高プロラクチン血症 | kyupinの日記 気が向けば更新

高プロラクチン血症

脳内には4つのドーパミン経路がある。


黒質線条体ドーパミン経路
 運動をコントロール。抗精神病薬の副作用のEPSの出現に関与している。

②中脳辺縁系ドーパミン経路
 快感や薬物乱用による多幸感に関与。また精神病の幻覚妄想にも関与している。

③中脳皮質ドーパミン経路
 精神病の陽性、陰性症状および、抗精神病薬の副作用の認知の面の障害に関与している。

④漏斗下垂体ドーパミン経路
 プロラクチンの分泌をコントロールしている。


抗精神病薬の副作用の1つ、高プロラクチン血症は、上記④の漏斗下垂体ドーパミン経路に関係している。この経路では、普通は、ドーパミンはプロラクチン分泌細胞の表面にあるD2受容体に結合しプロラクチンの分泌を抑制する働きをしている。ドーパミンは本来プロラクチン血症にはマイナスに働くのである。この状況下、抗精神病薬で強くD2受容体が遮断されてしまうと、このプロラクチン分泌の抑制が解放されて、高プロラクチン血症が生じる。血中のプロラクチン値が25ng/mlを超えた場合、高プロラクチン血症といわれるが、経験的には同じように抗精神病薬を服用していてもその超え方にはかなりの個人差があると思う。100を軽々とオーバーしている人もいるし、30~40くらいと中途半端なオーバーしかしていない人もいる。また女性の場合、同じくらいの高プロラクチン血症を起こしていても、無月経を来たす人と通常の月経が来ている人がいる。人によれば月経不順にとどまる人もいる。


ほんの数年前まで、抗精神病薬による高プロラクチン血症は軽視されていた。(無月経がなければ、とりわけプロラクチンを検査しなくても良いという感じであった。) しかし、近年、高プロラクチン血症を起こさない非定型精神病薬が発売されるようになり、急に高プロラクチン血症の研究が進んだ。D2受容体遮断の持続性を下げることや選択性を上げることで高プロラクチン血症を起こさないことがわかってきた。現在の非定型抗精神病薬のうち、最も高プロラクチン血症を起こさないものは、セロクエル である。今年発売になったエビリファイ も高プロラクチンを起こさないことが知られているがその機序は異なる。既発売のルーランジプレキサ も高プロラクチンを起こさない薬物とされているが、どこか高プロラクチンを来しにくい要素がある。同じ非定型抗精神病薬でもリスパダール は高プロラクチン血症を起こしやすい薬物として知られている。リスパダールは、D2受容体に強く、かつ持続的に結合するからである。


①結合が緩く、かつ一過性であるもの
 セロクエル

②結合が緩いが持続的であるもの
 ジプレキサ

③結合が強いが一過性であるもの
 ルーラン


エビリファイは部分アゴニストであり、ドーパミンの神経伝達を完全に遮断しないために、高プロラクチン血症を起こさないといわれる。例えばルーランを投与して経時的に血中プロラクチン値を測定すると、一時的にプロラクチンが上昇するが、その後、速やかに低下するらしい。無月経などの有害作用を来たすためには、持続的にプロラクチンが上がることが必要なのである。逆に言えば、1日に短い時間、プロラクチン値が上がっていても無問題ということなんだろう。セロクエルは緩く結合してすぐに離れてしまうので、全然仕事をしていないように見えるが、これでも抗精神病作用としては十分らしい。持続的に結合することが必要と言うわけではないようなのである。さて、抗プロラクチン血症が持続すると、いかなる有害作用があるかだが、まだ良くわかってないことも多い。


①乳汁分泌
②月経不順、無月経
③無排卵(不妊)
④性欲低下
⑤男性の性機能障害(勃起障害、射精障害)
⑥骨粗鬆症
⑦高血圧?
⑧乳癌?
⑨下垂体線種のリスク?


上記では、特に乳汁分泌と無月経は有名で、ある意味以前はそこしか見てなかった。現在では、薬物治療の際に他の有害作用も避けるべきという感じになってきている。しかし、個人的に上記の乳癌と下垂体線種に関して、リスクは極めて低いと思っている。なぜなら、今までこれだけ精神科をしてきて、乳癌になった患者さんを診たことがないからだ。下垂体線種も同様である。抗精神病薬は何十年も服用するものなので、もしリスクが高まるなら古い入院患者さんは大変なことになると思う。確か、以前勤めていた病院で自分の受け持ちではないが、乳癌になった人が1名だけいた。しかし驚愕することに、この患者さんは乳癌は治癒してしまったのである。精神科の特に統合失調症の患者さんでは、癌が治癒すると言う奇跡がたぶん一般人口より多いと確信する。後日、この話を友人の外科医にしたら、乳癌というのはもう手が付けられない状態で治癒するのは非常に珍しいんだそうだ。僕の患者さんでは、子宮癌も数人治癒しているし、癌ではないが、悪性リンパ腫も2名治癒している。


ある時期、総合病院や民間病院で、なにがしかの精神症状で初診したほぼすべての患者さんにCTを撮影したことがある。1年で1000名以上。思ったことは、基本的に脳腫瘍は非常に珍しい疾患ということ。例えば、下垂体線種とか見つかる場合は、既に初診時にその症状が出ていることが多い。統合失調症と脳腫瘍が同時に合併するなんてことがありえるんだろうかという感覚が僕にはある。無症状の髄膜腫なども偶然見つけたが、それは認知症系の患者さんだった。だから、おそらく上記の⑧と⑨はほとんど有意差が一般人口とないか、むしろ低いのではないかと思っている。


本題に戻るが、臨床的にはセロクエルは傑出して抗プロラクチン血症を起こさない。たぶん最高に起こさない薬物なのは間違いない。ルーランとジプレキサはこの副作用が稀とされているが、僕はジプレキサで1名だけ高プロラクチン血症による無月経を経験している。この時、ジプレキサ単剤だったのでこの薬物が原因で間違いないが、5mgしか投与していなかったので、やはり個人差が大きいと思うのである。ルーランでは僕は1名も経験していないが、友人によれば出現することもあるらしい。エビリファイで、僕は今のところ無月経は経験していない。いまいち、よくわからない機序なのだが、少なくとも上記3剤かエビリファイを処方しておけば、ほぼこの副作用は避けられると思う。以下、2000年9月に2chで質問に答えた過去ログ。以前はこんな風だったといったところ。


87 名前:kyupin 投稿日:2000/09/23(土) 16:50
乳汁分泌の副作用が出た時、薬物療法をどうするかは病状と天秤にかけて考慮します。乳汁分泌は高プロラクチン血症が原因です。
高プロラクチン血症を改善するためには新たに副作用止めを加えなければいけません。だからうつ病や神経症など、この副作用をきたさない向精神薬がたくさんある疾患ならば、ドグマチールを減量、中止して他の薬を使いたいところです。乳汁分泌は心理的なショックはありますが、それで痛みなどの苦痛は無いので、そのまま経過観察することも多かったです。が、僕は乳汁分泌や無月経を放置するのは嫌です。それが自然の状態に反しているからです。パーロデルという高プロラクチン血症の副作用止めがありますが、薬の数が増えてしまうし分裂病などでは、精神症状悪化などの副作用があります。できれば使いたくない。最近、芍薬甘草湯などの漢方薬を使い良好な結果が出ているようです。が、これも電解質異常をきたすなどあり全く副作用が無いわけではないです。


プロラクチンは他の下垂体ホルモンに比べ研究が遅れていました。だから今も、高プロラクチン血症及び無月経を放っておいた場合、長期的にはどんな有害作用があるか、明快な答えは出ていません。ただはっきり言えることは、これらの副作用が重大なものでは無いと考えられていて、さて、どうするかと言った時、放置するという選択肢もあったということです。悪く言えば、副作用に対する無神経さは精神科独特なものと思います(笑)。というのは、薬を止めようにも精神症状が悪化してやめられないケースも多いからです。(←免罪符になっている)  うつ病治療の際、ドグマチールでこれらの副作用が出たケースでは、他に薬はたくさんあるので、とりわけこの薬にこだわらなくてもいいように思います。今のところ、乳汁分泌や無月経があった時の精神科医の対処はさまざまなようです。

(2ch過去ログ VIRTUAL CLINIC OnlineⅡから)


以下の項目を参照

SDA

ドグマチール