今回も書評になりますが、実は前回ブログにアップした「ユダヤ人の頭の中」の書評ともども、これらの書評は私が以前ダイヤモンド社の「DIAMOND online」内の書評コーナーの執筆を担当していたころの原稿をそのまま掲載したものです。

今回のテーマは財政破たん。
当時(本書出版時)著者がタイトルに活用していた「2008年」は過ぎたものの、日本が財政破たんに向けまっしぐら、という状況は変わらないどころか、ますます悪化の一途を辿っている。
2011年になって振り返って読んでみても、日本の財政における構造的な問題点は変わっておらず、その実態を理解するには非常に役に立つ良書だと思う。

■2008年 IMF占領(森本亮著/光文社)
2008年 IMF占領 (ペーパーバックス)/森木 亮

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「日本崩壊は目の前に…」

■財政破綻目前の日本

“253兆円”。この数字を見てピンと来た読者はこの数字が表す意味の重大性について、少なからず何らかの認識を持っているのではないか。(単に“聞いたことがある”だけかもしれないが)
これは財務省が公表した2002年3月末時点における日本国の債務超過額である。そしてこの数字は年々増加しているのだ。しかも2004年の年金改正法の影響で年金債務を負債に計上するのをやめてしまったため、その部分を加味すると債務超過の合計額は1153兆円にも達するという。
経済評論家として、日本が破産状態にあることを20年以上にわたって警告してきた著者によれば、日本は明治維新以降3度目の破産が目前に迫っているということだ。ちなみに1回目の破産は1904年から1916年第一次世界大戦中にかけて、そして2回目は満州事変勃発(1931年)から終戦(1945年)までの14年間がそれにあたる。そしてこの2回目の破産を国債発行残高で見ると、当時の税収116億円の12年分(1400億円)だった2回目の破産時の状況と比べ、2005年は税収44兆円の15年分にも達する(682兆円)という、まさに未曾有の危機的状況に瀕しているということがわかる。

■破産=破滅ではない

国の財政が破綻すると、当然のことながら国債は紙屑になるし、国民の日常の暮らし向きは大変苦しくなる。だが、かといって破産=破滅ではないことを著者は改めて強調している。むしろより恐れるべきは財政の破綻を契機として“知のデフレスパイラル”が進行し、人間そのものが空洞化してしまうことだと言う。
では、どうすればそういった最悪の事態を避けることができるのか。国の決算に厚化粧(民間企業で言えば粉飾)を施す一方で既得権益を維持しようとする官僚、政治家達で構成される『レント・シーカー(公的たかり屋)』を潰すことも重要だ。だが、著者は既に確実視される国家破産という現実を直視し、破産を日本再生のチャンスと捉えることで次代の繁栄を目指すことが肝要だと主張している。
論理の上でも数字の上でも絶望的な事実を突きつけられ、どうすればいいのか右往左往してしまうかも知れないし、“破産確実”のレポートを突きつけているだけのように映る著者に対して不快感を催すかも知れない。
しかし、綿密な取材と調査に裏打ちされた事実とその意味から、個々人が自分の頭で考える(官僚任せにしない)という意識と習慣が芽生えるかどうか……。そういった世界を実現できるかどうかが本書の価値を判断する唯一の拠り所となるだろう。