クリニックで自立支援法の診断書をあまり勧めない理由 | kyupinの日記 気が向けば更新

クリニックで自立支援法の診断書をあまり勧めない理由

民間の精神病院は基本、外来患者さんに自立支援医療(自立支援法)を勧める。しかし、心療内科及び心療内科クリニックではあまり勧めないことが多いと思う。

 

なぜそう思うかと言えば、クリニックから転院してくる患者さんがその制度を知らないことが稀ならずあるからである。

 

診断書は書くこと自体は簡単で、近年はクリニックはほぼ電子カルテになっているので一層、容易になった。コピペで済む部分が大きいからである。

 

昔はクリニックに通う患者さんは平均して働いている人が多いことや、主治医が自立支援法の診断書を書くのが面倒だからではないかと思っていた。(実際、かつて精神科病院ではそのように言われていた)

 

また、積極的に書かない理由として、公的機関に提出することにより、患者さんが精神科に通院していることが他人に漏れてしまうなど、精神科のスティグマを利用する悪質なアドバイスもあったと思われる。公的機関がそのようなことを外部に漏らすのは違法行為である。普通、心配するには及ばない。

 

就労して年収がある程度あると除外されたり支払い上限が設定されるので、年収が高ければ高いほど自立支援法を受ける意味が薄れる。また年収が高いと、3割負担が1割負担になったとしても、その人にとって大した差ではないと思う人もいるかもしれない。(思う人は主治医)

 

そのようなこともクリニックであまり勧めない理由の1つだと思われる。

 

市町村民税が235000円以上、年収だと833万円以上では自立支援法は対象外になるが「重度かつ継続」だと自己負担上限が2万円であった。ただし、令和6年4月からはこの2万円の上限がなくなる。(この特例措置は令和9年3月31日まで延長されたとのことです。訂正します)

 

 

 

ただし、外来治療で自己負担が2万円までかかることはまずない。デイケアに毎日来て、訪問看護も受けるような人は自己負担2万円の打ち止めに達する可能性がある。精神科は医療費が安いからである。(自費で支払ったとして、外来だけで月20万円に達することはほぼないと言う意味)。

 

年収が概ね400万から833万の間の人は上限が1万円になる。これは1割負担で1万円なので、つまり自費で10万円と言う意味である。クリニックの場合、デイケアをしていることがほとんどないため、月に来院する日が1日か2日の人が多く、1万円はまず超えない金額である。

 

自立支援法を受けない場合は3割負担になるので、高価な薬を処方されている人は結構支払わないといけないケースもあると思われる。例えばジスバルなどである。

 

 

上記から抜粋。

今回、遅発性ジスキネジア治療薬が新発売された。ジスバルという商品名で白のカプセルである。40㎎の1剤型しかなく、かなり薬価が高い。1カプセル約2331円もするため、1か月で7万円もかかる。しかも適宜増減でき80㎎まで投与可能なので14万円までかかりうる。

 

ジスバルを処方されるような人は自立支援法を受けるべきだ。薬だけ切り取って計算してみても、21000円負担と7000円負担は大差である。自己負担上限が低い人はなお良い。

 

年収290万から400万くらいの人は月の自己負担上限が5000円まで下がる。大雑把に言えば、それ以下は上限2500円である。地方の民間精神科病院で外来通院する人のほとんどは、上限が5000円か2500円である。

 

だから自立支援法を受けると、月間で5000円か2500円以上は窓口で支払う必要がない。

 

精神医療費が比較的安価なこともあるので、クリニックではさほど影響がないと思うかもしれないが、3割負担が1割負担になることは結構大きいと思う。月間6000円支払うところが2000円になるからである。

 

たまに、民間の精神科病院から転院してくる長期通院中の人が自立支援法を受けていないことがある。これはたぶん、その人の年収的に、その人にとってたいした負担ではないと主治医が判断していると思った。つまり患者さんを見て判断しているのであろう。

 

あるいは、長期に通院しそうにない患者さんは、自立支援法診断書を書いたとして、診断書料金と診断書を書く労力が無駄になることもある。これも勧めないのは、患者さんを見て判断していると思う。

 

細かすぎて微妙な点を挙げれば、自立支援法は通院する病院と院外薬局が決まってしまうので、本人が転院したいと思う時、それを病院に伝えなくてはならない。言わないで転院したとしても、自立支援法も引っ越しになるので、結果的に伝わってしまうのが患者さんにストレスと言うか気になることであろう。(地方により、2つの病院を指定できることあるらしい。あるクリニックに通院し、他の病院のデイケアに通うのは自立支援法でも可能)

 

しかし前病院やクリニックがある場合、紹介状がないと診ないという病院やクリニックもあるので、そこまで自立支援法の有無は関係しない。

 

自立支援法は、基本、精神科の薬に限られているため、例えば、甲状腺剤は精神疾患に適応がないので認められない。うつ病や双極性障害の治療マニュアル的には使う場面があるが除外されているのである。同じ理由で抗癌剤やリウマチなど膠原病の薬、降圧剤などもそうである。

 

一方、便秘薬はたいていの向精神薬で副作用として挙げられているので、安価な便秘薬であれば認められる。一方、アミティーザやリンゼスは高価なので不可である。

 

この辺りの線引きはかなりローカルな面があり、地方によれば認められているところもあると思われる。

 

このような話が出るのは、既に予算的に自立支援法が継続できるか怪しくなっているからだと思う。これは精神医療そのものも破綻しかねない話である。

 

かつて、外来で麻酔下ECTを実施し1ヵ月の外来医療費が軽く100万を超え、自立支援法のチェックの先輩精神科医から苦情が来たのは今は昔の話である。なぜ100万を超えたかと言うと、当時まだ麻酔下ECTが「まるめ」ではなかったからである。(麻酔をするだけで大変な額)。

 

この話は2000年以前の話だが、査定はされず、今後は入院させて麻酔下ECTをするように注意を受けた。更に、自立支援法は高額医療を想定していないと言われたのである。

 

このように、自立支援法も厳格な運用をすべき時代が来ているのである。