『ユダヤの神髄は財力より知力』

ユダヤ人の頭のなか/アンドリュー・J・サター

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■ユダヤにまつわる誤解の数々

 いまだにユダヤ人が世界経済を影で牛耳っていると思っている人はいないだろうか? 確かに「ユダヤ人の~」といった金儲けのノウハウ本などの存在で、ユダヤ人は金儲けが上手いという印象を植えつけられている感は否めない。

 また、数々の歴史書により、ユダヤ人組織の謀略が存在するといった情報が氾濫していることも確かだ。そういった方はまずこの本を読んでユダヤの歴史やユダヤ人に対する誤解を解くところから初めてほしい。なぜならばそれなくしてユダヤの神髄には触れられないからだ。

 本書の価値は、何よりも著者自身がユダヤ人であること。そして(日本人の妻の存在により)日本の文化を鑑みながら、ユダヤの英知を日本人がどう活用したらよいかを噛み砕いて語っている点にある。

 昨今の類書に見られるように、ユダヤを題材にしながらも、ユダヤのことをあまり分かっていない日本人が書いている本とは全く異なるのである。

■ブレイン・サクセスこそユダヤの本領

 米国の歴史上、大富豪の大半は非ユダヤ系である。しかも現在ニューヨーク市に住むユダヤ人の13%は「貧困層」に属するという。では、ユダヤ人が何かに突出しているという印象はどこから来ているのか。その謎を解くキーワードこそが〈ブレイン・サクセス〉である。〈ブレイン・サクセス〉とは知力という意味であるが、日本でいう記憶偏重の学力ではない。

 例えばノーベル賞歴代の受賞者600人超のうち、世界人口のわずか0.02%(1,318万人)でしかないユダヤ人の受賞者が何と22%も占めている。実はこの知力こそが、ユダヤ人を特筆すべき存在に仕立て上げている本当の要因なのだ。

 そのような観点で改めて眺めてみると、本書はすべてが刺激的かつ実践的な“気づき”で埋め尽くされていることに思い至る。〈文化・言語への適応を促進する“マイノリティ意識”〉〈知見を広げ、柔軟な交渉術を身につけるための“異なる意見への寛容性”〉〈物事をシンプルに理解し、ユーモアを交えて分かりやすく伝えるための“論理力”と“想像力”を鍛える方法〉――どれを取ってもあなたにとって無駄な“トリビア”などないはずだ。

 ただ1点、問題を挙げるとすれば絶対解に対する暗記偏重教育を受けた日本人が、その対極にあると思われる〈ブレイン・サクセス〉の思考方法に切り替えることができるかどうかということだ。ひとえにそれはあなたの日々の努力にかかっていることは言うまでもない。