都議選は何をもたらすか ――左右対立の終焉と改憲への道―― | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

 7月2日の東京都議選挙に向けていよいよ各党が動き出した。

 

 すでに各紙の世論調査では自民と都民ファーストの二強による争いとの見方が強いが、議席数にどこまで反映されるかはともかく、得票数はおそらく僅差になるのは間違いないだろう。

 

 もしもここで自民党が敗北することになれば、小池都政の足元はほぼ盤石となる。
 同時にこれまでの自民党一強という勢力図が都議会とはいえはじめて大きく揺らぐこととなるのも間違いない。

 

 しかしそれはすぐに「安倍政権の敗北」と「野党の躍進」を意味するかといえば、おそらくはそうではない。


 むしろより重要なことは、これまでの自民一強と野党共闘という構図が大きく変化することにある。

 

 「野党に求められているものとは何か?」

 

 今回、私はおそらく自民党の支持層が都民ファーストの会へ投票したとしても、現在の与党を支持する自民、公明の主流層の投票先はそれほど大きく変化することはないだろうと見ている。


 そしておそらく都民ファーストの議席を左右するであろう浮動票は、現在民進党や維新の会を支持している層から大きく移動することになるのは間違いない。

 

 このためすでに民進党では敗戦ムードが濃厚となっているようで、今後蓮舫代表の進退問題にも発展するのではないかとも懸念されている。

 

民進・蓮舫氏、正念場の都議選 離党相次ぎ、支持率低迷
http://www.asahi.com/articles/ASK6N4DCNK6NUTFK00B.html

 

 こうした民進党の支持率の低迷は、ひとつには「与党に対抗する野党」という立場に拘泥し過ぎたことに原因があったと思われる。

 

 ここ数か月の国会審議で、民進党は森友学園問題、加計学園問題などで安倍政権を追及し続け、安倍政権の支持率を下げることには
成功したものの、それは自身の支持率に結ぶつけることはできなかった。

 

 だが、それでも野党が現在の構図。

 つまり安倍政権、自民党の一強に対する野党四党の共闘という構図を維持できるのならば、まず政権を追い落とすことに集中するというこの戦略は必ずしも悪手というわけではなかった。


 民進党、共産党、社民党、自由党という中では民進党は確かに支持率はトップであり、野党第一党として政権との対決姿勢を見せ続ける限り、一定の支持層を獲得することはそれほど難しくはないからだ。

 

 ところがそこに小池百合子都知事と都民ファーストの会という新たな勢力が出現したことにより大きな誤算が生じることとなった。

 

 彼らの登場により安倍政権への不満が、民進党ではなく、都民ファーストの会、ひいては小池百合子に集中するという現象を引き起こしたからである。

 

 しかし、これは政治上のイデオロギーという観点から見ればいささかな不自然な話と思われるかも知れない。

 

 それはすでに明確に「改憲」の意志を標榜している「保守派の安倍政権」に対して、小池都知事も同じく「改憲」に前向きな姿勢を持っていることもあり、この点では「保守的」と見られることが多いからである。

 

 そうなると当然、安倍政権から小池百合子に移ったとしても政治上の大きな流れが変化することはないのではないかという疑念が出る。

 

 それならやはり「アンチ自民党の受け皿」になるべきは安倍政権下での「改憲反対」を標榜している民進党や、憲法九条を護ると主張している共産党になるはずだと考える人々もいるだろう。

 

 しかし、ここで思い出して欲しいのはそもそも第二次安倍政権以前の政局の構図はそもそも今のようなものではなかったということである。

 

 民主党への政権交代前、確かに自民党は政権交代を狙う民主党に議席、支持率の面では徐々に追い上げられていたものの、このときの民主党は現在の民進党のようなスタンスではなく、有権者にはむしろ自民党政権の以上の「改革派」だと見られていた。

 

 これは当時の民主党のマニフェストなどを見てもわかるように、教育改革や福祉政策など、いずれも斬新といえるほどの手厚く、大掛かりな変革を期待させるものが並んでいたからである。

 

 これに対して当時の自民党は厚生労働省のいわゆる「消えた年金問題」などをはじめ、既存の行政組織に翻弄される決めることのできない「守旧派」だと見られていた。

 

 そのため有権者が当時の民主党に期待していたのは「護憲」や、まして自民党の改革方針への対抗ではなく、長く続いた自民党政権の中で生まれた利権や癒着の構造を取り除き、これまでの官僚主導ではなく、政府に強い政治上のリーダーシップを発揮して欲しいということにあったわけである。

 

 民主党が政権交代に成功した理由はまさにこのためだった。

 今風にいけば「改革を前へ」というそのスローガンが有権者を引き付けたのだ。

 

 ところが現在の民進党他の野党には、こうした改革への志向性というのは、もはやまったくといっていいほど感じられない。

 

 それどころか民進党と共産党が「安倍政権の打倒」という目的で接近したことにより、返って政治上の命題が「日米同盟か憲法九条か」という、七〇年代の議論にまで後退してしまったような感さえある。


 現在インターネット上で行われている自民党の支持層と野党の支持層との論争が、もっぱら安倍政権への評価と、ほとんど極端なまでの「潰し合い」になっているのもこれが原因の一端であることは疑いがない。


 つまり、自民党と民進党とでは、あまりにも方向性の溝が深くなりすぎてしまたのである。

 それは一部の政治志向の強い人々は魅力的な闘争ではあっても、そうではない大半の有権者にはそれほど重要なはずもない。

 

 こうした中で「都政改革」を旗印に掲げた小池百合子都知事を一部の有権者たちが熱烈な歓迎を持って迎えたことは何ら不思議ではなかった。

 なぜなら、彼らが求めていたのが現状の改革であり、野党共闘のような「左右対立」ではなかったからである。

 

 これはネット上の論客たちが見落としがちな部分であるが、多くの有権者が支持の根拠としているのは政治的な心情や憲法の理念ではなく、果たしてこの政党、政治家は有権者のために何をしてくれるのか、という極めてシンプルな考えにあるということだろう。

 

「都議選は国政に何をもたらすのか」

 

 こうした政局下での都民ファーストの勝利、そして民進党の敗北は事実上「左右対立政治」の終焉を意味することになる。

 

 国会での議席数はともかく、有権者の期待を集める「革新政党」となった都民ファーストに対して、野党は何ら批判する口実を持ちえないためである。


 そうなると民進党としては対立するよりも、なんとかして小池都知事と連携したいと思うはずだが、すでに共産党と共闘している民進党が、都議会で公明党と協力関係にある都民ファーストに接近することはけして簡単ではない。


 さらに小池百合子都知事は以前から「憲法改正」には度々前向きな発言をしており、とくに自衛隊法の改正には自民党時代から強く訴えている。

 

小池百合子「法律や憲法を守っていると邦人保護できない」自衛隊法改正力説
https://www.j-cast.com/tv/2013/01/24162472.html

 

 安倍総理はすでに今年秋の臨時国会で憲法改正に向けた自民党案の提出を明言しているため、維新の会や、すでに都民ファーストの支持を表明している議員の中からも憲法改正に向けた議論に参加するという動きが出るのは間違いない。


 そうした中で民進党はあくまで共産党他野党と「護憲」を貫くのか、それともこの議論に応じるのかという選択を迫られることになるだろう。

 この点でも、都議会選挙に敗北した民進党は厳しい状況になるといえる。

 

 では、一方の自民党、そして安倍政権はどうだろうか。

 

 実をいうと、私は今回の選挙の結果によっては安倍政権にとってと、自民党にとってでは、まったく異なる効果が表れるのではないかとみている。

 

 ひとつは選挙の結果に対するものだが、これはすでに大方の見通しは立っている。

 

 仮に今回の選挙で自民党が都議会での最大会派を維持できたにせよ、公明党他の野党を足した数の上で、都民ファーストに議席数で勝てるという可能性はほとんどないからである。

 
 だが、それではこの都議選の敗北が自民党総裁、つまり安倍総理の進退問題にまで発展するかといえば、それはないだろう。

 

 そもそも都議会では、公明党と都民ファーストが組んでいるとはいえ、国政では依然として自民党と公明党とは連立与党である。

 

 当然、自民党と公明党との関係はこれまで通り是々非々ということになるだろう。

 

 さらにここでもうひとつ注目すべきは安倍総理と小池百合子都知事との距離感だ。

 

 もともと小池都知事は第一次安倍政権で防衛大臣を務めていたこともあり、両者の関係はけして悪いというわけではない。


 事実、小池都知事はこれまでも頻繁に自民党の批判を行っているが、それらはいずれも安倍総理に向けられたものではなかった。

 

 さらにすでに国会議員の中で都民ファーストとの連携を公言している長島昭久元防衛大臣や、維新の会を離脱した渡辺喜美元金融担当大臣らにしても、米国との関係に重点を置きながら、憲法改正に前向きであるという点では安倍総理や小池都知事と考えが近く、渡辺氏にいたっては小池氏と同様に安倍政権の閣僚だった経験もある。

 

 つまり安倍総理にとっては、政党間の確執こそあれ、もとは考えの近い議員がすでに都民ファーストの周辺には多いのだ。

 

 こうなれば当然今後の憲法改正に向けた動きでも、小池都知事やそれに近い議員たちと安倍政権が共闘する動きが出てくる可能性は高いと思われる。

 

 そして、実はここにこそ「仮に議会で改正案がまとまったとしても、世論が果たしてそれを支持するかどうか」というもっとも高いハードルをクリアするチャンスが潜んでいる。


「安倍総理の悲願? 『大改憲連合』への道」

 

 現在の安倍政権の支持率は依然とし各紙の世論調査でほぼ40%台と、加計学園問題などで多少下落したものの、まだ比較的高い水準にある。


 しかし、一方で政権に対する批判層も多く、数の上ではほぼ支持と不支持が拮抗しているといっていい。

 

 こうした中で自民党を中心に憲法改正の議論を進めることは、仮に議会を通ったとしても、国民世論がそれを納得して受け入れるかという点で厳しいものがあるといえるだろう。

 

 では、野党はどうだろうか?


 民進党はすでに述べたように、都議会選挙後の情勢によっては執行部の方針が変わることも考えられるが、現状ではまだ不透明であるし、共産党や自由党、社民党などはおそらく反対にまわるだろうと思われる。

 

 そうした中、憲法改正の議論に積極的に参加すると見られるのが維新の会である。

 

 維新も都議会選挙では相当の苦戦をすることになると見られるが、これはひとつには依然として世論の支持が高い橋下徹前大阪市長が
いまだに政界と距離を置いていることにある。

 

 もともと維新の会は橋下氏の存在に支えられていた面が強く、小池百合子都知事の登場により、改革志向の有権者の支持がそちらへ傾いてきた今となっては国政ではなかなか存在感を発揮し難いのは間違いない。


 このため維新の会は都議会でも小池百合子都知事への批判を強めているが、では一方の橋下氏のスタンスはどうかといえば、どうも判然としないところがある。

 

 橋下氏は確かに小池百合子都知事に対して強い口調で批判を繰り返している。

 

橋下徹氏、小池都知事の豊洲移転案を批判 「完全に選挙用のリップサービス」
https://www.j-cast.com/2017/06/22301379.html

 

 これだけを見れば「犬猿の仲」とも思えるが、しかし一方で橋下氏もまた安倍総理とは非常に良好な関係にあるとされる。

 

 このため、こと改憲を志向するという意味に絞ってみれば自民、公明、維新、そして小池百合子都知事とはそれぞれに微妙な差異はあるものの、大筋では合意できるポイントはすでに抑えているのである。

 

 このまま改憲の議論を「安倍総理への国民の信認」だけに任せるとすれば、果たして憲法改正が可能かどうかはまだまだわからない部分が多い。

 しかし、ここで高い注目を集める橋下氏や、小池都知事がともに「憲法改正」を訴えることになった場合、おそらく実現する可能性は格段に高まることになるだろう。


 これは安倍政権にとってはまさに千載一遇のチャンスであり、自民党には逆風となっても、改憲にはむしろ追い風となる。

 

 これまで安倍総理がしばしば訴えてきた「戦後レジームからの脱却」とは、つまるところ「戦後一度も変わることのなかった憲法を果たして日本人の手で変えることができるか」というテーマ(それは安倍総理の家系にとっての悲願でもあるが)そのものであった。


 当然、安倍総理としてはこの機会を逃すことはないはずだ。

 

 すでに8月には内閣改造を行うと明言しているが、これは憲法改正議論と、それに前後した総選挙まで見据えたものになることは間違いない。

 そのときにこの橋下氏や小池都知事との連携は大きなカギになるものと思われる。

 

 とはいえ、これは現状ではあくまでもまだただの想像でしかない。果たしてこんなにうまくいくものかどうか。

 

 しかし、そうした先々のことを踏まえても、今度の都議選が今後の政局を考える上で、非常に大きなターニングポイントになることだけは間違いないといえるだろう。

 

 

 今回も読んでいただき、ありがとうございました。