僕はわりあい患者さんの要請に応じるタイプの精神科医で、例えば、「○○という薬を処方してほしい」と希望した際に、強く拒絶することは滅多にない。ただ、その薬を服薬した際の見通しは助言することが多い。
例えば「貴方は忍容性が低いのでその薬を服用し続けることは難しいでしょう」といった感じである。なお、患者さんは「忍容性」なる用語は知らないので、わかりやすく「貴方は副作用に弱いので変更しても継続するのは厳しい」くらいに言う。それでも服用したいというものを強く禁ずることは稀でとりあえず処方することが多い。
それどころか、患者さん本人が全ての処方薬を決めてほしいくらいである。
これも統合失調症や双極性障害などの内因性疾患の場合は話は別である。長期的に安定している処方を変更し、増悪することそのものが予後を悪化させるため、処方は変えない方が良いと助言する。
異なるタイプの非定型抗精神病薬や定型抗精神病薬への変更であれば、その方が良いケースもあり得るので変更するケースが増える。一度、体験してもらった方が、今後良いことも多いからである。
ただし、慢性期の統合失調症の患者さんは自分の処方に関して無関心なことが多く、薬について言及することは少ない。
真に病識がない統合失調症の入院患者さんは、人にもよるが「自分は統合失調症ではないので薬を止めてほしい」などと言う。なぜ、本人の薬が統合失調症に対する薬がわかるかと言うと、スマホで調べるからである。結局、本人が統合失調症でないと思っている以上、本人から他の抗精神病薬への変更を希望することはない。
薬の変更を希望する人々は統合失調症の人は相対的に少なく、神経症やASDやADHDの人たちが多くなる。ここで変更を容認することが多いと書いたが、コンサータなどの特別な向精神薬はまた別である。
なぜ今日の記事でこのようなことを記載したかと言うと、患者さんによれば、精神科医には処方変更に全く応じない医師もいるという話だからである。そのようなことを聴くと、僕はかなり柔軟な対応をしている方だと感じた。
転院に関してもそうである。患者さんから、「友人が○○クリニックに行って良くなったから転院したい」という希望をされる。このような際、どこに行っても変わらないような人は意外に少なく、転院しても悪い結果しか起こりそうにない人が、そのように希望することが多い。これは悲しいことである。
しかし、これもほぼ応じる。ただし意見は言う。例えば、「貴方は入院歴が多いので、クリニックでは悪化した際、どこに入院するかなど面倒なことになるので、転院するなら単科精神科病院が良いでしょう」などである。本人は噂だけでそのクリニックに惚れ込んでいる様子なので、その助言は受け入れられない。
あと「これは良くないと思ったら戻って来て良い」とも伝える。僕は本人の希望で転院する時、出戻りは問題ないのである。これだと患者さんも転院しやすい。
このような経過で、何度も出戻りした患者さんがいる。僕の診たてでは、最高に良い経過にいると思うが、何か本人に不満な点が残っていて、友人の誘いで転院してみようかと思うのであろう。
僕は既に25年くらい院長をしているので、転院したクリニックの医師が僕より臨床経験が多いということはまずない。また経験だけでなく、技量的な面でも上回ることはほぼないと思われる。
従って、時間が経ち、即座に入院すべき病態で戻ってくる。
この時の紹介状の文面に、「力不足ですみません」などとクリニック医師が記載しているので、おそらくこちらの技量がわかっているのでは?と思ったりする。なぜ、その医師がそう思うかと言えば、僕の紹介状の内容から推し量れるのだと思う。過去ログに神田橋先生からほめられた話が出てくる。
クリニックの紹介状の経過をみると、悪くなりそうな場面で、適切な対処ができていないと感じる。この薬だけは中止すべきではないとか、この薬からこの薬に変更してもうまくいくわけがないといった変更があるからである。
そのような経過をとった患者さんが、時間が経ち、再び他のクリニックに転院を希望することは不思議なことだ。そして、再入院で戻ってくる(この繰り返し)。その患者さんは非定型精神病で、頑固で言い出したら他の人の助言を聴かないタイプの性格なのである。
入院中の転院も家族や本人の希望があれば受け入れる。一般に入院中で、しばしば隔離されるレベルの患者さんは転院そのものが困難だし、受ける方も嫌がることが多い。しかし、うちの病院では選択できない治療法が可能なら、転院して治療するだけの価値がある。例えば、クロザリルによる治療である。詳細な病歴を記載し、「なんとかご配慮お願いします」くらいに書くと受けてくれることが多い。
僕は、その患者さんが良くなるのであれば、どこで治療しても問題ないというスタンスなのである。