本が売れないからと、いろんな涙ぐましい努力をするのは結構なことだ。新聞でも好意的に後押しするように、記事として取り上げてくれる。だけど、ちょっと待った。それをしたからといって、本は売れるのか? 読まれるのか? なんだか本末転倒で、小手先だけでみんな考えて、根本的な読書をさせるということから始めないと、解決されないのではないのか。前に無人書店のことを取り上げた。それは売れないから人件費も出ないので、苦肉の策で、経費節減というだけではないのか。全然、本が売れるとか読まれるとかの問題ではない。

 それと同じことで、今度はシェア型書店。これは古本業界では前からあったことで、水をさすようだが、別に目新しいことではない。軽井沢の追分だったか、一度近くまで行って、遠いので引き返したが、そこの古書店もやられていたし、全国にあちこちあった。場所貸しで、ひとつの四角いスペースには何冊入るのだろうか。50冊は入らないだろう。写真で見たら10数冊が並んでいるだけ。それで月額場所代が4400円のところもあった。その費用を回収するために、新刊なら利幅が2割よりないので、何十冊売らないといけないのか。古本でもどうか。元古本屋だから、売れないと予想する。ただでも新刊書店や古本屋で売れないのに、そんなちまちまとしたスペースでいくら売れると思っているのか。自己満足にすぎず、きっと続かない。持ち出しが多く、やめる人が多くなり、やがて閉店が見えている。押し本とはいうが、中には売れないで困っている自費出版の本もどっさりとあるだろう。それらは書店で返本になった売れない本ばかり。それをまた並べても、誰が見るのか手にとるのか。小さな店のさらに小さなスペースという一隅で、あまり入らない客の目に止まるのか。と、わたしは批判的にこれを書いているが、実際そうだと思うのは、わたしもやってみたことがあるからだ。

 

 一時、東京は千駄木辺りの古本屋さんたちが、一箱古本市をやられて、いいことをやったなと、あたこちでそれを真似た。いまもやられているのかどうか。あれから何年かして古巣の千駄木に行ったら古書店二店は閉めていた。それは古本屋という業者だけでなく、個人で蔵書を捌くためにもやられていた。店頭にずらりと並ぶダンボール箱にまるで、フリマか捨て猫あげますというような具合で本を箱に入れて売る。

 わたしらがやったのは、スーパー源氏という古本のネット販売サイト主催の、神田神保町にあった三省堂のビルの四階のスペースに、ひと棚ずつ借りて、青森から、本を送り、並べて売ったのだ。全国のスーパー源氏参加の古本屋さんたちがひと棚ずつずらりと出店していた。それはひと棚でも200冊以上は並んだ。スリップだけは用意しないといけないが、それも三省堂さんのレジで販売できるようにするためで、バーコードを印刷して古本にはさんだ。それを一年ぐらい続けたか。赤字でやめたが、やがて、三省堂さんの別館も、改装工事で閉めてリニューアルすることになり、スーパー源氏さんのコーナーも撤退して、いまはどうなっているのか。うちでは、「食」に絞り、食の関係図書だけを最初はずらりと並べた。神田はカレーの店や飲食店も多く、グルメブームなので、それに関連した食文化の学術書などを並べたが売れないで、最後は都内の食専門の古書店さんに高く買ってもらった。

 

 シェア型書店は元締めは最初は損をしないことになっている。何十人と参加したら、店の経費は出るだろうが、それも次々に抜けたらどうなるのか。本のマンションとうたってやられているところも、入居率が減ると、管理費も出なくなる。いろんな試みとしてはいいことだが、読書人口はますます減って、増えることがない。要するに、本読みを増やすことから政府も策を講じないと、何をやっても無意味なのだ。電子書籍が出たから本が売れないのではない。電子でも読まれているのは雑誌とマンガで、活字本は読まれていない。通販で本を売るから町の書店は閉店してゆくのではない。通販でも本というものは売れなくなっている。ダウンロードして読むから、紙の本ではないのだ。みんな勘違いしている。無駄な努力をして、そういう業態に起業して飛びつく人はよくよく現状を見てからでないと、火傷をする。赤字覚悟でやられるのはいい。儲けようとしてやるのは危険で、そういう独立書店を始めた人の損益も新聞に出ていたが、サラリーマンをしていたほうがずっといいと話していた。

 うちの古本屋も何年か前に倒産して、いまその息子と暮らしているが、息子はサラリーマンのほうが確実に給与はもらえるし、気楽だと言っている。生活費も出ないで、貧乏していた古本屋時代は地獄であった。どんどん売上は下がり続け、底が見えない恐怖でやられていた。店は客が入らないで閑古鳥。支払いの督促状だけが溜まってくる。たまに電話がきても、銀行からで、月末の入金は大丈夫なんでしょうね。リアルな話、それが経験したことだ。

 

 本が復活するには、ネットをやめるよりない。昔に戻るよりない。低俗で悪質な危険いっぱいのフェイクばかりのネットを禁止して、30年前の生活に戻ると、学力も戻るかもしれない。詐欺や犯罪も減るかもしれない。わたしもネットでこうして書いているのに、なくせだと? 矛盾していると思うが、これからはますますネットも頭も腐ってくるのはどうしようもない。