長く教えていると、様々な生徒と出会う。
踊れる奴、踊れない奴、センスのある奴、無い奴、気付く奴、気付かない奴、楽しむ奴、楽しめない奴…。
本当に様々である。
覚えの悪い奴であってもいい。
真剣味が感じられるならば、亀の歩みであっても構わない。
どんなにド下手であっても、真摯な態度があるなら結構だ。
しかし中には、私が『出入り禁止』を言い渡さねばならなかった生徒達も居た。
私に対し、ストーカー行為に走る生徒。
クラス内外で、他の生徒達に迷惑を掛ける生徒。
こうした連中に対し、私は再三再四注意を促す訳だが、迷惑行為が治まらない場合は『出入り禁止』を宣告せざるを得ない。
初めは私の判断で宣告する訳だが、中には、私が『出入り禁止』を宣告したにも関わらず、平然とクラスにやって来る生徒も居たのである。
こういう輩には、一般常識は通用しないから困ったモンである。
こうしたケースの場合は、スタジオの社長に通報し、スタジオ側から正式な『出入り禁止』が通達される。
素行如何によっては、私のクラスのみならず、スタジオに出入り禁止と言う重い判断が下される。
オープンスタジオで、毎日不特定多数の生徒が出入りする場所で、一番困る生徒は恐らく、盗癖のある奴であろう。
人様の持ち物や金銭に手を出す…
これはもはや罪悪であり、出入り禁止どころの騒ぎではない。
さて…
私はかつて、数人の生徒をスタジオ側から正式に、私のクラスへの出入りを禁止にして貰った事がある。
最初に出入り禁止宣告をしたのは、まだ私が二十代…クラスを持ち始めてから何年も経っていない頃だった。
その生徒は初めは極普通の生徒の一人であった。
真面目な印象であったし、どちらかと言うとおとなしく、引っ込み思案な所のある生徒だったのである。
ある日のクラス、彼女は私に腹痛を訴えて来た。
『先生すみません。ちょっとお腹が痛くなっちゃって…。後ろで見学させて下さい。』
見ると、確かに彼女の顔色が悪い。
『大丈夫?見学は構わないけど、帰った方がいいんじゃないの?』
『いえ!少し休めば大丈夫です!』
彼女は、教室の後ろの壁にへっぱりつく様に体育座りで見学し始めたのだが、結局その日はクラスが終わるまで体育座りしたままだった。
当時私はまだ、インストラクターとしても人間としても若輩者であったし、いくら自分の生徒とは言え、一人一人の体調や体質までを把握しきっている訳ではなかったし、ましてや医者ではないので、こうした場合は本人の自覚に任せるしか無かった。
『先生、今日はすみませんでした。』
クラスが終わると、彼女はそう言って帰って行った。
私は、何の懸念もなく彼女を見送ったのだが、その日を境に彼女はどんどんおかしくなって行ったのである…。