCマートの2大PBも「何この靴、ダサい!」とはき捨てるくらい、粗雑なつくりだった。(スニーカーが多かった)
それが年を重ねるごとに、どんどんと改良されていき、今では有名セレクトからも声がかかったり、単独のブランドとしてアウトレットに出店をする位まで、ブランドのポジション(地位)が上がっている。

これは、「言うは易し、行うは難し」で、裏側で相当な努力と労力を費やして商品開発を行ってきた証である。
この姿勢こそが、ABCマートが勝ち戦を続けている要因。

小売としてのセオリーを忠実に実施しているABCマートには「さすが」と言うしかない。
婦人靴の分野では、まだまだ後発だと思っていたが、この前NUVOの靴を見てその認識は大きく変えさせられることとなった。
かつてのスニーカー同様、うかうかしてると婦人靴でもどんどんと品質が上がっていき、席捲されてしまうだろう。

そうなる前にどこまで対抗できるビジネスモデル、店舗網を築くことができるか…
残された時間は少ない。。。