時差ぼけがなかなか治らないような感覚で、未だストーンズぼけが続いている。最終公演は先週の木曜だったが、翌日金曜などは頭んなかがストーンズでいっぱいで、原稿書きにまるで集中できなくて本当に困った。過去5回の来日公演も地方まで追いかけて観ていたし、それほど多くはないものの何度か海外でも観ている(リックス・ツアー開始時には幸運にもトロントでシークレットギグも観た)。もちろんその度に大興奮して観ていたわけだが、しかしいつもここまで後遺症があっただろうか。
どうも今回はこれまでを上回る侵され方をしているようなのだ。それほど凄い3公演だったということと同時に、いまの自分の歳も鑑みながらいろいろ思うことがあったということなのだろう。
心の底から「ストーンズがああいうライブを見せてくれている時代に生きられてよかった」「ストーンズと同じ時代を生きることができてよかった」と思っているのだ、ぼくは。

3日間とも最高だった。キースが不調だった初日にしたって、あれはあれで最高だった。ただ、2日目の「最高」は初日の「最高」を上回った。そして3日目はさらに「最高」だった。
これがストーンズなんだなとぼくは思った。ストーンズは「最高」を更新していくバンドだということだ。

1日1日が「最高」だったが、3日間通して観たら「最高」×3ではなく、「最高」×30くらいになった。3日間観てこその大きなドラマを感じることができた。3日間やってこそのダイナミズムがあった。

そうなった要因はふたつあって、ひとつはミックの計算。1日ではなく3日間でここまでの50周年ツアーで試してきたあれやらこれやらを見せようという計算だ。
例えば開幕曲。初日は50周年ツアーが始まってすぐの頃に何度かやってた「ひとりぼっちの世界」をやってくれた。が、2日目はいつも通りの「スタート・ミー・アップ」に戻した。そこでなーんだと思わせておいて、で、3日目にもってきたのは「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」だった!  この3曲の取り換えだけでもうドラマ性がある。
また各地でやってきたスペシャル・ゲストのコーナー。日本ではさすがにないんだな……と思わせておいて、いきなり3日目の昼間にあることが発表され、そして日本人アーティスト…布袋さんを出演させた。
そのように3公演のなかに50周年記念ツアーのうま味を散りばめ、3日間全部通った人も楽しませる組み立てをしていたわけだ。

3日間で大きなドラマが生まれた要因はそうした計算のほかにもうひとつあって、それはハプニングだ。即ち初日のキースの体調不良。それによって初日はミックの神がかったパフォーマンスがいっそう際立つことになったわけだが、2日目はキースがグッと復調し、ストーンズは本来のバンド力たるものを見せつけた。「どうしちゃったのよキース」、からの「これぞキース」。そこにはソチ五輪の浅田真央とよく似た感動があった。そして3日目のキースはさらに調子を取り戻していた。
また、今回の3公演はサポート・メンバーたちのいい仕事ぶりもやけに印象に残ったものだが、日本滞在期間中にアカデミー賞の発表があり、長編ドキュメンタリー賞でリサ・フィッチャーが出演している『バックコーラスの歌姫たち』が受賞したのも嬉しいハプニングだったかもしれない。リサは初日から迫力の増した歌声を聴かせていたが、それでも初日の「ギミー・シェルター」で少し歌が遅れたりもしていた。が、ステージ上でミックがリサにおめでとうの言葉をかけた2日目などは彼女も本当に嬉しそうで、だからかその日と3日目はもっとよくなった。

ほかにもいろいろあったが、例えばそういうひとつひとつが“3日間通してのストーンズ劇場”をより印象付けることとなった。

で、3日目の公演はどういったものだったかというと……「もっとも余裕のあった3日目」「メンバー全員、もっとも楽しそうだった3日目」。一言で表わすならこれだろう。
何しろみんなが終始ご機嫌に演奏しているようだった。キースは笑顔が増え、ミックはチャーリーの手をひいて花道を歩かせようとするなどして楽しんでいた。ロニーが前に出たり横の道に歩いてくる回数も増え、テイラーもだいぶ我を出すようになっていた。曲が終わるはずのところでそのまま終わらず、チャーリーがまた叩き始めてみんなもそれに合わせ、アドリブで続いていくという場面も2曲であった。とりわけアンコールの最後の「サティスファクション」。曲が終わったところでまたすぐに好きなように叩き始めたチャーリーのあの行為は、「まだ終わりたくないんだよ」ってな感情がそのまま出てしまったものに違いない。そのくらい楽しくやれたのだろう。そのくらい今回の日本を気持ちよく過ごせたのだろう。
ああ、気持ちで演奏しているんだなぁ。気分がよければそれが演奏にそのまま反映されるんだなぁ。つくづく人間らしいバンドだなぁ。そう思った。

因みに全公演通して少しも危うげなところを見せなかった…どころか、どこまで凄いんだと驚くしかないパフォーマンスを見せきったミックが、この日、とりわけとんでもない感じになったのもやっぱり大ラスの「サティスファクション」だった。曲の後半でミックはそれこそ悪魔にでも取り憑かれたようにヤイヤイヤイヤイヤ~とかなんとかわけのわからない声を出して狂ったような踊りをしていた。ロックンロール・サーカスで「悪魔を憐れむ歌」を歌ってたあのときのようなミックが突然そこに現れた感じだった。これもあれだろうか、快く過ごすことのできた東京の公演がこの曲で終わるという思いよぎっての、なんらかの感情の爆発だったのだろうか。そのときのミックのやばさ・凄さは、ぼくが観た今回の3日間のなかでも「印象に残った名場面」堂々第1位に選びたくなるものだ。

バンドだった。つくづく、どうしようもなく、ストーンズはバンドだった。バンドの面白さ、バンドの美しさ、バンドのリアリティ、その全てがあった。
完璧だから感動するんじゃなくて、ダメなところ込みで感動する。なぜってそれはロックンロールなんだから。とか言いたくなるくらいのものだった。


ところでこの日スペシャル・ゲストとして出て「リスペクタブル」で共演した布袋さん。意外な人選って言ってたひとが多かったらしいけど、ちっとも意外じゃないでしょ。ぼくは、歌で絡んでいく女性ゲストだったら志帆ちゃん、ギターで絡んでいく男性ゲストだったら布袋さん、このどちらかだろうと予測して昼にツイートもしたわけだけど。ちゃんと英語でコミュニケーションできる、ドームの大舞台に慣れている、キャリアがあって華もある、ストーンズを大好きでよく理解している、って絞り込みながら考えてったら布袋さんという答えに普通に行き着くわけで。彼はフジのグリーンでロキシー・ミュージックとの共演経験もあったしね。
というか、音楽性が違いすぎるとか言ってるひとは、じゃあイギリスやアメリカの公演でレディー・ガガやフローレンス・ウェルチやグウェン・ステファニーやトム・ウェイツやジョン・メイヤーやキース・アーバンらをゲストに迎えていたことをどう考えてるのか。それ、逆に訊きたいくらい。
しかもブーイングするひとがいたり、中傷コメントをファンサイトに送ったりするようなひとがいたなんてことを聞くと、もう唖然とするやら情けなくなるやら。そういうひとってミックのこと本当に理解してるのかなって思っちゃう。そもそもストーンズそのままのスタイルで弾くようなひとをミックが喜ぶわけがないでしょうに。
実際、布袋さんは演奏も態度も実に素晴らしかった。敬意と喜びの両方がそこに表れていた。キースも布袋さんのギターに発奮してたようだったし、ワンマイクでミックとハモった場面では正直布袋さんに特別な思い入れがあるわけじゃないぼくもめちゃめちゃグッときた。完全に適任だったし、本当に気持ちの入ったいい演奏をしてくれて嬉しかった。あれ見た上でも中傷するような言葉をおくるひとの感性ってのは一体どういうものなのか理解できんです。

まいいや。そういうひとが蟻みたいにち~っちゃく思えるぐらいにストーンズは大きなあり方を見せてくれたのだから。
それにあれです。今回のストーンズ来日でぼくはいろんなひととの出会い(再会も)があったし、最終公演のあとのストーンズぴあの打ち上げでは寺田正典さんの横の席でほかじゃ絶対聞けない詳細なライブ解説を聞くことまでできた(←はい、自慢です)。
視野が広がった感、大ありですよ。ありがとうストーンズ! ってなもんですよ。これで終わりな感じはいまはまったくないですよ。つまるところロールが大事ってことですよ。


最後に告知をひとつ。ともだちの作曲家・多保孝一くんがパーソナリティを務めるラジオ番組、RN2「Magic×Magic」に呼んでいただき、ストーンズの来日公演についてあれこれ喋ってきました。

放送は明日11日(火曜)から14日(金曜)の、14時(再放送は21時)。
http://www.radionikkei.jp/rn2/tt/   
よかったら聴いてみてくださいな。