現場…色々物語⑬ | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

その回のワークショップは、遠鉄のカルチャーセンターではなく、浜松の駅から少し離れた場所で開催された。


私とIさんは、駅からタクシーで会場に向かった。


今回の私のスケジュールは、一日目が夕方から一クラス、二日目が昼と夕方の二クラス。


私が浜松に到着したのは、二時をまわった頃だった。

タクシーに乗り込み、会場に向かう。


途中、私は突然に吐き気を催した。


私は乗り物酔いはしないし、その日の体調が悪かった訳でもない。


『なんだ?こんな事初めてだ…。』


なんとも言えない気分の悪さに、私は窓を開け、そして何故か、腕時計を見たのである。


『14:47…。』


Iさんは怪訝な顔で私を見ると


『どうかした?大丈夫?顔色悪いよ?』


と心配そうに聞いて来た。

『大丈夫。なんでもないよ。』


タクシーが会場に着く頃には、吐き気も治まったが、私は何やら解せない思いで、妙な不安に駆られた。


『何でもないさ。』


私は自分にそう言い聞かせると、会場に入った。




その回のワークショップも盛況で、沢山の人が集まってくれた。


毎回、全てのスケジュールを終えた後は、ワークショップに参加してくれた生徒さん達と食事に出掛ける。

こうしたコミュニケーションは、疲れた身体を癒してくれる楽しい時間だった。


しかし、今回は初日のクラス終了後に、遠鉄のスタッフの方々と食事をする予定になっていた。


遠鉄のお偉いさんのお誘い…


いわゆる、接待と言う奴である。


まぁ…接待と言う物はいつでも何処でも、想像通りの物であり、さして面白い物ではないが、断れない物でもある。



昼間の吐き気は、あれ以来起こらなかったので、私はその事をすっかり忘れていた。



宴も闌(たけなわ)…


時刻は9時を回っていた。

食事が終わった私達のテーブルに、店の人がやって来た。


店の人は私に


『ご宿泊のホテルから、緊急のお電話が入っております。』


と告げた。


私がホテルからの電話に出ると


『ご家族の方から、至急連絡する様にとの事で御座います。』


と言われた。



当時はまだ、携帯電話が普及しておらず、現在の様に何処に居ても本人に連絡出来る、と言う時代ではなかった為、私は取り急ぎIさんとホテルに戻った。




フロントで、父が倒れた事を知った。


私は部屋に戻ったのだが、そこには留守中にフロントから届いた大量のメッセージがあった。


事の重大さが窺えた。


電話を取り、フロントで教えられた番号にかける…。

病院であった。


家族に取り次いでくれた。

受話器の向こうに母が出る。


『すぐに帰ってらっしゃい!お父さんが倒れたのよ!』


私は、即座には声が出ず、喉の奥に何か、固い物が詰まった様な息苦しさを覚えた。


『な…なんで?いつ?』


『今日、2時半過ぎよ!心筋梗塞を起こしたの。』




私が吐き気を催したあの時間…
父は倒れたのだった。


《続く》