ニューヨーク物語⑤ | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



三ヶ月のビザしか発行して貰えなかった私は、些かショボくれた。


慣れないお役所回りにヘトヘトになり、何とかかき集めた書類をドキドキしながら大使館に運んだと言うのに、こんな結果になろうとは…。



今思うと、私の大雑把な性格その物を見事に反映している旅行計画である(笑)。


しかし、私の杜撰な旅の支度はまだまだ終わらなかった。



滞在先については、何ヵ月か先にニューヨーク入りしたダンサー仲間の所に転がり込む事になっていた。


私は、そのダンサー仲間のM君と手紙のやり取りをし、ニューヨークの情報を得ていたのである。


彼は既にニューヨークのレストランでバイトを始めていた。


今も、ニューヨークには、バイトをしながら日々ダンスの修行に励む、若きダンサー達が居るのだろうが、当時もこうした日本人が少なくなかった。



私も勿論、そうするつもりでいたのである。
図々しくも、観光ビザで入国し、ダニエルのダンス公演に出演出来るその日まで、石にかじりついてもニューヨークに居座るつもりだったのである(笑)。



『いつやる』とも決まっていないダニエルのダンス公演。
もしかしたら、何年も先の話になるかも知れない。


しかも、単なる口約束、もしかしたら、ダニエルの気が変わり、公演など行わないかも知れない。



しかし当時の私には、そんな考えは微塵も無く、絶対にダニエルの作る舞台に立つのだ!と信じて疑わなかった。


この時の私は、怖い物知らずもいいトコで、なんの不安も持ち合わせていないのである。


全く、若いと言う事には驚嘆させられる(笑)。




さて…



ある日、M君からまた、手紙が届いた。


それに寄ると、バイトは簡単に見つける事が出来るであろう事、ダニエルが教えているSTEPS STUDIOの詳細や、私が転がり込むアパートの家賃について…等々、私のニューヨーク生活に必要な内容がビッシリと書かれていた。


私はこの手紙を大切に持ち歩き、暇さえあれば何度も何度も読み返し、目の前に迫った摩天楼での生活に思いを馳せていたのである。



『片道チケット』では入国させて貰えない、と言う事で、私は往復の航空チケットを購入した。


しかし私は、この航空チケット購入においても、やらかしてしまうのである。



無知だった私を恥じるつもりはないが、この大雑把さにおいては、大いに恥じるべきであろう。



三ヶ月しか貰えなかった観光ビザ、M君からのニューヨーク情報満載の手紙、そして、この往復航空チケット。



大雑把かつ、杜撰な私の手に寄って準備された恐怖の三点セット…。



この三点セットが、間も無く自分を窮地に追い込む事を、若い私はまだ知らない…。


《続く》