(劇評・12/24更新)「25年後の魔法少女の取り扱い」なかむらゆきえ | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2022年12月10日(土)20:00開演の劇団羅針盤『魔法少女続けました+LOVE!!』についての劇評です。

劇団羅針盤『魔法少女続けました+LOVE』は、現代のスーパーマーケットを舞台にした前半と、大正時代を舞台にした後半の2部構成だ。

14歳から25年間魔法少女を続けている吉乃森(宮崎裕香)。彼女が働くスーパーに、魔法少女オタクの太田(能沢秀矢)が面接にやってくる。気が弱そうで優しそうな店長(平田知広)の下で働きながら太田は魔法少女の秘密とその敵の正体を知ることになる。

前半はテンポがよく、地元ネタの笑いをふんだんに取り入れていた。ただ、地元銀行とそっくりな制服の高校がどこなのかピンとこなかったり、地名はわかるけどそこから繋がるあるあるネタが理解できなかったり、わからないものも多かったのでテンポが良い分、置いてけぼり感が残った。25年間魔法少女を続けているという設定は、長くアイドルとして活動しているTOKIOなどが思い起こされてとても希望があると思った。残念だったのは吉乃森が魔法少女として戦う場面がなかったことだ。戦う描写は太田と店長が2本の指を人の足に見立てて、再現をしたものだった。この再現そのものは男子二人がごっこ遊びをしているようで、前半軽やかさを感じさせる場面の一つだった。そこに吉乃森が魔法少女として戦う場面があれば、前半は完ぺきだったと思う。設定としては変身するとチラシや当日のパンフレットにあるような「ジュエルウィッチバニー」の姿になるのだろうか。太田は光に包まれてよく見えなかったから吉乃森の年齢の女性が魔法少女だとは気づかなかったという。その光が物理的なものか、ファンであるため憧れすぎて直視できなかったのか。どちらにせよ、25年のキャリアを積む魔法少女に期待していたし、その姿に熱狂したかった。

後半は遡って大正時代。東雲一族は鉱石を採掘し精錬して様々な形の武器を作っていた。前半に魔法少女・吉乃森役の宮崎裕香が一族の一人である東雲ハルを、悪の組織とつながっていた店長役の平田知大は元居た組織から追われている爺さんを、魔法少女オタク太田役の能沢秀矢は爺さんが抜けた組織のナンバー3である三郎を演じた。東雲一族が海外から来た魔法を取り入れて魔法アイテムであるほうきを作ったことで魔法少女は生まれた。この時生まれた魔法少女は鉱石の採掘場で一緒に働いているチヨ(澤田京華)だ。ここから現代の魔法少女に繋がるのだろう。

大正時代の後半が終わると、現代のスーパーマーケットに舞台を戻すことなくエンディングとなった。すべてのキャストの決めポーズで締めくくるのだが、魔法少女チヨはしっかり魔法少女のコスチュームをまとった姿で登場する。スーパーの吉乃森さんは相変わらずエプロン姿だし、「ジュエルウィッチバニー」のトレードマークであるツインテールでもない。ここでちょっとした疑問がわく。コスチュームの有り無しは、どこで線引きをしているのだろうか。チヨとスーパーのエプロンを付けた吉乃森さんが、それぞれのほうきを持ってポーズを作る。その場面でさえ変身しない吉乃森さんに変身させない理由はなんだろう。前半と後半とで魔法少女に対する扱い方が違うのはどうしてなのか。

前半と後半の繋がりを示す存在としてあった、「ラリーくん」にも疑問がある。ライオンのぬいぐるみに似た「ラリーくん」はそれ自体がどのような力を持つものがわからなくて、結果的に前半と後半を物語としてつなげることを難しくしていた。もう一つ、スーパーにあった「精錬潔白」の札も大正時代からつながるヒントだったが、こちらももう少し説明が欲しいところだ。また、組織を抜けた爺さんと追う三郎の攻防がアクセントとしては強すぎたし、メインだとしたら前半と後半の印象が違いすぎて一つの作品としてとらえることが難しくなる。大正時代はもう少し魔法少女の謎解きを中心に展開したほうがわかりやすかったのではないだろうか。

劇団羅針盤は一見わかりやすい受け狙いの会話や派手な殺陣で取っ掛かりがよさそうに見える。だが、その割合を間違えると主張や物語の筋など、本来伝えたいものが見えにくくなる。それが意図的なのかそうでないのかわからない。彼らはこの「かなざわリージョナルシアターげきみる」に毎回のように参加している石川県内では中堅の劇団だ。この先も長く活動を続けてほしい。だからこそノリや勢いだけでなく、もう少し作り手の考えや思いが伝わる表現にシフトしてもいいのではないかと思う。

(以下は更新前の文章です)



劇団羅針盤『魔法少女続けました+LOVE』は、スーパーを舞台にした前半と、大正時代を舞台にした後半の2部構成だ。

14歳から25年間魔法少女を続けている吉乃森(宮崎裕香)。彼女が働くスーパーに、魔法少女オタクの太田(能沢秀矢)が面接にやってくる。気が弱そうで優しそうな店長(平田知広)の下で働きながら太田は魔法少女の秘密とその敵の正体を知ることになる。

前半はテンポがよく、地元ネタの笑いをふんだんに取り入れていた。地元ネタはわからないものも多かったのでテンポが良い分、置いてけぼり感が残った。25年間魔法少女を続けているという設定は、とても希望があると思った。残念だったのは吉乃森が魔法少女として戦う場面がなかったことだ。戦う描写は太田と店長が2本の指を人の足に見立てて、再現をしたものだった。この再現そのものは男子二人がごっこ遊びをしているようで、前半軽やかさを感じさせる場面の一つだった。そこに吉乃森が魔法少女として戦う場面があれば、前半は完ぺきだったと思う。設定としては変身するとチラシや当日のパンフレットにあるような「ジュエルウィッチバニー」の姿になるのだろうか。太田は光に包まれてよく見えなかったから吉乃森の年齢の女性が魔法少女だとは気づかなかったという。その光が物理的なものか、ファンであるため憧れすぎて直視できなかったのか。どちらにせよ、25年の歳月を感じる魔法少女が目の前に現れたら、私のテンションは上がっただろう。

後半は遡って大正時代。東雲一族は鉱石を採掘し精錬して様々な形の武器を作っていた。前半に魔法少女・吉乃森役の宮崎裕香が一族の一人である東雲ハルを、店長役の平田知大は元居た組織から追われている爺さんを、魔法少女オタク太田役の能沢秀矢は爺さんが抜けた組織のナンバー3である三郎を演じた。東雲一族は海外から来た魔法を取り入れて魔法アイテムであるほうきを作ったことで魔法少女が生まれた。この時生まれた魔法少女は鉱石の採掘場で一緒に働いているチヨ(澤田京華)だ。スーパーの吉乃森さんとは違って、しっかり魔法少女のコスチュームをまとった姿で登場した。ここでちょっとした疑問がわく。コスチュームの有り無しは、どこで線引きをしているのだろうか。エンディングにコスチューム姿のチヨとスーパーのエプロンを付けた吉乃森さんが、それぞれのほうきを持ってポーズを作る。その場面でさえ変身しない吉乃森さんに変身させない理由はなんだろう。

前半と後半の共通点であるライオンのぬいぐるみに似た「ラリーくん」は、魔法少女がスーパーで働く世界とをつなぐアイテムだったが、「ラリーくん」自体がどのような力を持つものがわからなくて、結果的に前半と後半を物語としてつなげることを難しくしていた。もう一つ、スーパーにあった「精錬潔白」の札も大正時代からつながるヒントだったが、こちらももう少し説明が欲しいところだ。また、スーパーで働く3人と同じ役者が演じる大正時代の3人は少し捻りが強すぎて、繋がりのヒントだとしたらわかりづらい。さらに、組織を抜けた爺さんと追う三郎の攻防がアクセントとしては強すぎたし、メインだとしたら前半と後半の印象が違いすぎて一つの作品としてとらえることが難しくなる。大正時代はもう少し魔法少女の謎解きを中心に展開したほうがわかりやすかったのではないだろうか。

構成的に大正時代の後のもう一度現代のスーパーで戻ってわかりやすい答え合わせが欲しかった。羅針盤は一見わかりやすいパフォーマンスで取っ掛かりが良いものしているが、本質をパフォーマンスで見えにくくしている。それが意図的なのかそうでないのかわからないが、もう少し作り手の考えや思いが伝わる表現にシフトしてもいいのではないかと思う。