おはようございます。
気候は少し秋らしさを感じるようになってきましたね。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
さて、私は先月末終演しましたオペラ《ルル》の余韻から抜け出せずにいましたが、
良い加減切り替えなくてはいけないので名古屋に向かう新幹線の中、こうしてブログに綴っています。
約1ヶ月前に急遽代役のオファーを受けた、
東京二期会オペラ劇場
アルバン・ベルクのオペラ《ルル》
8月31日に無事に千秋楽を終えることが出来ました。
この1ヶ月、自分自身が極限まで集中してこの作品に向き合えた事に感謝し、
そして何より多くのお客様にこの素敵な作品を体験していただけたことに感謝致します。
カーテンコールではあたたかな拍手をありがとうございました。
ルルという人物が、どうしてこういう境遇におかれたのか、
必ずしも彼女がただ魔性というわけではない。
メッセージが色濃く伝わる演出だったのではないかと思います。
人生の間に1度は演じてみたかったシェーン博士という役。
まさかこのタイミングで、演じる事になろうとは思ってもいませんでした。
オファーを引き受けてから楽譜を読み解いていく過程で、
どうしても本番までの残り日数を考えてしまって、
何度も諦めてしまおうかと思うタイミングがありました。
歌の勉強が出来る全ての時間を注いだとしても、
1日で歌えるようになるのはせいぜい2ページか3ページ…
なのに本番までには100ページくらいを仕上げなくてはいけない。
その焦燥感に押しつぶされそうになるタイミングもありましたが、
結局はベルクの音楽の素晴らしさに助けられました。
ベルクの音楽の持つエネルギー、緻密な構成が身体に染み付いてきてからは、譜読みも暗譜もスムーズに進むようになり、
立ち稽古の後半にはシェーン博士として舞台に立つことが出来ていたような気がします。
普段、私はオペラや歌曲を勉強する際、
事前には極力CDやDVDなどの資料は使わずに、まずは歌えて覚えるまでは楽譜だけ見て勉強するように心がけていたのですが、
今回はそうもいきませんでした
海外の素晴らしいアーティストの方々の演奏にも随分と助けられました。
そして、なにより私が気持ちよく稽古に挑めたのも、
スタッフのみなさん、
キャストの皆様のあたたかいサポートのおかげです。
ある程度歌詞を覚えるまではシェーン不在のまま稽古を進めていただき、合流してからも常にあたたかな声をかけていただけた事によって、ミスしても気落ちせずチャレンジを続けることが出来ました。
まだ立ち稽古に挑むのが不安でしょうがなかった頃、
舞台スタッフの方に、入りのタイミングなどを袖で教えてもらっていた時のこと…。
スタッフさんの持つ楽譜が、日本語訳やマーカーなどでびっしりうめ尽くされていたのです。
舞台スタッフの方もこの作品に向かって全力で勉強をして、仕事をしている…
当たり前のことですが、それを改めて目にする事によって、
私自身も1つ覚悟が出来た気がしました。
オペラは舞台に立つ演奏家だけで成り立つものではありません。
数え切れないほどの舞台スタッフ、音楽スタッフ、演出チーム、照明さん、音響さん、美術さん、衣装・メイクさん…
全てが欠けることなく作品に向き合ってはじめて成り立つ芸術です。そんな環境の中、1人の役を演じるという責任のもと歌を勉強出来るのは特別に恵まれた環境、幸せな事だということを改めて感じます。
今の世の中、
これほどまでに多くの人が、1人も体調を崩すことなく本番を迎えられた事にも感謝したいと思います。
(⁂撮影中のみマスクを外し、私語厳禁で撮影しています)
作品のレビューなどについては、
SNSなどで多くの方に書いていただき、
嬉しく読ませていただきました。
シェーン博士は、最悪最低な人間であることには間違いありませんが、
演じていると、どことなく彼自身の信念、虚しさ、寂しさのようなものも感じられるようでした。
なかなか《ルル》という作品自体が上演される事は少ないですが、
またチャンスがあればこの役を演じたい…そう思えました。
今思い返してみると、
とても1ヶ月だとは思えないような…
1年間に感じるような濃厚な時間でした。
普段仕事は家に持ち込まない主義の私も、
この期間だけは家族にも迷惑をかけてしまったかも知れません。
会話の最中でも、
子供と遊びながらでも、
シェーンの汚く酷いドイツ語を呟きながら生活していました
これからはその分、何も考えずに遊べる時間を極力作りたいです。
今日からはまたしばらく名古屋滞在になってしまうのですが…
それが終わってからでも、ゆっくり夏休みを過ごしたいと思います。
そして最後に、
本来シェーン博士を演じる予定だった益光兄さんの回復を心から祈っています。
代役が決まってからすぐにフルスコアや参考資料などが送られてきました。
誰にも増して益光さんがこの役に力を入れていたと思います。
その無念を考えると、言葉がありません。
しかし、その想いを感じる事で、一層私自身も気合いを入れ直せましたし、益光さんからの手紙をいつも楽譜に挟んで挑みました。
また次は一緒にシェーン博士を演じられますように。
さて、
ブログを更新出来た事によって、心も切り替えられそうです。
今日からは16日本番のオペラ《あしたの瞳》に向けて名古屋にて集中稽古が始まります