国立ハンセン病資料館不当労働行為事件・東京都労働委員会救済命令にあたっての声明 | すくらむ

すくらむ

国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

1 事案の概要

 本件は、国立ハンセン病資料館に長期に渡り勤務してきた学芸員らが、ハラスメントや労基法違反などが横行する職場環境の改善を求めて労働組合を結成し資料館の管理運営を受託者する日本財団に対し様々な要求をして活発に活動していたところ、2020年4月1日付での受託者の変更を契機に、笹川保健財団が労働組合の中心的な役割を担っていた組合員2名を不採用とした事案である。

2 東京都労働委員会命令の概要

 本命令(2022年3月15日付命令・5月9日交付)は、日本財団と笹川保健財団の間に密接な関係が認められる本件においては、笹川保健財団による不採用が、従前の雇用関係である日本財団との関係において、組合員であることを理由とする不利益な取り扱いに当たるという事情が存在する場合には不当労働行為に該当するという判断基準を示した。


 その上で、資料館運営への批判やハラスメント問題等を広く訴える組合の活動は日本財団にとって好ましくないものであったこと、笹川保健財団の採用試験における多面評価の実施方法や組合員2名の不採用理由が極めて不自然なものであること、日本財団と笹川保健財団が資料館内の防犯カメラで組合員らの活動状況を監視しようとしていたことなどの事実関係を認定した上で、笹川保健財団が日本財団と一体となって組合活動を警戒し、採用試験の不合格という形式を装って組合員を資料館から排除したものと断じ、不採用は不当労働行為にあたると判断し、組合員の職場復帰と陳謝文の掲示を命じた(労組法7条1号違反)。

3 本件命令の意義

 判例上、採用行為については原則として企業の自由とされ(三菱樹脂事件・最高裁昭和48.12.12)、採用拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなど「特段の事情」がない限り、労組法7条1号の不利益な取扱いに当たらないとされている(JR採用拒否事件・最高裁平成15.12.22)。この「特段の事情」の内容については、事例判断が積み重ねられているところであり、これまで認められた例としては、事業譲渡の際の雇入れ拒否の事例(ドリームアーク事件・京都府労委平成21.8.12)や請負から派遣に切り替えた際の採用拒否の事例(東リ伊丹工場採用拒否事件・兵庫県労委平成31.4.25)などがある。
 

 不利益取扱いにあたる場合を限定的にとらえるこの最高裁判例は学説上厳しく批判されてきたところではあるが、本件は、この最高裁判例の枠組みを踏襲しながら、本件の受託者変更に伴う採用拒否について不当労働行為の成立を肯定できる「特段の事情」があると判断したものである。
 

 公的施設の民間委託が進められる中で、現場の労働者は不安定な地位におかれる一方、声を上げにくい現実がある。そのような中で、職場環境の改善を求める組合活動を嫌悪した使用者が採用試験の不合格という形式で行った組合員排除について東京都労働委員会が厳しく断罪し、このような脱法的なやり方を許さない判断を示したことは、労働組合の活動による職場環境の改善を後押しするものとして重要な意義がある。


4 笹川保健財団は速やかに命令に従うべきである
 

 厚生労働省管轄の人権啓発の場で、管理運営団体による組合員排除の違法行為がなされたこと、そしてそれを東京都労働委員会が断罪したことは極めて重大であり、日本財団および笹川保健財団はこの命令を真摯に受け止めなければならない。また、人権尊重を謳う国立ハンセン病資料館でこうした問題が放置されれば、めざすべきハンセン病問題の解決にも支障をきたすことは明らかである。笹川保健財団は速やかに東京都労働委員会の命令に従い、組合員2名を職場に戻した上で、職場環境の改善を求める労働組合の要求に誠実に対応すべきである。

2022年5月10日
国家公務員一般労働組合国立ハンセン病資料館分会
同弁護団弁護士今泉義竜・同小部正治