「下鴨神社境内のマンション計画」報道に思う | 西陣に住んでます

「下鴨神社境内のマンション計画」報道に思う

下鴨神社




世界遺産の下鴨神社の境内にマンションを建設する[毎日新聞] ということで、テレビメディアが一斉に報道し、観光客や地域住民に街頭インタヴューしてその是非を問いました。


事情がわかっていない人が、そんなことを街頭インタヴューで問われれば、否定的な意見を述べるのが自然と思いますが、案の定その多くは否定的意見でした。


それに対して、私は下鴨神社の判断は至極まっとうであると考えています。


科学的な文明の発達に伴って、日本人の神への信仰心も薄れていると言えます。これはある意味、合理的な現象であると思いますが、宗教的収入に基づく日本の伝統文化財保存のための財源確保という点では非常に残念な方向性であると思います。京都の社寺も必ずしも例外ではなく、私も少ないながら寄付したり、桜や紅葉の季節を中心に定期的に拝観するようにしています。特に、神社の場合には基本的に拝観料を徴収しないため、その収入確保にあたっては、地域の氏子の寄付に頼る割合が多くなります。


そんな中での下鴨神社の今回の意思決定は、合理的なオプションの一つであったと考えます。ただ、そもそも、このマンションを建てるという「整備計画地」が、神域を意味する厳格な意味での「下鴨神社の境内」であるかというと、そうとは言えないと私は思っています。下図は整備計画地付近の航空写真です。整備計画地は世界遺産エリアとは自動車が普通に通行する御影通で隔てられています。


下鴨神社


もともとこの場所は一部が駐車場として使われているとともに研修道場のビルも建っています。さらに一時期はゴルフ練習場だったとされています。つまり、この整備計画地は、下鴨神社の所有する土地ではありますが、信仰に関係する境内と言える場所ではありません。事実、下鴨神社を何度訪れたかわからない私自身、一度も踏み入れたことのない場所です。そのような事情も説明することなく、テレビメディアは下鴨神社が神域を切り売りするかのように報道しているわけです。


そもそも下鴨神社は高野川と賀茂川の合流点に位置する場所に位置します。これは境内にある「河合神社」の名前の由来にもなっています。


下鴨神社


賀茂川の上流には下鴨神社の主神である賀茂健角身命の子を祀る上賀茂神社があり、高野川の上流には賀茂健角身命が常駐している御蔭神社があります。賀茂健角身命は葵祭の時にだけ御蔭神社から高野川を下り、御蔭通を通って下鴨神社の神域に入って来るわけです。したがって、信仰的な意味でも整備計画地は直接の神域の境界の内側、つまり境内ではありません。世界遺産エリアこそが真の意味での境内であると言えます。


信仰的な意味からこの整備計画地で唯一信仰対象となるものといえば、境内を流れる重要な小川(御手洗川、ならの小川、瀬見の小川)の下流部です。この小川は整備計画地の境界を通り、鴨川に至ります。むしろ整備計画地にマンションを作ることでこの小川をしっかりとプリザヴェイションできるのではと思います。


信仰的な知識を有しているとは思えないマスメディアのいい加減な報道によって、下鴨神社に悪い印象が付与されるのはいたたまれないことです。