大阪に着いた。朝の7時過ぎだった。
マサミの知り合いのタカヤの家に初めは行った。タカヤは17歳だったが、結婚していて(もちろん籍は入っていないが)一歳の子供がいた。
奥さんは私と同じ歳で、小さなマンションに住んでいたけど、とても幸せそうだった。タカヤの家で、吉野屋の牛丼を食べた。何時間ぶりの食事だったので、とても美味しかった。今でも、吉野屋を食べるとこの時の風景が頭に浮かんでくる。
この先、どうなるのか?
○ちゃんは結婚なんて向いてないんだから!
私の事を、よく知ってる親友だから言えた言葉だったが、結婚を決めたばかりの私には凄くこたえた。それが、当たっているから、なおさらこたえたのだけれど...私は言い返す言葉もなく「そうだよね。」というしかなかった。
話を戻して...それから、私たち5人は某有名なヤクザの事務所で寝泊りする事になった。マサミの紹介で福島区のスナックで働き始める事になった。夜の8時から、朝の5時まで。私は、再び夜の世界へと入り込んでいった。酔っ払って朝方帰って寝るという毎日。仕事はそれなりに楽しかった。だけど、何か足りない。毎日の生活で、何か足りなかった。
男がいない
事務所はキッチンと洋室、和室それぞれ一つづつの小さなマンションだった。毎日、みんなで雑魚寝だったのに、ある日隣の部屋から、カイが私を呼んでいる。小さな声で、みんなに気づかれないように...
「○ちゃん、こっちに来て。」
誘ってるってすぐに判った。
地元でみんなで遊んでいる時にも、カイは私と二人きりになりたがった事が何度かあった。一度だけ、酔った勢いでみんなに隠れて狭い路地裏で、キスしたこともあったし。
私も、しばらくセックスしてないし、カイは年下だけど織田裕二に似たイケメン。わりと気に入っていた。
「○ちゃん、俺の気持ち分かってるはずだよね。」
「はぁ、なんとなくだけど...」
「何でだよ?俺とシンジどっちがいいんだよ?」そりゃ、絶対カイ!!
「カイがいいよ?でも...」カイは強引だった。
そう言ったときは、もうキスされていた。
以外に手の早いカイは、私を自然に押し倒してきた。隣の部屋との襖は、開けっ放し。みんなは寝ているが、いつ起きて見られるか判らない緊張感が心地よかった。
こうなったら、私は敏感に反応してしまう。声を殺すのに精一杯だった、
「カイ。襖閉めてよ。」
「何で?みんな寝てるって、せっかく盛り上がったのに...」
ブツブツ言いながらも、カイは襖を閉めた。
仕事から帰った、明け方6時頃の明るくなり始めた部屋。うっすら見えるカイの綺麗な顔。久しぶりのセックスなのに、声を押し殺しながらのセックス。 みんなに気づかれる前に終らせなければ。
「カイ、早く。」
「もう、いいの?まだ、これからなのに?」
「もういいって。みんなが起きるから。」
「解ったよ。ムードないなぁ...」
やっと、カイの物が私に入ってくる。
カイはどんなセックスをするのだろう。その時。
ザザザザザザザ!襖が開いた!
マサミだ。
「お前ら何してるんだよ?黙って聞いてたんだ。ちょうどいいところで開けようと思って...」マサミはニヤニヤ笑っている。
「あんた、性格悪いよッ。なんなのよ?私の裸まで見やがって。」そう、私とカイは全裸になっていたのに。この場を開けられたら、恥ずかしいなんて言ってられない。
カイは先輩のマサミには何も言えない。「マジで、性格悪いなぁ、せっかく久々にセックスしようと思ったのに。台無しじゃん。」服を着ながら、マサミに文句言ってやった。
「ごめんごめん。あっちに行くから、続けてよ。オヤスミ。」って言って隣の部屋に戻っていった。再開できるはずがないじゃんね?
この日は、ここでカイとのセックスは終ったのだけど、私とカイはなんとなく付き合うようになった。この後は、それぞれセックスする時に、隣に誰がいても気にせず平気でするようになった。今は、もちろん無理だけどね。この頃は、こんな環境だったから仕方なかったのだ。
ある日、私と亜美は仕事を休んで、ナンパに行く事を計画した。
マサミとカイには仕事にいくと言って、店には理由をつけて休んだ。8時から5時までの自由時間。大阪に来たからには、大阪の男も味見しとかないとね。ってそんなお気楽な考えだけだった。
とりあえず駅に向かった。駅周辺で何台かの車に乗った男達に声をかけられたが、タイプじゃない。こんなチャンスは滅多にないから慎重に選ばなきゃね。30分ほどたった時だったろうか?遠くから叫び声が聞こえた。
「こらぁ!きさんら!なんしょんか?!」
マサミ達だ!
マサミは凄い形相で走ってきて、亜美に殴りかかってきた。駅前でたくさんの人が見ている中で、亜美の顔はボコボコにされた。
「○子さん、なにしちょんね?」
「仕事行きたくなかったからここにいただけじゃん?」
「何で、こんな所におらんといけんと?」
「帰ったらあんた達がいるじゃん?あんた達、何で私らにそんな事いえるの?文句あるんだったらあんたら働いてからいいなよっ。」
「もうよか。○子さんには関係なか。これは俺と亜美の事たい。」
それから、亜美はマンションに着くまでの30分、歩きながら殴られ続けた。
マサミは何処からか1メートルほどの角材を拾ってきて、それで亜美を殴りだした。私が、止めようと亜美をかばっているとカイとシンジが私の邪魔をする。○ちゃん、離れてって。そんな事言われても、こんなに殴られてる亜美をそのままにしておく事なんて出来ない。私は、カイにとめてって頼んだけど、カイは止めてくれない。私はどうしたらいいのか、解らなくなって泣きながら、マサミの腕を掴んで止めようとした。それはまったく無視されて、私の手は何度も跳ね飛ばされた。
マサミは普通の状態じゃなかった。
亜美はこれまでも何度となくマサミに殴られ続けていたのだ。
亜美はいきなり走り出して、近くのマンションの屋上まで上っていった。そしてマンションの屋上から助けを求め出した。
「ぎゃあ〜!助けて!殺される!」
亜美も普通の状態じゃなかった。気が狂ったように叫んでいる。そしてマンションから飛び降りようとした。
「殺されるくらいなら死んでやる!」
「きさん!勝手に死ぬことな許されると思っちょんね?」
マサミに引き摺り下ろされ、その場でボコボコに殴られている。
こんな光景をカイとシンジは嫌というほど見てきたのだ。その度に何度もとめようとしたけど、周りがマサミを阻止すればするほどマサミの暴力はエスカレートしてくのだそうだ。まるで火に油を注ぐように。
カイがいった。
「こうなったマサミくんは、落ち着くまで黙っとかないと亜美さんはもっとひどい事をされるから。お願いだから○ちゃん、そっとしといてやって。」
私は、亜美の為に黙っておく事にした。
今思うと、警察に届ければ済む事だったのに、この頃の私達に、【警察に助けを呼ぶ】なんて手段があることなどこれっぽちも頭になかった。だけど、この日亜美が、死ななかったのが不思議なくらいである。この日の夜8時半くらいから、次の日の夕方まで、マサミの拷問は続けられた。
丸30時間ほど
私達はその間、その部屋に入る事も、マンションから出ることも許されなかった。
隣の部屋から、聞こえてくるマサミの怒鳴り声と亜美の叫び声。狂気に満ちた二人の声。隣で30時間もこの声を聞いていた私達三人も、頭がおかしくなりそうだった。
何十時間も黙って二人の声を聞いていた。拷問が終わりに近づいた時、マサミの怒鳴り声は不気味な笑いを含めた声になっていった。それが、さらに狂気を感じさせた。
カイはわかったようだ
顔は原型がわからないほど腫れ、足や腕には刺青のように青あざがつけられ、ところどころにライターで焼かれたやけどの跡さえもあった。なのに、亜美は何もなかったかのように、笑っているのだ。
これがDVというものだったのだろうか?あれだけの間、拷問を受けてもその相手とセックスをする亜美。そしてその後は何もなかったかのように、店に行く準備を始めた。長い髪で顔のあざを隠しながらも、亜美は笑顔で働いていた。
フタリノカンケイハ
信じられないかも知れないが、これが私が18歳の時に体験した出来事。今、自分で書いていてもあの生々しい声が聞こえてくるようだ。
普段は超優しい人なんだよ?
10年前は、亜美の気持ちが少しは理解できていた。その優しさがあるから、何をされても我慢できるのか?それだけじゃない。こういう男達は、暴力すらも愛と勘違いさせてしまう何かを持っているのだ。
「この人は、私を愛しているからこそ、私を殴るんだ」って。そこに愛なんてこれっぽっちもないはずなのに。そんな支配や、恐怖心をうえつけられるほど、怖い事はないと思う。
きっともし、そんな男に出会っても、二度と、どん底まで引っ掛かる事はないと思う。気づくのが早ければ早いほど抜け出せる道は、近いことが解ったから。
亜美は、幸いな事に何年かしてマサミと別れる事ができ、優しい男と幸せな結婚した。私が23歳の時、地元のスーパーでばったり会った時、来年結婚するんだって嬉しそうに話していた。
その後、子供が産まれ花屋で働いてる姿を見かけたのが、私と亜美の最後だ。今、どうしているのだろう。平凡で幸せな生活を送っていて欲しい。
私と違って...
この後は、マサミと亜美は普段は凄く仲が良かった。
私とカイも上手く行っていた。カイは私にゾッコンだったし。
男達は、私達が働く店のマスターの経営する建設業で働き始めた。
先の事など何も考えてなかったこの頃。
毎日が退屈じゃなくて、楽しければそれでいい。
上手くいっているつもりだった。
私達はヤクザの事務所から、店の寮に移り住んだ。
このマンションに突然、警察が乗り込んできた。
「お前達は包囲されている!」の時に使う【盾】を持った警察が20人ほど。
部屋の鍵は、こじ開けられ私達がどれだけの凶悪犯なのかと思えるくらい。
まるで、映画のワンシーンみたいだった。