新型爆彈 | 御舂屋(おつきや)のブログ

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2014年からブログを書いていますが、最近半分以上ブログを消しました。

前日の夜、山口縣の宇部が一晩中空襲された。
私は母や妹の住んでる九軒町の家にゐた。朝になつてサイレンもとれたので、寢床にもぐりこんだ。
疲れきつてゐて、とてもよく眠つたやうだつた。










見馴れない珍しく不思議な夢を見たと思つた刹那、緑靑色の海の底みたいな光線が瞼の上を夢ともうつつともなく流れた。
へんな夢を見るのねと思つた瞬間、名狀
し難い强烈な    が起つて、私は体が粉々に飛び散つたような衝動をうけた。
爆彈の地に落ち込むダダンといふものでもなく、ザザツと雨のやうだといふ焼夷弾のものともちがひ、カチインといふ金属的な抵抗しがたい音だつた。 一瞬という言葉がこれほとを適切に感じられたことはかつてない。
それでも私は二十個も三十個もの焼夷弾が寢床のうちへ降りかかつたのだと思ひ、きよろきよろとそれを探した。
それにしても火が見えない。私は木のやうに吹きとばされたやうだつたけれど、前夜から寢ていた座敷に絣(かすり)の着物を着て立つていた。

つむぎのゑんじ色がはつきり見えたが、そのほかの一切のもの、寢床も蚊帳も、枕元にあつた防空服も頭巾も、何も見えない。もうもうと立ちこめた壁土の煙で耳も眼も口もおほはれて、私は咳をしきりにした。家は屋根も壁も窓もふきとび、腰をねぢつた形でやつと骨がらみのまゝ立つてゐるだけである。野つ原に私はただ一人立つてゐる感じで、見えるはずのない隣近所がまる見えだつた。見えないはずのお宅の門だけが見え、ペシヤンコの家の前から若いお嬢さんが、私を見てアツといつたのをきいた。
ふと妹があがつて来た。階段をあがつて来た妹は顔から全身   まみれになり白い洋服にはぽたぽたと    の滴が流れ落ちてゐた。
「お姉さんは私より傷が軽いわ。どうかして降りてちやうだい」
左の耳から頬に流れる    汐があたたかく首の上に落ちて來る。やつと逃れ出る穴をつくつて這うやうに屋外から出るとき、まなざしを今一度部屋に向けた。



私どもは裏庭を隔てた場所で生きてゐる顔を合はせた。見渡す限りの家がいちどうに倒れてゐる。靑い光と强風のやうな爆風とは全市をおほい、アツといつた間に殆どすべては崩れ倒れてゐたのである。美しかつた森の空地には近所の方の誰彼が    をしたたらせて集つて來た。

その間に見た現実はこの世の    卷であつた。

河原は引き潮で細い清らかな水の流れ外は白い熱砂であつた。そのうへに点々と人が座り寢ころび佇んでゐた。
六日は一日ちゆう爆発のおとがとどろき火のついた大きな        や板橋が强風に吹きあげられて    のうへにふりかゝつた。
空は    なほ    く、潔い雲のなかを眞紅の太陽の火玉がどんどん落ちて來た。







七日になつて河原に來た救護班の手當をうけた。
七日の夜は朝まで綺麗な東京の言葉で

「お父さまアお母さまアー いいのよウー  いいのよウ。おかへりあそばせエー」

と絶叫しつづける若い娘の聲が聞えた。「氣がちがつたのね」と私たちは涙を流しとほした。


昭和20.8     子洋  田大

昭和20.8.7    


廣島へ新型爆彈
B29少数機で來襲

相當の被害、詳細は


廣島を焼爆
六日七時頃B29は廣島市へ侵入、焼夷彈爆彈をもつて同市付近を攻撃、このため同市付近に若干の損害を蒙つた模様である
朝日.昭和.20.8.7

、それまでは従來の防空対策、すなはち都市の急速な疎開、また横穴防空壕の整備など諸般の防空対策を促進する要がある、今次の敵攻撃に見ても少数機の來襲といへども、これを過度に侮ることは        である

トルーマンのごときも新型爆彈使用に関する聲明を発してゐるが、これに迷ふことなく、それぞれの強い敵愾心をもつて防空対策を強化せねばならぬ
朝日.昭和20.8.8


、その対策が完成すると共に冷静に帰したごときも、その一例で、今回の新型爆彈に対しても着々と対策が講(かう)じられるであろう
とにかくこのやうな敵の非人道的な行爲に対しては我方の断乎たる報復を覚悟せねばなるまい
朝日.昭和20.8.9


必ず壕内待避
新型爆彈まづこの一手

内務省では廣島に於ける新型爆彈の被害状況にかんがみ八日左の防空総本部當局談を発表、新型爆彈に対する防御方法を指示した

、その爆風の威力は强大でまた非常な高熱を発し、相當廣範圍に被害を及ぼすものであるが、次の諸点に注意すれば被害を最小限度に食い止め、かつ有効な措置であるから各人は実行しなければならぬ

一、壕外、屋外にゐなければならぬ者は      をする        があるから身体の露出部を少なくするやうにせねばならぬ、夏の服装は短衣軽装だが、新型爆彈に対しては手足などを露出しないやうにせねばならぬ
一、倒壊家屋から    を発した例が多いから待避する時は台所その他の火の用心をすること
朝日.昭和20.8.9


新型爆彈に勝つ途

新型爆弾と廣島戦訓

敵の新型爆彈はいはば、″熱線爆彈″とでもいふのか空中で炸裂すると同時に爆風とともに强烈な熱線を発し熱線の威力は大体半径○キロ、破壊力○キロに及ぶが熱線に対しては遮蔽すれば絶対大丈夫だが半袖シヤツに半パンツなど半裸体でゐた場合この熱線に直射されるとたちまち皮膚がびらんする、薄シヤツを着てゐた場合でもシヤツを透して皮膚面に水泡が出てゐる、だから半シヤツ半パンツはぜったいにいけないし、出来るだけ体を晒さないことが肝要だ

この程度の爆彈はわが國においても既に実験中のものでありこれを要する敵の    稱(しよう)する新型爆彈は決してわれわれの想像を絶する如き凄いものではない、従来の戦訓を徹底    行し地下に潜ることに徹つすれば何も恐るべきものではない

一、新型爆彈に対しては待避壕は極めて有効であるからこれを信用して出來るだけ頑丈に整備し利用すること
二、軍服程度の衣類を着用してゐればやけどの心配はない、防空頭巾および手袋を着用してをれば手や足を完全にやけどから保護することができる
三、待避壕を突差に使用し得ない場合は地面に伏せるか堅牢建築物の影を利用すること、
八日発表した心得のほか以上のことを実施すれば新型爆彈もさほど怖れるといふことはない、なほ新型爆彈に対する対策は次ぎ次ぎに発表する

掩蓋のないものは無効に近く地下式の待避壕であれば絶対大丈夫だ、廣島では三メートルの厚みのある壕では無事であつた例がある
朝日.昭和20.8




これら    慘禍の    後これら戰災者達が逃れる行列は恰もこの世ならぬ幽霊部隊そのものだつたといふことだ

目だけがぎらぎらと憤激に燃えてゐるがどの顔も体もガラスの破片で    みどろ、やけどでずるずるになつた顔をゆがめて唸つてゐた、
半身白骨になつてゐるのがあつてやつと男か女かの區別がつく位で誰が誰だかわからない





原子爆彈輸送に
米國側も苦心
わが潜艦、積載旗艦を轟沈
廣島市の爆撃から一週間前の七月三十日、グアム島からレイテ島へ原子爆彈を積んで航行中の米第五艦隊旗艦は同真夜中すぎわが潜水艦の砲撃二発をうけて大爆発を越して沈没した
朝日.昭和20.9.10







裂分の核子原ンラウ
匹に萬二藥火で量少最
、所謂(いわゆる)連鎖反応により中性子は莫大の数に達し、存在するすべてのウラン原子を爆発的に分裂させるのである、
この現象を越こさせるには特殊な處理を施したウランの一定量以上を用ひる必要がある、最小量のウランを使用した場合発生するエネルギーは普通火藥一万乃至二万トンに匹敵する、
このエネルギーは熱光線より波長の短いX線に至るまでの輻射線および放射線すなわちアルファ線、ベータ線などの形に進化する、これによつて発生する莫大な熱量がすべての物質を氣化し大爆発を惹起せしめ大爆風の原因となる、
また爆壓は音の速さ即ち毎秒三百メートルで傳はるから中心から少しはなれた地点では閃光を感じた後速やかに處置すれば家屋倒壊による難を避けることができる、又引火し易い、光を吸収し易いもの、たとえば藁、黑布のやうなものが照射によつて発火することがあるのは前にのべた通りである
朝日.昭和20.8.16



   の結終爭戰
るさ發渙詔大
帝國、四國宣言を受諾
畏し、萬世の爲太平を開く
、これに引續いて同日開かれた閣議において帝国戰力との徹底的測定と諸般の国際狀勢に関する検討が行はれたのをきつかけとして、急速なる進捗を見せ、
畏(かしこ)くも帝国基本方針こゝに決定、
「日本政府はポツダム宣言が陛下の國家統治の大權を變更するがごとき如何なる要求も含まざるものとの諒解の下に同宣言を受諾する用意ある」
旨のものであつた、
この大御心によつて四筒國の回答文を受諾するといふ方向け一決、こゝに大詔は厳かに渙発せられ、大東亜戰爭は遂に終結を見ることゝなつたのである

朝日.昭和20.8.15