双極Ⅱ型の軽躁状態と普通に調子が良い時の相違について | kyupinの日記 気が向けば更新

双極Ⅱ型の軽躁状態と普通に調子が良い時の相違について

双極性Ⅱ型では、主に「双極性うつ」が問題になることが多い。双極性Ⅱ型の人たちの困難さは、ほとんどの人が躁状態ではなく「うつ状態」に起因する。また、軽躁状態が収束するに従いうつ状態が生じることも多く、軽躁状態の程度(ボリューム)や持続期間も無関係ではないと言える。

 

今回は双極性Ⅱ型の軽躁状態のボリュームについての話である。これらはもしかしたらスペクトラム的なもので、さほど臨床的意義がないのかもしれない。

 

ある日、「最近調子が良いんですよ」と双極性障害の患者さんが言った。その患者さんは発病以来20年以上経っており、短い軽躁状態と、数か月続くうつ状態を繰りかえす臨床パターンであった。

 

その患者さんに、「それは軽躁状態ではないですか?」と聴いたところ、「いや違います」と言うため、「軽躁状態」と「普通に調子が良い」の差を聴いた。

 

その患者さんによると、明確に軽躁状態の時は、

 

〇会社まで10㎞以上あるが、毎日、スポーツタイプの自転車を使って通勤する。雨の日もカッパを着て運転するが苦にならない。

〇スケジュールをいっぱいに詰め込む。

〇今まで溜まっていた収集品をきちんと整理する。しかもエクセルで管理する。

〇映画を観始める。興味のある映画。DVDを借りてくる。あるいはアマゾンプライムやネットフリックスで観る。

〇外出が多い。人と会うことも多い。(特に友人)

〇仕事は精力的にできる。

 

このようなハイペースで生活しているうちに、ある時、変曲点を迎え、突然ほとんどのことができなくなる。そして次第にうつ状態になり、しばらくは外来治療を行うが、結局、入院になる。この経過にならないことの方が稀である。

 

普通に調子が良い時。

〇スケジュールをつけることはするが、詰め込まない。スケジュールは仕事上必要なのでつける習慣がある。

〇外出は増えない。調子が良いことを実感しているが、家にいることが多い。

〇大掃除や整理整頓まではしない。

〇会社には普通に車で行く。自転車で行くと、会社に着いた時点でもう疲れているので。

〇雑誌、新聞、興味のある本が普通に読める。

 

「普通に調子が良い」時は、内容を観ると普通の生活状況に見える。双極性うつ状態で、入院していない時は、午前中に動いたら午後は横になっている状況なので、それに比べると、ずっと好コンディションに見える。

 

質的には最初に挙げた「軽躁状態」の状況があるので、スペクトラムに見えないこともないが、本人が否定しているので、そういう感覚はないのだろうと思う。

 

この人は「軽躁状態」と「普通に調子が良い」では、他人に迷惑をかけることがない。そのレベルの躁状態に達しないからである。しかし、うつ状態は入院まであるので、少なくとも苦悩は結構ある。軽躁状態~うつ状態は一連のものなので、軽躁状態で元気が良くても決して喜べない。本人もそのあたりのことは理解できている。

 

双極Ⅱ型なる病態は、躁状態のボリューム(つまり重篤さ)が双極Ⅰ型ほどではない疾患である。つまり双極Ⅱ型は、躁状態の重さによって決まる部分が大きい。

 

本人の視点で双極Ⅱ型の軽躁状態の洞察(この場合、重さの吟味)ができることこそ、躁状態が重くはないことを証明している。

 

双極Ⅱ型は実は躁状態とうつ状態の2局面だけあるのではなく、軽症状態だけでも程度の異なる2段階ないし数段階のレベルが存在していることが推定できる。

 

また、うつ状態でも家でほとんど動けないが、入院までは至らないレベルと、どうしても入院しないといけない数段階のレベルが存在しているように見える。うつ状態では人にもよるが、いつもイライラして家族と口喧嘩が多くなる人もいる。うつ病的な不機嫌である。そのような人は本人は入院して貰った方が家族は助かる。うつ状態の入院は希死念慮の程度、家族との人間関係の悪化などが判断材料となる。

 

参考