スターオブベツレヘム | kyupinの日記 気が向けば更新

スターオブベツレヘム

このブログで紹介する患者さんは入院治療までした人たちが多い。これは僕が精神科病院の医師というのももちろんあるが、入院治療が好きと言うのもある。僕がクリニックは苦手と思うのは、悪化したときに入院治療の選択肢がとれないこと。僕は外来、入院、また外来という感じで、その患者さんのすべての面倒をみたいというのがある。悪くなってから人に任せざるを得ないなんて耐えられないし、患者さんが気の毒すぎる。あと、やはり入院治療の方が治療の幅がずっと広がるし、思い切ったこともできることもある。

今回は知り合いのクリニックで治療がうまくいかず、紹介されてそのまま入院治療を行った年配の女性患者さんを紹介したい。彼女は入院した当時は不安、焦燥感が強く、一時もじっとしていることができなかった。薬物についても、最初は何をやってもうまくいかず試行錯誤の連続であった。

入院当時、どのような経緯だったかもう良く覚えていない。入院してから数ヶ月はとにかく心気症や不安焦燥感から診察希望が多かったように思う。薬に弱いし、薬が嫌いだし、合わない薬も多く、全くヤレヤレと言った感じであった。数ヶ月後、デプロメールとセディールの組み合わせでわりあい良くなった。メインはこの2つだが、他に甲状腺剤やワイパックスも使っていた。また、内科薬として、高脂血症薬、下剤、便秘薬も併用している。

彼女の現在の処方(向精神薬のみ)
デプロメール  50mg
セディール   20mg
ワイパックス   1mg
(普通、医師がこのように書いた場合、1日量を示す)


なんともぼんやりとした処方だが、このくらいでないと副作用が出るし、本人が嫌がるので増やせなかった。この人はなんと1年間くらい入院していたのである。退院後、今ひとつだったのは週末になると心細い気持ちになること。彼女は単身生活なのである。時にはパニックっぽい症状も出て急遽病院に再診することもあった。それでも県外に住む娘さんがたまに帰省すると、数年前に比べずっと良くなっているという。入院中はこの人はもしかしたら、一生この病院に入院しているつもりでは・・と心配したが、強く言って退院させてみて良かった。次第にADLが上がり、今でもうちの病院のデイケアに参加している。彼女は身体面ではわりあい健康で介護保険では非該当なのである。

その後、彼女が週末に心細くなり不安症状が悪化するのは、やはり夫の亡くなった経緯が関係していると思うようになった。彼女の夫は社会的に成功した人でお金持ちであった。仕事をリタイアした後、悠々自適であったが、ある時、整形外科医から手術を勧められ、この機会にと思い受けたのである。

近年の外科系病院は売り上げを伸ばすため、たいして必要のない手術を勧めるのは目に余る。医療機器が高いこともあろうが、手術・麻酔自体に死亡リスクがあることがわかっているのであろうか?

彼女の夫は手術は成功したものの、その後、リハビリ中に突然死したのである。青天の霹靂といえた。なぜなら、その手術はしないならしなくても良いものだったからだ。このような亡くなり方は癌や慢性疾患の亡くなり方と全く違うと思う。家族には心の準備ができていないから。

普通、癌で亡くなるのはそう悪くないと言う人もいる。それは、癌が判明してすぐに死ぬことはほとんどなく、死ぬまでに数ヶ月から時に1年以上猶予があるからだ。本人もその間にやり残したことがある程度はできるし、死んだ後の家族のことも考えることができる。家族の方も同様で、心の準備ができるので、実際に亡くなるまでにそのショックも時間とともに和らぐ面がある。それに対し、脳卒中や交通事故などで亡くなった場合は、そういう心の準備ができない。これは本人も家族も同様である。

しかし、僕は癌で死ぬのは嫌だな。事故も嫌だけど。なぜなら、癌はとてつもなく痛いことがあるから。

よく生前に参っておくとポックリ死ねる御利益があるお寺があるが、ああいうお寺の人気が高いのは、ポックリ死ぬと自分が苦しまないのと家族に迷惑をかけないというメリットがあるからであろう。癌の死亡が良いという意見はこのポックリ寺の人気と相反していると思う。

さて、この女性患者さんだが、まさに予想もしない事件で夫が亡くなり、その直後からいろいろな精神症状が出現したのである。僕は向精神薬だけでは限界を感じており、レスキューレメディなどを併用していた。しかし、症状は和らぐが今ひとつなのである。週末の心細さや不安感などは何か良いバッチフラワーがあると感じた。

そのうち、彼女は心気症から不必要な検査をしたり、人間ドックばかり行っていたこともあり、ミラムスくらいが良いのではないかと思うようになった。ミラムスかアスペンあたりである。

20ミラムス
和名:みぞほうずき
恐れ・悩みのグループの2番目に分類されるレメディ。上位のレメディはホワイトチェストナット。自分に関しての不安が現実化しそうで仕方がない。


2アスペン
和名:ポプラ
恐れ・悩みのグループの最後に分類されるレメディ。上位のレメディはウイロー。抽象的な恐怖にとらわれてしまう。


その後、たまたま百貨店に行く用事があったのと、彼女が僕に任せると言っていたので僕が選んで買ってくることにした。僕はその時点ではミラムスを買うことにしていた。すべてかどうかは知らないが、バッチフラワーは百貨店でも売っているらしい。これは僕の患者さんから聞いた。通販でしか買ったことがない人も多いと思うが、実際に百貨店でバッチフラワーを見ると壮観である。そこには試験管入れのような木の棚にすべてのレメディ(38種類)が揃っているからだ。

その木の棚を見た瞬間、ちょうど中央あたりにあるスターオブベツレヘムに目がいき、すぐにそれを手に取ってみた。その時、彼女にはスターオブベツレヘムの方が良いかもしれないと思った。ふと、彼女のご主人が亡くなったいきさつを思い出したのである。

29スターオブベツレヘム
和名:おおあまな
逃避のグループの最初に分類されるレメディ。上位のレメディはウイロー。自分の現実があまりにもつらくむごく思えてしまい、人生の重荷にこれ以上耐えられないと思えてしまう。


スターオブベツレヘムは最もトラウマに関係が深いレメディと思う(たぶん)。しかし彼女の場合、普段はそのような悔やみみたいなものを全然言わないので、ついつい表面的な症状に目が行ってしまっていた。あの夫の事件を考えると、スターオブベツレヘムの方が合ってもおかしくない。

僕は手のひらにスターオブベツレヘムを持ち、そんな風に思っていたのである。スターオブベツレヘムのラベルはピンク色をしている。そういえば、ミラムスもアスペンも赤~ピンク系のラベルである。ラベルが似ているじゃんと思った(←意味不明)

結局、ミラムスを買いに行ったのに、なぜかスターオブベツレヘムを買ってきてしまったのであった。

彼女はスターオブベツレヘムをレスキューレメディと一緒に現在服用しているが、なんだか細かい不安がずいぶん減少したように思う。週末の心細さもずいぶん減ったと思うよ。(実はレスキューにもスターオブベツレヘムが入っている)

ワケがわからないが、とにかく結果オーライだったのである。

参考
魔法の薬
魔法の薬、その後
バッチフラワー
オリーブはうつ状態の全身倦怠感に効くのか
デプロメールとレスキューレメディ&PMS
子供の頃から希死念慮が続いている人
子供の頃から希死念慮が続いている人(補足)
アスペルガーの人の恨みは海よりも深い
薬物に対するプラスのイメージ
アナフラニール、トリプタノール、ノリトレン
バッチフラワーの副作用について