東日本大震災から4年、風評の根絶を望みます | 西陣に住んでます

東日本大震災から4年、風評の根絶を望みます




東日本大震災から4年が経過しました。大切なご家族を亡くされた方々に深い哀悼の意を表すとともに被災されて今なお苦しんでいる方々を引き続き応援させていただきます。

地震発生から4年が過ぎてあらためて思うことに、震災直後から長きにわたって一部マスメディア、ソーシャルメディア、そして震災をイデオロギーの道具にした活動団体が繰り返した理性を欠いた言説や根拠を欠いた風評が、どれだけ日本を混乱させ、復興に対して不利な影響を与えたかということです。中でも福島に関する数々の風評被害を起こしてきた罪はあまりにも大きいと考えるところです。

特に科学的根拠に基づくことなく食品の風評被害を広めた似非科学者、科学的根拠に基づくことなく原発被害を脚色することで世の中を恐怖のどん底に陥れた新聞社は、その最たる例であると考えます。驚くべきことにこのような議論は今なお続いていて、昨年だけでも次のような報道がその根拠の欠落を専門機関によって指摘されています。

(1) テレビ朝日「報道ステーション」の甲状腺検査報道
環境省は、2014年3月11日(火)に放映されたTV朝日の番組「報道ステーション」において、福島県「県民健康管理調査」のうち甲状腺検査についての報道が事実関係に誤解を生ずるおそれがあることを指摘し、①甲状腺検査の結果と福島第一原子力発電所事故との因果関係、②福島第一原子力発電所事故直後の甲状腺の被ばく線量についての環境省としての見解を示しました。
[環境省:最近の甲状腺検査をめぐる報道について]

(2) 小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ 美味しんぼ」鼻血表現
「週刊ビッグコミックスピリッツ」2014年4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」において、放射線の影響により鼻血が出るといった表現、また、「除染をしても汚染は取れない」「福島はもう住めない、安全には暮らせない」など、作中に登場する特定の個人の見解があたかも福島の現状そのものであるような印象を読者に与えかねない表現があるとして、客観的な科学的根拠を基に上記表現に対する反証を示し、科学的知見や多様な意見・見解を、丁寧かつ綿密に取材・調査した上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とするよう、強く申し入れました。
[福島県:4月28日及び5月12日発売号における「美味しんぼ」について]

(3) 朝日新聞社「朝日新聞」吉田調書の誤報
東京電力福島第一原発で事故対応の責任者だった吉田昌郎所長が政府事故調査・検証委員会に答えた「吉田調書」が公開された2014年9月11日、朝日新聞社が2014年5月20日付朝刊で吉田調書の内容を論拠に「所長命令に違反 原発撤退」などの見出しで報じた件について、木村伊量朝日新聞社社長が、記事を取り消し謝罪する一方、朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)に検証を申し立てました。
[朝日新聞社:報道と人権委員会が初会合]

(4) テレビ朝日「報道ステーション」の川内原発をめぐる報道
原子力規制委員会は、2014年9月10日放送分の「報道ステーション」における九州電力川内原発原子力発電所の設置変更許可に関する報道内容に対して、①「火山の審査基準」に関する事実誤認、および②委員長の発言姿勢について誤解を与える編集を指摘し、事実関係を示しました。また、放送倫理・番組向上機構(BPO)では、この報道に事実誤認や不適切な編集があったと判断した上で、前回、国民の関心が高いニュースで2つの間違いをしたのは小さな問題とは言えないとして、放送倫理検証委員会による審議を開始しました。2015年2月9日にBPOはこの放送が放送違反に違反するという判断をしました。
[原子力規制委員会:9月10日放送分の報道ステーションでの報道について]
[放送倫理検証委員会:『報道ステーション』を審議]
[放送倫理検証委員会:『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見]

これらの報道はいずれも原子力に関わる事由を科学的に議論するというスタンスがまったく見られず、ただただ原子力をスケイプゴートにして、事情を知らない人たちの感情を弄ぶ内容であったと考えます。

私たちに必要なのは、ヒステリックな怒りではなく、冷静で理性的な議論です。例えば、過去に[記事:エネルギーのインフォームドコンセント]で書いたように、私たちにとって重要なのは電源の長所と短所を見極め、ハザードとその発生確率の積であるリスクを最小化することが重要です。リスクとしてはどういったものがあるかといえば、経済を阻害する経済リスク、環境を阻害する環境リスク、人命や健康を阻害する安全リスクなどです。どのリスクをどのような割合で最小化するかについては国民の価値観によることになり、ここに国民のコンセンサスが生まれることになります。

けっして、勘違いしてはいけないのは、Uncertaintyなこの世の中にゼロリスクというものは存在しないということです。震災直後に「想定外はもう許せない」というスローガンがありましたが、想定外がない世の中など存在しません。ちなみに、東京電力が防波堤を低いまま使用していたことは、想定外かどうかの問題ではなく、明らかにハザードの発生確率の低減に対する怠慢であり、けっして想定外と呼ばれるようなハードルではないと考えます。

また、福島の汚染水の海水への流出の問題で安倍首相がアンダーコントロールおよびブロックしていると発言したことへの批判ですが、これはまったくのナンセンスと言えます。港湾の出口付近では検出限界に達しないような濃度になっているということは、工学的にアンダーコントロールおよびブロックしていると言えます。一定のスレッショールドに達しない放射線は人間に対して無害であることは、ラドン温泉で判明しています。むしろこの世に何台あるかわからない自動車の排気ガスの方が発癌リスクが数オーダー高いと言えます。このようにまったくアンダーコントロールおよびブロックされていない自動車の排気ガスによる死亡・健康リスクの低減こそ、人類にとってはむしろ喫緊の課題であると言えます。

[ストレステスト]の項目がしっかりと反映された場合に、原発の安全性で問題となるのは、避難の問題であると私は考えます。福島で災害関連死(disaster related death)が大きい原因は避難によるところが大きいことは自明です。20km圏内や30m圏内という避難区域を長期間解除しなかったのは、民主党政権の大きな失敗であったと思います。今回の事故において、線状の移流・拡散・湿性沈着という放射線の移動メカニズムは火を見るよりも明らかであり、等次元状の批判区域を想定した政府の判断により、普段の生活に長期間戻れずに命を落とされた方がいる可能性もあります。このような災害関連死の発生を最小限にとどめるためには、非常時に患者データをマネジメントできるような計算機システムを構築することが重要であると考えます。加えて、科学的根拠に基づくことなく発生した「福島には住めない」などの風評を、根拠をもって迅速に否定するような放射線計測システムの構築も重要であると考えます。少なくとも今回の原発事故においては、放射線で亡くなった方は報告されてなく、亡くなった方は移動した方に限られています。

さて、震災直後においては、このブログにもものすごい数のコメントをいただきました。

[東京電力の計画停電を考える]
[今こそサマータイム導入を]

その多くは励ましのコメントで恐縮なのですが、中には、ヒステリックに批判のための批判をしているようなコメント事例がいくつか散見されました。論理的な批判であれば受け入れましたが、そのほとんどは自らのプレゼンスを主張するミーニングレスなものでした。今読んでみると結構笑っちゃうんですけど(笑)、こういう時ってこういう人たちがあらわれてくるんですね。ただ、そのような類の言説は今でもあります。次のコメントは昨日入ってきたものです。

記事[陸前高田の震災復興現場を訪れました]

6 ■何か違う感じがしませんか?

近くの山を切り崩す。この時点で自然環境が破壊されている気がします。風を遮る山が無くなり、竜巻や突風などが起こりやすくなるのではないでしょうか?また生半可な盛り土の上に住宅を建てるというのは、また大きな地震が来た時に地盤沈下や液状化を引き起こす気がします。誰が間違ってる、間違っていないの話ではなく、もう少し思慮深く考えるべきと小生考えます。

地質学専攻大学生 2015-03-10 11:13:05


このコメントに対する私のコメント返しは次の通りです。

7 ■地質学専攻大学生さんへ

山の斜面の中腹を切土しているので、風を遮る山がなくなるなどということはありません。このような切り土は、人間の民生・運輸活動などのため、日本全国普通に行われている開発行為であり、復興現場に対して唐突に問題視するのは理解に苦しみます。また、カットスロープしたからと言って竜巻や突風の発生確率が大幅に増すなど考えられないことです。日本全国の住宅地・道路・鉄道斜面にどれだけ多くの切り土があるかご存知ですか?また、生半可な盛り土をコントラクターがすると思ったら大間違いです。そもそもコントラクターの技術研究所には、大規模な風洞試験や土質試験施設があり、日本有数の専門工学技術者が、世界をリードして地盤沈下・液状化の問題にあたっています。技術的な問題点を科学的な視点から定量的に挙げて問題視するならまだしも、何か間違っている感じがするということで問題視するのは、世の中を不要に混乱させ、復興をも妨げる要因となります。少なくとも、地盤工学会「土と基礎」、英文論文集「Soil and Foundations」等をよくレヴューしてから意見を言われるべきだと考えます。

kazu 2015-03-10 23:32:15


根拠を述べずに「何か違う感じがする」とする発言は、「サンデーモーニング」の関口宏氏が得意とするものです。コメントを読むと、「自然環境の破壊」「竜巻・突風」「生半可な盛り土」など、どこかのありがちな賢人が言いそうな言葉ですが、このような言葉は復興を遅らせ、高台で安心して暮らしたい被災者の方々の希望を踏みにじるものであると考えます。切り土は自然環境の破壊に違いありませんが、その自然によって住居環境を失った人たちが再び住めるよう、行われているものです。これは人間が生存するために必要な行為です。ここの切り土や盛り土を問題視するならば、日本全国の宅地造成を優先して問題視すべきであり、もっとつきつめて言えば、家を作ること自体問題視すべきです。また、切り土と言っても、地域の風況を大きく変えてしまうようなことを人間ができるかとなるとそれも極めて考えにくいです。竜巻・突風のメカニズムが風通しによると考えているのもナイーヴです。地盤沈下や液状化を考えるのであれば、まずは東京都であることは間違いありません。第四紀層が厚く分布し、新第三紀層が出てくるまで70~80mもあるからです。当然このようなリアス式海岸の基盤ではこのような地質構成はありえないことです。何が言いたいのかわかりませんが、世の中を不要に混乱させ、復興をも妨げるような風評はもうそろそろやめた方がよいと強く考える次第です。